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「…お腹いっぱいです」


暫く時間が経過し、料理を完食した世愛は満足そうにお腹を摩った。


「…あれ、全部食ったのか」


そこへお茶と救急箱を持った遊佐が姿を現し、遊佐は料理の無くなった皿の上を見て顔を痙攣らせる。


「美味しかったですし、最近ろくに食べていなかったので…」


世愛は恥ずかしそうにしながら答える。


「そ、そうか…あ、さっき転んだろ?置いとくから食休めして風呂入った後、自分で手当てしろ。風呂入ってもう沸いてる」


遊佐はテーブルの上にお茶を、救急箱を床に置いてから風呂場がある方向を指差した。そしてその後、テーブルの上の食器を纏め始める。


「あ、手伝います!」


世愛はそんな遊佐を見て慌てて立ち上がり、手を伸ばす。


「いい。それより今日はゆっくり休め」


遊佐は纏めた食器を全て持ってキッチンへと姿を消してしまう。


「あ…」


そういうわけにはいかないと世愛は遊佐のあとを追おうとしたが先程手に取った本が広がった状態で落ちている事に気がつき、慌てたように拾い上げて折り目がついていないか確認し始める。


「…よかった。折り目とかはついてない…ついてないけど…」


そして折り目などがついていない事をか確認し、安易した世愛だったが不思議そうな顔をしてペラペラと本を捲り始めた。 


「言語は一緒って言ってたけど文字は違うのかな?それともこれだけ読めないのかな?」


本を閉じた世愛は元あった場所にその本を置いた後、違う本を手に取りペラペラと捲り始める。だがその本も読むことが出来ず、その後も読める本がないか色々な本に目を通してみたがいくら目を通しても世愛が読める本は一つも無かった。


「やっぱり読めないや…今すぐに知りたいって気持ちはあるけど今日はもう休まなきゃ…後でエリザベスさんにでも聞こう」


探究心から世愛は今直ぐにでも知りたかったが遊佐に言われたことを思い出して諦め、本を元あった場所に戻した。そしてその後直ぐに冷めてしまったお茶を一気に飲み干し、風呂場へと向かったのだった。






風呂から上がり、今まで着用していた服がボロボロだった為、大きさの問題はあったがそれでも無いよりはマシだと遊佐から借りた服を着用し、傷の手当てを終えた世愛は客室がないという理由から遊佐が使っている寝室のベッドを借り、そこで眠っていた。


「…嫌っ!」


深夜。嫌な夢を見た世愛は真っ青な顔色で飛び起きた。


「っ…ゆ、夢…?」


世愛は震えながら辺りを見渡した。そして自分がいる場所が安全な場所で知った世愛は安易したように再びベッドへと横になり、側にあった大きなぬいぐるみをギュッと抱き締め、静かに泣き始める。


「……だからぬいぐるみでしたのね」


世愛の声に反応したのは戻ってきて服作りをしていたエリザベスで、エリザベスは部屋の外からこっそりと世愛を見つめ、呟く。


「俺はぬいぐるみなんて持っていないからな」


遊佐はエリザベスが壊した扉を直しながら答える。


「遊佐はこうなることがわかっていましたの?」


エリザベスは遊佐へと近づいていく。


「ああ。神と契約したり、違う世界に渡ったりと色々なことがあり過ぎていっぱいいっぱいだったろうからそうは見えなかったが、嫌な思いをしてきたんだ。休めば悪夢を見ると思ったし、採寸をさせなかったのは少しでもあのチビへの負担を減らす為だ。いっぱいいっぱいになっていてもストレスは蓄積されるからな」


遊佐は手を止め、寝室の方へと目を向けた後でエリザベスを見る。


「……もしかして契約についての説明をされなかったのもわざとですの?」


遊佐の邪魔にならないようにしつつ近くに座り込んだエリザベスは首を傾げる。


「あのチビのことを考えての事だ。一気に説明されても頭が追いつかないだろうからな」


遊佐は扉へと視線を戻し、修復作業を再開する。


「でしたら面倒臭がらずに初めから素直にそう言ってくださればワタクシも後回しにしましたのに…」


エリザベスは一気に説明してしまったことで世愛の負担になっていないか心配し、寝室へと目を向ける。


「面倒だったのは本当のことだったからな。それに素直に言えばあのチビは気を遣わないでくださいと言ってきそうな気がした」


遊佐は真っ直ぐ手元だけを見つめ、修復を続ける。


「そこまで考えていたなんて…遊佐はやっぱり優しい子ですのね!ワタクシ、感動しましたわ!」


エリザベスは感激の目を遊佐へと向ける。


「優しくなんてない。ただ似た境遇の奴をあのチビを見て思い出しただけ」


扉の修復を終えた遊佐は立ち上がる。


「それじゃ俺、情報収集してくるからエリザベス、あのチビのこと頼んだ」


遊佐はエリザベスへと目を向ける。


「え…?遊佐はお休みになられませんの?」


エリザベスは驚いたように遊佐を見つめる。 


「早々に解決して本来の目的に戻りたい。それにこの時間なら目立たずに行動しやすい」


遊佐は軽く体を動かし、準備運動をする。


「明日、世愛が起きてからでは遅いんですの?ワタクシ、心配しておりますの。ここ最近の遊佐はろくに寝ておりませんから」


エリザベスは心配そうに遊佐を見つめる。


「チビが持つ知識だけでは駄目という可能性もあるかもしれないし、それに必要最低限の睡眠はとっているから問題ない」


遊佐は準備運動を止め、エリザベスへと目を向ける。


「……本人がそういうなら大丈夫ですわね。ですが無理をなさらないでくださいね」


エリザベスはそれでも心配そうに遊佐を見つめる。


「善処する」


遊佐は短く返事を返すと目を閉じた。すると遊佐は眩い光に包まれ、一瞬にして姿を消してしまう。


「…ワタクシは世愛が着用する服作りを再開しませんと…ですがその前に」


遊佐を見送ったエリザベスは寝室へと近づいていった。


「……寝ておりますわ」


そして部屋の外から寝息を立てている世愛の姿を確認するとほっと胸を撫で下ろした。そしてその直ぐ後でエリザベスはソファーへと近づいて座り、服作りを再開したのだった。


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