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26

日が沈み、既に学生たちが寮へと帰って静まり返った学園を遊佐は物陰からじっと見つめていた。


「……おまたせ。遊佐」


そんな遊佐の元へと煉が姿を現す。


「…思ったよりも早かったな」


遊佐は煉へと目を向けた。


「運ぶの一人だけだったから」


煉は隆彦を地面へとおろし、手を人の手に戻すとその手で隆彦の体を揺さぶった。


「瑞樹はっ!」


すると隆彦ははっとしたように目を覚まし、勢いよく上体を起こして辺りを見渡した。


「まだ学園内じゃない」


そんな隆彦に向かって遊佐は答えた。


「そっか…」


隆彦は落胆したように俯いてしまう。


「俺一人なら中に入れなくもないが煉とあんたはここを開けないと敷地内に入れない。だから開けてくれるか?」


遊佐はそんな隆彦から目を逸らし、学園の門を手で示した。


「開けなくても飛び越えられるよ?」


煉は門やその両隣にある高い塀を見たあと、遊佐へと目を向けた。


「見えないセキュリティがあるかもしれないだろ。だから飛び越えるのは止めてくれ」


遊佐は煉へと目を向け、小さく首を横に振った。


「そういうことなら任せろ!」


隆彦は立ち上がり、腕捲りをした。そして門へと近寄り、開けようとしたが何故か開くことが出来なかった。


「…あれ?」


隆彦は門が開かないことに困惑した。


「開かないの?」


煉は不思議そうな顔をして首を傾げた。


「開く筈なんだけど…」


隆彦は困惑したように門を見つめた。


「……門限とか?」


遊佐は門へと近づいていく。


「いや。いつ魔物が出るか分からないから門限とかは無いはずなんだけど…」


隆彦は遊佐へと目を向けると小さく首を横に振る。


「壊しちゃう?」


煉は遊佐へと目を向ける。


「いや。壊すと警告音がなる可能性がある。なるべく目立ちたくない。だからここはこいつに任せるしかない」


遊佐は隆彦の隣で門を観察しながら答えた。


「…くそっ!なんで開かないんだよ!」


隆彦は門を開けようと何度も試みた。だが門は開く気配がなく隆彦はそんな門に苛立ちを覚え、蹴りを入れた。すると辺りに警報音が鳴り響き始め、遊佐は眉間に皺を寄せながらその五月蝿さに手で耳を塞いだ。


「っ…ごめん。なっちゃった…で、でも来た人に事情を説明すれば中に…」


そんな遊佐を見た隆彦は慌て始め、弁解しようと口を開いた。だがその前に素早い動きで隆彦の前へと躍り出た煉が渾身の力を込めて門を殴ったのである。すると門は大きな音をたてて壊れてしまう。


「音鳴っちゃったから壊しても平気だよね」


煉は遊佐に向かってにっこりと微笑んだ。


「……ああ。誰かが来る前に先を急ぐぞ」


耳を塞いでいても煉の声がしっかりと聞こえていた遊佐は呆れたようにため息をついたあと、壊れた門を潜って敷地内へと侵入する。


「行かないの?」


そんな遊佐の後を追った煉だったがその場から動いていない隆彦に気がついて足を止め、隆彦へと目を向ける。


「お、おう。行くぜ」


素手で門を殴り壊した煉に唖然とし、口を開けて呆然としていた隆彦は声をかけられたことで我に返り、敷地内へと足を踏み入れる。そして三人は地下の入り口がある教員室へと走って向かった。


「ぜはっ…ぜはっ…お前ら、走るの速くね?」


教員室の前に着いた隆彦は苦しそうに呼吸をしながら息一つ乱れていない遊佐と煉を見る。


「…警報を聞いた奴らに捕まる訳にはいかないからな」


遊佐はそんな隆彦を一瞥したあと、教員室の扉を躊躇せずに開けた。中は無人で明かりが灯っていないため、真っ暗だった。そんな教員室の中へと足を踏み入れた遊佐は何の迷いもなく進み、煉もそのあとを追う。


「…よくこんな暗闇の中歩けるよな」


隆彦は物を踏んだり、机などにぶつからないよう細心の注意を払いながら遊佐たちのあとを追う。


「…この先にいる筈だ」


遊佐は地下へと続く扉を開け、隆彦に見せる。扉を開けた際、地下へと続く階段の灯りが自動的についた。


「この先に瑞樹が…」


階段の存在を知らなかった隆彦は階段を見て驚き、息を飲んだ。


「…焦る気持ちはあるだろうが忠告しておく。監視の目があるだろうから慎重に行く。勝手に動くなよ」


遊佐はそんな隆彦に向かって忠告をし、階段を降り始めた。遊佐の忠告を聞き、頷いた隆彦と煉はその後を追う。


「…さっきさ。監視の目があるから勝手に動くなって遊佐は言ったけど、気配に敏感な遊佐ならそこまで慎重にならなくても大丈夫なんじゃないの?」


遊佐の後ろを歩いていた煉はふいに口を開いた。


「敏感だけどここだとそうもいかないんだよ」


遊佐は前だけを見つめ、進みながら答えた。


「どうして?」


煉は不思議そうな顔をし、首を傾げる。


「俺は耳がいい。遠くにいる奴が騒いでいなくても息遣いや足音で察知できる。だけどここは防音がしっかりしているみたいである程度近づくまでわからない。それに…」


階段を降り終え、実験施設の奥まで歩いた遊佐は立ち止まり、煉たちへと目を向けた。


「あれがあるあら自由に動けない」


実験施設の奥には入り組んだ通路があり、行く先々には天井には防犯カメラがあった。遊佐は1番近くにあった防犯カメラを手で示す。


「あれがなんだかわからないけど…あると困るものなんだね。了解だよ」


防犯カメラを見たことがなくどんな物か知らなかったが煉は素直に頷いた。


「…あれの視界に入ったらさっきみたいな音が鳴るって覚えておけばいい」


遊佐はそんな煉を見て簡単に説明しながら手をおろした。


「でもいっぱいあるよ?進めるの?」


煉は行く先に防犯カメラが沢山あるのを見てから心配そうに遊佐を見る。


「機能を潰す方法を知ってるから問題ない」


遊佐はちらっと自分の右肩へと目を向ける。


「…そっか。なら問題ないね」


煉は遊佐の返事を聞いてにっこりと微笑んだ。


「ああ。行くぞ」


遊佐はゆっくりとした足取りだが堂々と歩き出し、近くにあった防犯カメラの視界に入る前に一睨みした。すると一瞬だけ黒いモヤが防犯カメラにまとわりついたかと思うと挙動が可笑しくなり、故障したのか動かなくなってしまう。


「……普通、壊れた時点で防音システムが異常を感知して警報なると思うんだけど…なんでならないんだ?遊佐だから出来ることなのか?それとも不具合?どっちにしろ進めるからいっか」


防犯カメラを潰しながら前へと進む遊佐を見て隆彦は考える素振りを見せたあと、首を横に振って考えるのを止めて二人のあとを着いていく。


「…いない?」


進んでいた遊佐は突如立ち止まり、眉間に皺を寄せた。


「い、いないってどういうことだよ」


隆彦は立ち止まった遊佐を見て立ち止まる。


「…さっき来た時はこの先にいた。だけど今は気配が感じられない」


遊佐は隆彦へと目を向ける。


「っ…まさか」


隆彦は遊佐を押しのけ、慌てたように前へと進み出した。


「おい!」


遊佐はそんな隆彦を制止しようと手を伸ばしたが間に合わなった。


「くそっ…言わなきゃ良かった」


勝手に動き始めた隆彦わや遊佐は忌々しく見つめながら防犯カメラを潰すのを忘れずに追いかけ始める。


「っ…そんな…瑞樹、いない…」


運良く防犯カメラに映ることなく牢屋へと辿り着いた隆彦は誰もいない牢屋の中を見て瑞樹の死を想像して絶望し、へたり込んでしまう。


「……別の場所に移動させられただけかもしれないだろ」


隆彦に追いついた遊佐は息を乱さず、隆彦を見つめた。


「そんなのわからないだろ!」


隆彦は声を上げ、遊佐を睨みつけるように見た。


「…死臭とかしないよ?だからここで死んでないのは確かだよ。遊佐の言う通り、別の場所に連れていかれただけかも…だからまだ諦めちゃダメだと思う」


周囲の臭いを嗅いだ煉はそんな隆彦と遊佐の会話に割って入る。


「…探すっ!」


隆彦は立ち上がり、走り出そうとした。だが遊佐はその前に隆彦の服を掴んで引き止める。


「これ以上、勝手に動くな」


隆彦は引き止めるなと言わんばかりに遊佐へと目を向け、睨みつけた。だが遊佐は特に気にすることなく逆にとても低く冷たい声で威圧するように言葉を発し、それを聞いた隆彦は遊佐に対して恐怖を感じてガタガタと震えだし、腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。


「……居心地悪いのに俺に着いてきてくれてる事、感謝している。一つ頼みがある。こいつの連れを探して来てくれないか?」


そんな隆彦を無視し、服から手を離した遊佐は自分の右肩へと目を向けた。そして先程の口調とはうってかわって優しい口調で問いかけてみると遊佐の右肩の辺りでうっすらと黒い小さなモヤが出現し、そのモヤは遊佐たちが来た方向へ向かうように消えてしまう。


「…今の何?」


モヤを目で追い、見送った煉は遊佐へと目を向ける。


「っ…みえたのか?」


遊佐は驚いたように煉へと目を向ける。


「え、あ、うん…防犯カメラって奴を潰したのもさっきのだよね?同じ黒いモヤモヤだったもん」


煉は頷きながら答えた。


「…そうか。あれは闇の精霊だ。この世界は精霊にとって居心地が悪いみたいだから見えるやつにもあまり姿を見せないようにしてるんだが…闇の精霊だからか他の精霊よりは動けるみたいだ」


頼み事をしたのは自分なのに遊佐は精霊のことを心配しているような素振りを見せる。


「…おい!精霊とか何を意味わからない話をしてるんだよ!」


そこへ平常心に戻った隆彦が声をあげた。


「今はいないけどいたでしょ?黒いモヤモヤがそこに…」


煉は不思議そうな顔をして隆彦へと目を向け、遊佐の肩を指差した。


「もやもや?何もいなかったぞ?」


隆彦は不審そうに眉をひそめた。


「煉。適性がない奴に精霊は見えない」


遊佐はそんな二人のやりとりを見て小さく首を横に振り、口を開いた。


「あー…だから探しに行かせたんだね。見えない方が好都合だから…精霊は自然界の何処にでもいて火とか自然界のものを司る子達のことだよ。この世界での個体数は少ないからあんまり見ないけど」


煉は遊佐の言葉に納得したあと、隆彦に精霊とは何かを簡単に説明した。


「…精霊は自然を好むからな。機械や化学文明が発展している世界では必然的に少なくなる。精霊がいないからこそ機械や化学の文明が発展したとも言われているがこの世界の精霊が少ないのは文明の発展だけじゃないだろうがな」


遊佐は補足説明をする為、口を開く。


「……よくわかんないけどおばけみたいなのが遊佐の命令で瑞樹を探しに行ったってことで間違いないか?」


遊佐たちの話が理解できなかった隆彦は自分なりに解釈し、問いかける。


「まぁそんなところだな」


遊佐は隆彦に向かって小さく頷いた。そしてそうこうしているうちに黒いモヤ…精霊が瑞樹のことを見つけたのか戻ってきて遊佐へと近づいていく。


「……そうか。わかった。ありがとうな」


精霊は遊佐の耳元までくると何かを囁いた。それを聞いた遊佐がお礼を言い、精霊に向かって微かに微笑むと精霊は遊佐から離れて煉へと近づき、煉の周りを一周したあとで消えてしまう。


「ここではなく最上階にある大きく豪華な部屋にいるそうだ」


精霊が消えたことで微笑むのを止めた遊佐は隆彦へと目を向ける。


「最上階にある大きくて豪華な部屋…学園長室か!ってことは学園長が助けてくれたんだな!」


隆彦はほっと胸を撫で下ろした。


「…その可能性は低いだろうな」


遊佐は目を閉じ、小さく首を横に振った。


「なんでだよ!学園長はいい人なんだぞ!」


隆彦は遊佐を睨みつけるように見た。


「あんたがさっきまで知らなかった此処は実験施設だ。防犯カメラが多いのは実験体である人を監視し、逃げ出すのを阻止すると同時に見られたくないものの見た不法侵入者を捕らえる為だろう…そしてそんなに施設の存在を学園のトップが知らないはずがない」


遊佐は目を開け、じっと隆彦を見つめる。


「待て待て待て待て。話が理解できない。実験施設はあってもおかしくないだろ。魔物を捕らえて秘密裏に研究してるだけかも知れないし…なんで実験体が人って断言できるんだよ」


隆彦は遊佐の話を理解することが出来ず、困惑するが直ぐに頭を大きく横に振って頭の中をリセットし、遊佐へと問いかける。


「……学園のトップは自分のことしか考えていないんだよ」


遊佐は魔物化する等の残酷な真実を隠し、隆彦から目を逸らした。


「無駄話はここまでだ。さっさと行くぞ」


そしてその後直ぐに遊佐はこれで話は終わりだと言わんばかりにスタスタと歩き始める。


「……魔物化するって話、言わなくてよかったの?」


遊佐と並んで歩き始めた煉は遊佐に向かって小声で問いかける。


「…いきなり魔物になるって話しても信じる訳ない。残酷な話だし、困惑する。それにあいつの想い人の様子がおかしかったで報告も受けた。最悪、魔物化するかもしれないし、それを教えたらあいつは暴走して突っ走る」


遊佐は自分から距離をたもって着いてきている隆彦をチラ見したあと、煉へと目を向ける。


「遊佐って何気に優しいよね」


煉は少し考える素振りを見せたあと、唐突に呟いた。


「は?優しい?俺が?」


遊佐は軽く見開いた目で煉を見つめた。


「うん。口数とか少ないけどなんだかんだで面倒見が良いし」


煉はそんな遊佐に向かってにっこりと微笑んだ。


「……俺は優しくなんかないよ」


遊佐は目を細め、れから目を逸らすように前を向いた。


「……誰かいる」


その後、もくもくと少し速く歩いた遊佐は階段の中間辺りで立ち止まり、口を開いた。


「それじゃ先に進めない感じ?」


そんな遊佐を見て立ち止まった煉は首を傾げる。


「ああ。ここに入ったってことを知られたら厄介だ。とりあえずいなくなるのを待とう」


遊佐は壁によりかかり、腕を組んだ。


「っ…待ってられるか!」


早く瑞樹の元へと向かいたい隆彦は声を上げ、前にいた遊佐と煉を押し退けて走り出した。その際、煉はよろけてしまうが階段から落ちることはなく遊佐は隆彦へと手を伸ばすが間に合わず、隆彦を先へと行かせてしまう。


「ちっ…」


勝手に動く隆彦を忌々しそうに見つめ、追いかける遊佐だったがあと一歩のところで隆彦は教員室へと足を踏み入れてしまう。


「っ…あんたら」


教員室にいたのは妃咲と雷、雨たちで雷は遊佐の姿を見るなり強ばった顔をする。


「すみません!急いでるんでっ!」


だが隆彦はそんな妃咲たちを押し退けて走り去ってしまう。


「っ…待て!」


「追いかけなくても大丈夫よ。雷。顔は覚えたから…それより対処すべきは…」


雷は隆彦を追いかけようとしたが妃咲がそれを引き止めるように声をかける。


「そうでした…侵入者であるこいつらをどうにかしないと…」


雷は足を止め、遊佐へと目を向けた。


「……侵入者とは心外だな。許可ならあの事務員から貰っている」


遊佐は煉を自分の背に隠すようにたち、姫咲たちを見つめる。


「魔物の仲間ということでその件なら取り消されました」


雨が口を開いた。


「それと同時に見つけたら討伐しろとのご命令が出ている。外の警報を聞き、もしかしたら戻ってきたのかと探していて正解だったな…この場で討伐する!」


雷は叫びながら遊佐に向かって剣の刃を向けた。だが瞬時に動いて遊佐の目の前へと躍り出た煉が目にも止まらぬ速さで剣の刃へと蹴りを入れたのである。煉なな蹴られた刃は真っ二つに折れて床に落ち、それを見た姫咲たちは呆然とする。


「……行くよ。遊佐」


煉は遊佐の手を掴んで引っ張り、一番近くにあった窓を割ってそこから外へと出た。それを見た雷は我に返り、慌てて窓へと近づいて外を見ると魔物化した右手で遊佐をしっかりと持ち、左手と足を器用に使って学園の壁をよじ登る煉の姿があった。


「魔物を連れ込んでいたのか!妃咲さま!あの男は危険です!追いかけましょう!」


雷は魔物化した煉の右手を見て忌々しそうにし、姫咲に向かって進言をする。


「え、ええ。そうね。被害が出てからでは遅いもの…追いかけましょう」


地下へと続く階段へと近づき、じっと見つめていた妃咲ら雷に声をかけられたことで我に返り、雷へと目を向ける。


「参りましょう。奴らは上へ向かってます」


雷は妃咲へと近づいて手を掴み、足早に歩き出した。そのあとを雨が追う。


「……多額の寄付をしている家の者として学園内の構造は把握していたつもりではあったのだけれどあんな場所、あったかしら?」


手を引かれるがまま動き出すが地下へと続く階段が気になるのか妃咲は教員室を出る際、とても小さな声で独り言のように呟いたのだった。


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