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エリザベスに世愛のことを頼んだ遊佐は隆彦が持って来てくれた大量の本を睡眠を取らずに読み漁っていた。


「……はぁ。どれも似たような内容の本ばかりだな」


朝。最後の一冊に目を通し終えた遊佐は欲しい情報が得られなかったのか小さくため息をつき、本を閉じてテーブルの上に置いた。


「…やはり学園の奴らから直接情報を集めるしかないのか?だがあまり人と関わり合いたくない」


遊佐は面倒臭そうにに呟き、目頭を揉んだ。


「…だが情報を集めなければ問題はわからないんだ。解決には程遠いか…本を片付けがてら聴き込みに行こう」


少しの時間思い悩んだ遊佐は目頭から手を離し、立ち上がった。そして持ち運びしやすいように本を積み重ねた後、持つ前に先に扉を開けておこうと扉へと近づいていく。だが扉の前で立ち止まった遊佐は一瞬、開けるのを戸惑ったが小さく息をついた後、決意を固めて扉を開けた。


「おはようございます」


扉の先には事務員が待ち構えていて事務員は遊佐の姿を見るなり、にっこりと微笑んで挨拶をしてきた。


「……何か用か」


遊佐は事務員が扉の先にいるのを知っていたのか驚きもせずに事務員へと声をかける。


「貴方達が無事に入学されるまでの間、護衛をしろとの命令が下りまして…失礼しますね」


事務員は微笑むのをやめて遊佐の横をすり抜け、部屋の中へと入ろうとする。


「……護衛なんていらない。てか護衛をつけるなら俺じゃなくて昨日の奴らの方だろう」


遊佐は事務員の肩を掴み、入室を阻止する。


「確かに身分的にはそうですが貴方達は入学されていない客人のような者ですから…客人に何かあったら困ります。それとも何か不都合でも?」


事務員は遊佐へと目を向け、首を傾げる。


「……いや。ない」


遊佐は情報収集をするのに邪魔だとは言えず、肩から手を離しながら小さく首を横に振る。


「ならよかった…ところで妹さんは?」


事務員は世愛を探すように辺りを見渡した。


「あんたがきたことでトイレに隠れた」


遊佐はしれっと嘘をつき、事務員から目を逸らす。


「そうですか。トイレに…なら長居はしないほうがいいですね。トイレに居続けさせるのは可哀想ですし…あ、もしかして本を片付けるつもりでした?手伝いますよ」


事務員は一度トイレへと目を向けた後、積み重ねていった本に気が付いて近づき、両手で持った。そしてその後すぐ足早に部屋から出て図書室へ向かい始める。遊佐は部屋の扉を閉めた後、そんな事務員から本の半分を奪うようにとって持ち、足早に歩き始める。


「…本が好きなんですか?」


遊佐の歩幅、速度に合わせることで遊佐と並んだ事務員は遊佐へと目を向け、問いかける。


「ああ」


遊佐は手短に答え、小さく頷いた。


「そうですか…何か気になる本はありましたか?」


事務員はじっと遊佐のことを見つめる。


「魔法のことについて知りたい。俺が扱う魔法はこの学園で使っている魔法と違うみたいだから」


遊佐は事務員へと目を向けることなく淡々とした口調で答える。


「それでしたら僕が教えますよ!」


事務員は名案だと言わんばかりに声を上げる。


「……あんたが?」


遊佐は立ち止まり、事務員を見つめる。


「ええ。本に書かれていることが全てではないですし」


そんな遊佐に気がついて立ち止まった事務員は周囲にはわからないがにっこりと微笑む。


「…見たところあんたは魔法が使える魔法使いでも学生でもない。聞くなら実績のある学生に聞く」


遊佐は軽く睨みを効かせて事務員を見たあと、歩き出す。事務員はそんな遊佐の姿を見て少しだけ考える素振りを見せたあと、遊佐を追いかけたのだった。






図書室について本を返し、聞き込みをしようとした遊佐だったが事務員がついて回っている上、昨日の一件が広まっているのか学生達は遠巻きに遊佐達を見つめ、近づいても逃げてしまう為、調査は難航していた。


「あら。妹ちゃんはどうしたのよ」


そして情報を得られないまま時は過ぎてお昼休憩になった頃、回復した瑞樹が現れて遊佐へと声をかける。


「まだ人前に出れる状態じゃない」


遊佐は立ち止まって瑞樹へと目を向け、答える。


「そう…昨日のことは隆彦に聞いているわ。昨日の今日だから立ち直れないのも無理ないわね…傍にいてあげなくて大丈夫なの?」


瑞樹は世愛のことを思い、心配そうな顔をする。


「問題ない」


遊佐は手短に答える。


「…そう?ならいいわ。それで?こんなところで何してるの?事務員の人連れてるってことは散歩ってわけじゃないでしょ?」


瑞樹は事務員を見たあと、遊佐へと目を向ける。


「散歩だ。昨日の件があったからこいつは変な奴に絡まれないよう護衛についてきているだけ…ちょうどいい。魔法について詳しく教えてくれ。俺とあんたの魔法には違いがあるみたいだから」


遊佐はちらっと事務員を見たあと、瑞樹へと目を向ける。


「いいわよ。でもここで立ち話もあれよね…あ、そうだ!演習場に移動しましょう!そこなら実技も交えて教えてあげられるわ!」


瑞樹は少し考える素振りを見せたあと、提案をする。


「…わかった」


遊佐は小さく頷き、それを見た瑞樹は遊佐に背中を向けて歩き出した。事務員と遊佐はそのあとへと続くように歩き出す。


「……さて。何から説明をしましょうか?」


そして瑞樹は演習場に着くなり自分のあとを追ってきていた遊佐達へと目を向ける。


「魔法の仕組みを…結構な本を読み漁ったけどどれも同じことばかりで詳しくは書かれてもいなかった」


遊佐は瑞樹から少し離れた場所で立ち止まり、じっと瑞樹を見つめる。


「魔法は秘匿とされていて授業でしか教えてくれないから図書室の本に書かれていないのも無理ないわ。秘匿とされているけど助けてくれたお礼に教えてあげる。魔法はね。魔力や魔法のイメージを杖や剣に送ることで発動されるのよ」


瑞樹は懐から杖を取り出しながら答える。


「イメージ?」


遊佐は首を傾げる。


「ええ。剣使いの前衛は火や水などの属性のどれかを付与させるか…杖使いの後衛はどんな形で火や水などの属性を表すかをイメージするのよ」


こんな風に…と瑞樹は目を閉じ、意識を集中させてからファイアボールと呟くと杖から火の玉が出現し、火の玉は演習場にあった的へと当たって消える。


「詠唱は?」


火の玉を目で追ったあと、遊佐は瑞樹へと目を向けて首を傾げる。


「詠唱?何それ?」


瑞樹は聞き慣れない言葉に不思議そうな顔をする。


「魔法を使う際に必要な呪文のようなものだ」


遊佐は首を傾げるのを止め、簡潔に説明をする。


「そんなものはないわ。必要なのは魔力とイメージと剣か杖だけだもの」


瑞樹は首を横に振り、答える。


「剣や杖がない場合、魔法は使えないのか?」


遊佐は瑞樹が持つ杖を見つめる。


「…そうよ…って言いたいところだけど剣や杖がなくても魔法が使える人物を二人知っているわ。一人は貴方よ」


瑞樹はどこか暗い顔をして遊佐を見る。


「……もう一人は?」


遊佐は瑞樹の視線に気がついて杖から瑞樹へと目を向ける。


「もう一人は…緑色の瞳を持った男よ」


瑞樹は過去に何かあったのかうちから出る憎しみや怒りを抑えながら答える。


「緑色…?」


遊佐は瑞樹の返答を聞いて眉間に皺を寄せる。


「ええ。憎ったらしいくらい綺麗な緑色をしていたわ」


瑞樹はとても冷たい目をし、吐き捨てるように答える。


「そうか…わかった。例を言う」


遊佐は瑞樹にお礼を言ったあと、顎に手を当てて何やら考え始める。


「……今度は貴方の番よ?」


深く息をついて怒りや憎しみをなんとか鎮めた瑞樹は普段通りの目を遊佐へと向ける。


「俺の番?」


遊佐は考えるのを止め、顎から手を離しながら瑞樹へと目を向ける。


「そうよ!貴方の魔法はあたし達と違って剣や杖を使わなかったって隆彦から聞いているわ!だから貴方の番!」


瑞樹は期待の眼差しで遊佐を見つめる。


「剣や杖が銃に変わっただけであまり変わりないと思うが…」


遊佐は懐から拳銃を取り出し、瑞樹へと見せる。


「変わらないの?手にとって見てもいい?」


瑞樹は目を輝かせ、拳銃を見つめる。


「大事な品だから丁寧に扱うなら構わない」


遊佐は拳銃を瑞樹へと差し出す。


「わかったわ。丁寧に…痛っ!」


瑞樹は遊佐から拳銃を受け取ろうと手を伸ばした。だが拳銃に触れた瞬間、その手に激痛が走った瑞樹は思わず手を引っ込めてしまう。


「ちょっと嫌がらせ?…って貴方大丈夫なの?」


瑞樹は激痛が走った手が負傷していないことを確認したあと、その手を摩りながら遊佐へと文句の一つでも言ってやろうと目を向けた。だが遊佐は今にも膝をついてしまいそうなくらい苦しげに息を吐き、俯いて心臓のあたりを拳銃を持っていない方の手で鷲掴むように押さえていた為、瑞樹はギョッとして心配する。


「問題、ないっ…悪いが部屋に戻るっ」


遊佐は拳銃を懐へとしまうと瑞樹に背を向け、ふらついた足取りで歩き始める。


「問題あるわよ!ほらっ肩を貸してあげるから」


瑞樹は遊佐へと駆け寄り、肩を貸そうとする。


「…貸してくれなくてかまわない」


遊佐はちらっと瑞樹を見たあと、肩を借りずに歩き続ける。


「今にも倒れそうだから言ってるのよ!大人しく借りなさい!」


瑞樹は無理矢理、遊佐へと肩を貸そうと手を伸ばした。だがその直後、授業が始まる予鈴が鳴ってしまう。


「…授業が始まります。ここは任せて君は戻りなさい」


遊佐と授業、どちらを優先するべきか遊佐に伸ばした手をそのまま悩む瑞樹に対し、事務員は声をかける。


「……わかりました。あとはお願いします」


瑞樹は伸ばした手を引っ込め、事務員に向かって頭を下げると足早に教室へと戻っていった。事務員は瑞樹を見送ったあと、ふらつきながらも前へと進む遊佐へと駆け寄っていく。


「お貸しします」


事務員は遊佐へと肩を貸そうとする。だが遊佐は体を反らして拒絶し、前へと進み続ける。


「借りなさい!何かあったら僕が困るんです!」


事務員はそんな遊佐に少しだけムッとし、強引に肩を貸そうとした。


「っ…やめろ!」


遊佐は事務員が触れる寸前、拒絶するように振り払った。その際、遊佐の手が事務員がつけていた仮面へと当たり、仮面は外れて吹き飛んでしまう。


「……だから人と関わり合いになるのは嫌なんだ」


遊佐はボソッと呟くと事務員へと目を向けることなくふらつく足をなるべく速く動かして足早に去っていった。事務員がそんな遊佐の姿を仮面を拾いつつ綺麗な緑色の瞳で見ていたことも知らずに…


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