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お待たせしました
りんが務める店がある町の人目につかない場所に出現した世愛はそこから歩いて店へと向かっていた。
「し、しつれいします…」
こじんまりとした店の前に辿り着いた世愛は控えめに声をかけながら扉を開けた。扉が来店を告げる鐘の音を鳴らしながら開け放たれると店の中には色々な機械やその部品などからお菓子などの食料品など様々な物が取り揃えてあって客も数人いたがその中でも目立っている若い女性がいた。女性は何やらりんに詰め寄っており、りんはそれに紳士な対応をしていた。
「っ…また明日きます!私、諦めませんから!」
店の中へと入り、何事だろうと世愛たちは見つめていたが周囲の視線に気がついた女性は涙目でそう言うと足早に店から出て行ってしまう。
「申し訳ありません。お騒がせいたしました」
りんは店の中にいた客たちに対して一礼をし、やり取りを見ていた客たちは何事もなかったかのように商品を見始める。
「あの…大変でしたね…」
世愛は声をかけながらりんへと近づいていき、ユリアと遊佐はそれに続いた。
「おや。貴方がたは…大丈夫ですよ。それよりもお買い物ですか?」
りんは世愛たちに気がついて車椅子のボタンを押した。すると車椅子は自動で動いて世愛たちが世愛たちがいる方向へと向きを変える。
「えーっとお買い物ではないんです。ちょっもりんさんに用があって…」
世愛はりんの目の前で立ち止まる。
「私に?何のご用でしょう?」
りんは不思議そうな顔をして首を傾げる。
「ちょっとここでは聞きにくいことなんだ。人目のない場所に移動してくれると助かる」
あの研究施設の存在やクローンの話などを少人数とはいえ他の人がいる状態で聞いていいものかと答えられずにいた世愛の代わりに世愛の後ろにいた遊佐が口を開いた。
「わかりました。では先に店の裏に行っていてください。他の者に声をかけてから私も向かいますので」
りんは小さく頷いて返事をしたあと、車椅子のスイッチを押して店の奥へと向かった。それを見送った遊佐と世愛、ユリアは店から出て店の裏へと向かう。
「…さっきからどうした?何か考えているようだが」
店の裏へと辿り着いて早々、遊佐はユリアへと声をかけた。
「…あ、いえ。個人的なことなのでお気になさらず」
少し難しい顔をして考え事をしていたユリアは声をかけられたことで表情を戻し、遊佐へと目を向ける。
「そうか…」
個人的なことなら…と遊佐は興味をなくし、ユリアから目を逸らした。
「すみません。お待たせいたしました」
そして他愛もない会話を三人が…主にユリアと世愛がしているとりんが声をかけながら姿を現した。りんが現れたことで世愛たちは会話ん中断し、りんへと目を向ける。
「それでご用件は?」
遊佐たちの近くで車椅子を止めたりんは問いかける。
「オリジナルについてだ」
遊佐は答えるように口を開いた。
「オリジナルについてですか?」
その問いなら人目のある店の中ではできないなと思うと同時にりんはどうして今更そんなことを聞くのだろうと首を傾げる。
「ああ。オリジナルについて知りたいんだ。何かないか?」
遊佐は真剣な眼差しでりんを見つめ、りんは顎に手を当て考え始める。
「些細なことでもいいんだ…」
そんなりんに遊佐は更に言葉を続けた。
「申し訳ありません。過去を思い返してみたのですがオリジナルの情報は秘匿とされていて名前すらわかりません…」
りんは顎が手を離し、申し訳なさそうに答えた。
「そうか…」
遊佐はりんの返事を聞いてこれからどうするかを考え始めた。
「オリジナルに関する情報が知りたいのでしたらあの施設内を探索すればよろしいのでは?」
りんは学園の地下のことを思い出し、口を開いた。
「既に探索はした。だが知られたくないのか機器類は全て破壊され、入手できたのはこの資料のみ…訳あって俺は今、この資料を確認できないんだ。研究資料かもしれないと考えると世愛にも読ませられないし、八方塞がりになったからあんたを訪ねた」
遊佐は首を小さく振ったあと、答えた。
「なるほど。そうですか…ではその資料、私に見せていただけますか?オリジナルの情報が記載されていた場合、書き写しますので」
りんは遊佐に向かって手を差し出した。
「いや…それは…」
遊佐は出し渋った。精霊の愛し子である世愛は害していないが、下手に渡して自分と同じようになっても困るからだ。
「…世愛ちゃん。彼に資料を渡してください」
だがそんな遊佐の考えとは逆なのかユリアが口を開いた。それを遊佐は何を言い出すんだとユリアへと目を向け、世愛はそんな遊佐とユリアを交互に見ながらどうすればいいのかと困惑する。
「大丈夫です。彼なら触っても」
ユリアは真剣な眼差しで遊佐を見つめた。
「…わかった。世愛。資料を渡していい」
遊佐は少しだけそんなユリアのことを見つめていたがこの顔は恐らく何か思うところがあるのだろうと判断し、世愛へと指示を出した。
「ど、どうぞ」
世愛は戸惑いながらもりんの目の前へと移動し、恐る恐る資料を差し出す。
「ありがとうございます。二、三日時間をください。知りたい情報がなくとも全て書き写します」
それを受け取っても特に氷漬けにされることも激痛が走ることもなかったりんは大事そうに資料を持った。
「あ、ああ。わかった。待ってる」
りんが触れても大丈夫だったのなら落ち着いたのかと資料を見ていた遊佐だったが、りんに声をかけられたことでりんへと目を向けて答えた。
「では私は店に戻り」
「りん!もう大丈夫そう?りんに相談があるってお客さんがっ!」
遊佐の返事を聞いて店に戻ると宣言しようとしたりんの声を遮るように雷の声が聞こえてきた。
「あ、はい!今戻ります!…すみません。これで失礼しますね」
りんは雷に返事をしたあと、遊佐たちに向かって一礼をしてから車椅子のスイッチを押して店へと向かわせた。
「……あんまりりんを拘束しないで。彼、相談に乗るのが上手いから客に人気なんだ。ただでさえ運命を感じているらしい変な女に毎日時間をとられて迷惑してるんだから」
りんがいなくなったあと、雷は吐き捨てるようにそう言うと店へと戻っていった。
「変な女の人…」
世愛は先程、りんに詰め寄っていた人がそうなのかな?と思いながら小さな声で呟いた。
「…あいつが触れても大丈夫だとわかっていたのか?それとも落ち着いていた?」
遊佐はユリアへと目を向け、静かに問いかける。
「落ち着いてはいないと思います。ただ少し…」
ユリアは小さく首を横に振ったあと、言葉を詰まらせてしまう。
「少し、なんだ?」
遊佐はそんなユリアをじっと見つめた。
「いいえ。確証を持てていないことなので言うのはやめます。ですから確証を得るために魔界へと向かいましょう」
ユリアは遊佐からの視線から逃れるように目を閉じた。するとユリアは眩い光と共に姿を消してしまう。
「話が全く見えないがちょっと行ってくる。世愛は一人で調査しようとは思わず、家に帰って大人しく待っていてくれ」
遊佐ら意味がわからないといった表情をしてユリアを見送ったあと、その顔を世愛へと向けてそう言うと目を閉じた。すると遊佐は黒いモヤに包まれる形で姿を消してしまう。
「…誰もいないよね?」
それを見送った世愛は気配を察知するのが遊佐よりも乏しい為、辺りを見渡して周囲に誰もいないことを確認したあと、すぐに目を閉じたのだった。
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