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遊佐が外に出て少ししたあと、外に出た煉は遊佐のことを探していた。


「……いた」


遊佐の姿を視界に捕らえた煉は遊佐へと駆け寄っていく。


「ゆ…」


煉は駆け寄りながら遊佐へと声をかけようとした。だが遊佐は目の前で浮いている光の珠をとても複雑そうな表情をして見つめ、何やら会話をしていた為に煉は思わず足を止めてしまう。


「遊佐!」


煉は遊佐に用があるのだと思いたち、遊佐の名前を呼んだ。


「…なんだ」


するとちょうど会話が終わった所だったのか珠は消え、遊佐は煉へと目を向ける。


「えっと…さっきの…さっきの事なんだけど…ごめんね。あんなことシュバリエが言い出したのは僕のせいなんだ」


遊佐へと駆け寄り、目の前で立ち止まった煉は申し訳なさそうに遊佐のことを見つめる。


「あんたの?」


遊佐は眉間に皺を寄せる。


「うん…恨みがないっていったら嘘になっちゃうけどシュバリエは殺して欲しいだなんて思ってない。シュバリエ一人ならいつでも魔界に帰ることができるんだけど力のない僕は帰れない…シュバリエは連れてきた仲間の最後の一人である僕を連れて帰りたいからあんなことを頼んだんだ…だから嫌なら断ってくれていいよ」


煉の声は後半になるに連れて小さくなっていき、煉自身も俯いてしまう。


「引き受けるよ」


遊佐は眉間に皺を寄せるのをやめ、静かに答えた。


「え、いいの?」


煉は顔を上げ、遊佐を見た。


「ああ…殺さなくても時期がくればあんたたちは無事に帰れる…だけど殺すことで取引が成立し。この世界が正常な状態に戻るのなら戻したい。嫌な思い出があったとしてもここはチビの故郷だから」


遊佐は小さく頷いたあと、どこか真剣な顔つきをする。


「…考える時間が欲しいんだと思ってた」


煉はそんな遊佐のことをじっと見つめる。


「違う。時間が欲しいっていったのは確認したいことがあったからだ。俺は殺しをすることに何の躊躇いも抵抗もない。あの女はそれを知っているから俺に頼んできたんだ」


いつも通りの顔つきに戻った遊佐は小さく首を横に振り、口を開いた。


「…引き受けるってことは確認したいこと終わったの?」


煉は不思議そうな顔をして首を傾げる。


「ああ」


遊佐は小さく頷いて答えた。


「だったら直ぐ行こう!あいつをやっつけよう!」


煉は遊佐の返事を聞いてパアッと表情を明るくさせ、遊佐の手を掴んだ。そしてその手を引っ張って歩き始めたのである。


「…悪い。直ぐにはいけないんだ」


遊佐は引っ張られるがまま歩いたが煉を止めようと声をかける。


「そうなの?」


立ち止まった煉は遊佐へと目を向ける。


「ああ。ギリギリまでいろって言われたんだ。それにブランクがあるから少し体を動かさないと…」


遊佐は手を離させ、じっと煉を見つめる。


「そっか…」


煉は直ぐではないのかと残念そうな顔をする。


「悪いな」


遊佐はそんな煉の頭に手を置き、撫で始める。


「大丈夫!少しぐらい待てるよ!」


煉は頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めた。


「とりあえずあの女に引き受けることを伝えに戻るか…チビに朝飯食わせないとだし…」


煉の頭から手を離した遊佐は家に向かって歩き出した。


「…シュバリエ」


煉は小走りで遊佐に追いつき、隣を歩く。


「シュバリエ?」


遊佐は煉へと目を向けた。


「そう。あの女じゃないよ。シュバリエっていうの。ちなみに僕は煉ね」


煉は真面目な顔をして遊佐を見つめる。


「シュバリエと煉ね」


遊佐は名前を復唱すると煉はとても嬉しそうな顔をした。


「ただいま!」


そして遊佐たちが家へと辿り着くと煉は大きな声を上げながら扉を開け、中へと足を踏み入れた。続いて家の中へと入った遊佐は静かに扉を閉める。


「おかえり」


椅子に座り、世愛のことを見ていたシュバリエは煉へと目を向け、煉はそんなシュバリエへと抱きついた。


「……引き受けるよ。さっきの話…だけど決行するのはもう少し待って欲しい」


煉のあとを追ってシュバリエへと近づいた遊佐はシュバリエの目の前で立ち止まった。


「引き受けてくれてありがとう。待つのは構わないよ。君に合わせよう」


シュバリエは煉の頭を撫で始めながら真っ直ぐ遊佐を見つめる。


「決行する日はおって伝える。だけど今は…」


遊佐は世愛へと目を向ける。


「チビ。起きろ。チビ」


そして世愛を起こそうと遊佐は世愛の肩へと手を置き、優しく揺さぶり始めた。


「…ん」


だが世愛は寝返りをうつだけで目を覚ます気配はない。


「よく寝るね。さっきまで寝ていたのに…眠るのが好きなのかな?」


シュバリエはそんな世愛を見て首を傾げる。


「違う。頭を撫でられたから安心して寝ただけだ。眠るのが好きってわけじゃない」


遊佐はシュバリエの疑問に答えたあと、更に強い力で世愛のことを揺さぶり始めた。


「起きろ!チビ!」


そして先程よりも大きな声で呼びかけた。すると世愛はゆっくりと目を開ける形で目を覚ました。


「起きたか。食えると思うから朝飯としてこれ食え」


世愛が目を覚ましたのを確認すると遊佐は肩を揺さぶるのを止め、持参していたサンドイッチが入った袋を手に取り、世愛へと差し出した。


「…はい。いただきます」


世愛は上体を起こし、軽く頭を振ってボォーッとする頭を覚醒させてから袋を受け取る。


「……遊佐さんは?」


袋からサンドイッチを取り出して食べられると判断したあと、世愛は遊佐へと目を向ける。


「俺は大丈夫だ」


遊佐は小さく首を横に振った。


「食べないと元気でないですよ」


世愛は心配そうに遊佐を見つめる。


「大丈夫だから食え」


遊佐はじっと世愛を見つめ返した。


「わかり、ました…それじゃぁあの…」


世愛は遊佐の眼差しを見てこれでは食べてもらえないなと悟り、その後でシュバリエや煉へと目を向ける。


「私たちも大丈夫だ。悪魔は人とは違う。活動するのに食や睡眠を必要としないからな」


シュバリエは世愛の視線に気がつき、目を向けて答える。


「…でも…食べたそうですよ?」


世愛が戸惑ったように煉を見つめると煉は世愛が手にしているサンドイッチを輝かせた目で見つめていた。


「あー…活動するのに必要ないだけで食べないわけではないんだ。すまないが一つ分けてあげてくれないか?」


シュバリエはそんな煉を見て苦笑したあと、再び世愛へと目を向けて申し訳なさそうに頼み込んだ。


「どうぞ」


世愛は持っていたサンドイッチを煉へと差し出す。


「ありがとうっ!」


煉は世愛からサンドイッチを受け取るとお礼を言った。そしてその後直ぐに煉はシュバリエから離れ、サンドイッチを両手で持って掲げ、クルクルと上機嫌に回り始めたのである。そんな煉を見てあげてよかったと思いながら世愛は袋からサンドイッチを取り出し、頬張りはじめた。


「あ…遊佐さん。病み上がりなんだから安静にしてないと!」


サンドイッチを一つ食べ終えた世愛は次のサンドイッチを袋から取り出そうとした。だがその前に昨日までの遊佐の様子を思い出し、声を上げながら慌てたようにベッドから降りた。


「いや。俺はもう大丈夫…っておい!離せ!」


遊佐は首を横に振り、断ろうとしたが右手を魔物化させた煉に突然捕まれた為に体は宙に浮いた。遊佐は煉の手が魔物化したことに軽く目を見開く形で驚いたあと、直ぐに目を細めて手から逃れようと体を動かした。だが煉はしっかりと掴んでいる為、逃れることはできなかった。


「いつでも問題解決できるんだからいうこと聞いて休むべき」


煉は遊佐をベッドの上へと寝かせて毛布をかけたあと、手を元に戻してから遊佐から離れる。


「え、問題わかったんですか?しかも解決方法も?」


世愛はそんな遊佐へと目を向ける。


「…ああ」


遊佐は起きあがろうとしたが煉がじっと見つめていた為、諦めて小さく頷いた。


「な、なら今日はゆっくり休んでいても大丈夫ですね!」


世愛はパァッと表情を明るくし、遊佐へと詰め寄る。


「あ、ああ…」


遊佐は詰め寄ってきた世愛に引きつつ小さく頷く。


「じゃ私、引き続き看病をしますね!」


世愛は水を新しいものに変えてこようと近くにあった桶を手に取ろうとする。


「いや。看病はいい」


遊佐は上体を起こし、世愛の前に手を出して制止した。


「え、でも…」


世愛は手を出されたことで桶が取れず、困惑したように遊佐へと目を向けた。


「必要ない。だがそのかわり今から俺と遊んで欲しい」


遊佐は出した手を引っ込めながら首を横に振ったあと、世愛を見つめた。


「へ?遊ぶ…?」


世愛は思いがけない申し出に目を丸くする。


「ああ。勿論いうことを聞いて安静にはするから体を動かす遊びはできないが…どうだ?」


遊佐はそんな世愛を見て首を傾げる。


「あ、安静にしてくれるのなら…」


世愛は少しだけ考える素振りを見せたあと、控えめに頷いた。


「……煉も遊ぶか?」


遊佐は煉へと目を向ける。


「遊ぶ!」


煉は誘われたことが楽しかったのか即答で返事をし、その後直ぐに持っていたサンドイッチを素早く食べて遊佐たちへと近づいた。






…その後、遊佐の家にあるトランプや双六などを世愛に持って来させ、シュバリエ以外の三人は時間を忘れて遊んだ。そして遊び尽くした頃には太陽は完全に沈み、夜になっていた。


「……眠ってしまったのかい?」


遊びには参加せず、薬を煎じていたシュバリエはベッドに突っ伏して寝ている世愛に気がついて遊佐へと声をかける。


「ああ。もう夜だから頭を撫でて強制的に眠らせた。遊んでいる最中に夕飯も食わしたしな」


遊佐はベッドから降り、代わりに世愛をベッドの上に寝かせて毛布かける。


「そうか…それで?君は今から何をする気だい?安静にしている約束だろう?」


シュバリエはそんな遊佐を見て首を傾げた。


「……じっとしていたのはチビを心配させない為だ。それにベッドから動いたら直ぐに戻されそうだったし」


遊佐がちらっと煉を見ると煉は遊んだことに満足し、とてもニコニコしていた。


「まぁそうだな…見た感じ煉は彼女と会ったばかりなのにも関わらず、懐いているように見えるから彼女のために動いてしまうのかもしれん。いつもなら初対面の相手だと警戒を怠らない筈なんだがな…彼女だと警戒心ゼロだ」


シュバリエは何故だろうと煉へと目を向ける。


「……悪魔にも好かれるのか」


遊佐はどこか呆れた顔で世愛を見つめ、とても小さな声でボソッと呟いた。


「それで?今から何をするんだい?」


遊佐の呟きが聞こえていなかったシュバリエは遊佐へと目を向ける。


「本番で失敗するわけにはいかないからな…少し体を動かしてくる」


遊佐は軽く体を動かしてストレッチを開始した。


「そうか…なら煉を貸し出そう。煉、おいで」


シュバリエは煉へと手招きをし、煉は駆け足でシュバリエへと近づいた。


「いいかい?煉。今から君は彼と手合わせをしてくるんだ。だけど傷つけてはいけないよ。寸止めするんだ。できるかい?」


シュバリエは目の前まできた煉の目線に自分の目線を合わせ、真剣な表情で煉を見つめた。


「寸止めしなきゃ悲しむ?」


煉は世愛へと目を向ける。


「寸止めをしなければ傷つけてしまうから悲しむだろうね」


シュバリエは煉の視線を追い、世愛を見たあとで再び煉を見て答えた。


「…わかった!寸止めする!そして魔物が現れたら僕が遊佐のこと守る!」


煉はシュバリエへと目を向け、元気よく返事をした。


「……彼が魔物に狙われることはないと思うから煉は彼の相手をしつついつも通り魔物に襲われた人々を助けるといい」


シュバリエは煉の頭を優しい手つきで撫でた。


「わかった!いつもやっていることをやればいいんだね!でも遊佐は守らなくて大丈夫なの?」


煉は頭を撫でられて気持ちよさそうに細めて目でシュバリエを見つめる。


「そうだな…魔物が彼に興味を示すことはないだろうが万が一ということもある。その時は守ってあげなさい」


シュバリエは頭を撫でる手を止め、少し考えてから答えた。


「わかった!僕、頑張るね!」


煉は意気込んで遊佐の元へ向かおうとシュバリエに背中を向けた。


「あ、ちょっと待て。煉」


そんな煉をにこやかに見送ろうとしたシュバリエだったが、何かを思い出して煉を呼び止めた。呼び止められた煉は足を止めてシュバリエへと目を向けた。シュバリエへそんな煉に向かって手を伸ばし、呪文を唱えると煉は淡い光のオーラに包まれ、そのオーラは直ぐに消えてしまう。


「シュバリエ、今のって…?」


煉は自分の体を確認したあと、シュバリエへと目を向ける。


「朝までの期限付きで肌を覆う薄い結界を煉に付与した。彼が君を傷つけてしまった場合、彼は昨日と同じようになってしまうから」


シュバリエは答えながら伸ばした手を引っ込める。


「…この前みたいになったらせーあ、悲しむもんね!わかった!行ってきます!」


煉は苦しむ遊佐の姿やそれを見て悲しむ世愛を思い出して納得し、シュバリエに対して大きく手を振りながら家の外へと駆けていく。


「……その結界。俺に付与すればあいつが寸止めする必要なかったんじゃないか?」


外へと出ていく煉の姿を見送ったあと、遊佐はシュバリエへと声をかけた。


「それを思いついたのは寸止めを頼んだあとだ。そのあとに結界を君に付与なんかしたら信用されていないのかと煉が落ち込む」


シュバリエは遊佐へと目を向け、苦笑した。


「……大事なやつなんだな」


遊佐は外へと続く扉へと目を向け、その先にいるであろう煉を見つめる。


「あの子は連れてきた部下…いや。仲間の最後の一人だからね。できる範囲で大事にしたいと思っているよ…というより君も似たようなものだろう」


苦笑することを止めたシュバリエはじっと遊佐を見つめた。


「俺も?」


遊佐は再びシュバリエへと目を向けた。


「ああ。君と出会って日が浅いから君と彼女の関係性は知らない。だけど見ている限り君は彼女を大事にしていると感じたんだ。違ったかい?」


シュバリエは首を傾げた。


「大事に思っている、か…最初は同情から接していたんだ。でも今は…」


遊佐は気持ちよさそうに眠っている世愛へと目を向け、何処か優しげな眼差しで見つめる。


「……待たせているからもう行く」


遊佐は直ぐに世愛から目を離し、外へ向かって歩き出した。


「あ!煉にも言ったが煉にかけた結界の効力は朝までだ!それまでには戻ってくるんだよ!」


シュバリエはそんな遊佐に向かって声をかけた。だが遊佐は返事をすることなく外へと出て行ってしまった。


「…あの目は恋をしているからなのだろうか?…いや。でも違う気がする」


遊佐の姿を見送ったシュバリエは先程、世愛を見つめる遊佐の眼差しを思い出して独り言のように呟いたのだった。

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