第二話 『魔法少女として活動開始したら、魔法技研に目を付けられた件』
〖解説:魔法少女〗
アウターと戦うことができる程の魔力を持って生まれてきた少女たちの総称。通常、人間の身体を構成しているのは物理物質九十パーセントと魔力十パーセントだ。しかし、魔法少女の構成は物理物質五十パーセントと魔力五十パーセントであり、アウターに有効打となるのはこれ以降とされている。そして、魔法少女は自身を構成する魔力から戦闘フォームに変身する。戦闘フォームの外見や使用する魔法は本人の精神性に比例するとされている。
思わず叫んでしまったが、その声が女性的な高さをしていて更に混乱を加速させた。
「マジかよ…………あぁ、マジで女になってる……。」
鏡の中の少女は灰色の髪を腰のあたりまで伸ばしていて、10歳ほどに見える顔つきだ。しかし、見れば見るほど自分の女性版みたいな雰囲気だ。違うのは髪が長くて灰色なのと声がいつもより女性的で、男になくてはならない物がなくなってることくらいか。
「あ、さっきの子は!?」
ショックで色々頭から吹っ飛んでいたが、とりあえず少年の様子を確認する。見たところ軽い打撲で済んでいるみたいだ。
「ふう………よかった。間に合ったか。」
《………そろそろよろしいでしょうか。》
「うひゃっ!?」
突然、頭の中で女性の声が響く。機械的なアナウンスのような声だ。
《お初にお目に掛かります。私は“後天性魔力制御補助人格”という者です。》
「……魔力制御……補助人格?」
《はい。貴方は魔法少女になって間もないので、私が魔力制御を補助しなければいけません。》
「やっぱり魔法少女になってるんだよな、俺。」
《はい、間違いなく魔法少女ですね。》
思わず項垂れる。どうやらさっきアウターを吹っ飛ばした力は魔法少女になったからのようだ。まぁ、アウターにダメージを与えられるのは同じ魔力で構築された魔法少女だけだから、理解はしていたが。
「戻るにはどうすりゃいいんだ?」
《ローブのポケットに入っている指輪をつければ、解除されます。》
「へぇ。」
ポケットに手を入れた瞬間………。
「ここですね。アウターが発見されたという場所は!」
近くから声がしてそちらに振り向くと、そこには赤いマントと騎士鎧を纏った13歳くらいの少女が立っていた。
「………あれ?アウターはどこですか?」
「君、魔法少女だよな?アウターならあそこだ。」
多分、近隣住民が通報したのだろう。駆けつけた赤い魔法少女にアウターを指さして教える。
「あぁ、ありがとうございます。………って、倒されてませんか?」
「まぁな。倒さなきゃこの子が危なかったし。」
「…………貴女も魔法少女ですか。」
「……みたいだな。」
どうやら彼女にも俺は“少女”に見えているらしい。しかし、何か雲行きが怪しいな。俺を見てから赤い魔法少女はやたら険しい表情になっている。
(どうする?できれば変身を解きたいんだか………。)
《主よ。ここで変身を解くことは推奨できません。》
(え?なんでだ?)
《主の社会生命が断たれてしまう気がします。》
(あ。)
そうだ。俺は今少女の姿だから、ここで変身を解くと俺は『魔法少女に変身する男』になる訳だ。……変身解いたら駄目だな。社会的に死ぬ。
「貴女………魔法少女名は?」
「え?…………あぁ、今回が初めての変身だから特にない。」
「……管轄外……いや、魔法少女名がないから……野良でしょうか……?」
赤い魔法少女は何やらブツブツと呟いている。そういえば、朝エイイチが今日の担当魔法少女だの何だの言ってたような……。
ガチャッ
赤い魔法少女がどこからともなく『赤いグレートランス』を取り出し、それを俺に向けた。
「とりあえず、貴女を魔法技研に連行します。抵抗はしないで下さい。」
「その槍向けられてると脅されてるみたいだな……。」
「貴女のような野良で活動する魔法少女は危険です。正式に魔法技研に所属した暁には、今回のことは謝りますから。」
そう言って赤い魔法少女はこちらににじり寄ってくる。俺としては魔法技研の厄介になるつもりはない。そもそも、魔法技研と俺とでは目指す方向性が違う。よってここでとるべき行動は……。
「すまんが魔法技研に所属する気はねぇよ!」
軽いステップで先ほどの鏡が捨てられていた場所に近づき、同じように捨てられているゴミ袋を思い切り蹴る。衝撃で埃が舞い上がり、それが目に入ったのか赤い魔法少女は怯む。
「今のうちに……!」
「あっ……コラーッ、待ちなさーーーいっ!!」
後ろから彼女の声が響くが、入り組んだ路地を利用してその場を去った……。
◇ーーーーーーーーーー◇
しばらく走り続けていたが、周囲から気配がなくなったので足を止める。周りを見回すが、この時間帯はここら辺に人はいない。
「……ハァ……ハァ……知ってる範囲で撒けたか。」
《周囲に先ほどの魔法少女の魔力反応はありません。》
「うぉっ!?………あぁ、そういえばいたな。」
《………主殿。その歳でもう短期記憶能力の低下が……?》
「違うわ!!物忘れじゃねぇ!!」
頭の中で喋る声にツッコミを入れる。こいつ、意外と毒吐くな……。
「………ところで、名前を聞いてなかったな。」
《?………後天性魔力制御補助人格と名乗ったはずですが。》
「いや、それは他人を人間って呼ぶみたいじゃないか。なんか、愛称とかないのか?」
《細かいですね。》
「うっさいわ。」
しばらく沈黙が続いた後、彼女は諦めたように溜息をもらした。
《………以前は“シロ”と呼ばれていました。主殿もそうお呼びください。》
「わかった。シロ、よろしくな!」
《よろしくお願いします。》
シロとの自己紹介が終わったので、早速ポケットに入っていた指輪をつける。すると、変身時と同じように光に包まれて変身が解除された。
「よし、戻ったか。………って、あばら骨が折れてたと思うんだが?」
《魔法少女には少々の再生能力があるので、時間によって自然治癒したのでしょう。》
「お、そうなのか。」
便利な身体だな。怪我自体は治っているが、警官服はまだ土で汚れている。そこで、パトロール中だったということを思い出した。
「あ、やべぇ。エイイチ待たせたままだ。」
《………主殿の職業は警察官でしたね。サボりは不味くないですか。》
「サボってた訳じゃないけどな……。」
そのまま駆け足でパトカーから降りた所へ戻った。
◇ーーーーー【SIDE:ホムラ】ーーーーー◇
「あの灰色魔法少女め………次会ったら容赦しませんよ!」
私は魔法技術研究局………通称・魔法技研の東北支部に所属する『魔法少女ホムラ』こと『綾月 茜』だ。
魔法少女は唯一、アウターに対抗することができる存在なので、基本的に魔法技研に所属して各支部の管理地区の防衛を行う。
今日も私は担当区に指定された静岡県のある街を訪れていた。しかし、運の悪いことにその日に限ってアウターの出現が多発していた。到着と同時に空を飛んでいた怪鳥を叩き落として討伐し、警察と一緒になって後処理に追われた。
怪鳥騒ぎが落ち着いたタイミングで、支部長から連絡が来た。
『もしもし、アカネちゃん?怪鳥倒して早々で悪いけど、追加でアウターが出たみたいだ。頼めるか?』
その連絡に答え、すぐに現場の路地に向かった。しかし、そこで待っていたのはすでに倒された螳螂型のアウターと見たこともない“灰色の髪をした魔法少女”だった。
魔法技研は日本全ての魔法少女を管理する組織だ。その魔法技研に登録されていない、所謂“野良”の魔法少女は非常に危険だ。人に過ぎた力を持つが故に、思わぬ悲劇を産むかもしれない。だから、野良魔法少女は発見し次第保護し、魔法技研に連れて行かねばならない。
「………まさか、抵抗して逃げるなんて……。」
彼女は自分の力を理解できていないのかもしれない。それはあまりにも強すぎる力なのだと。
だが………。
「………彼女の目から感じたあの異質さ………。あれは一体………?」
彼女の瞳には異様な意思を感じた。それが良い物なのかは分からない。
しかし、だからこそ彼女ともう一度会わなくてはならないだろう………。
〖本日の魔法少女:ホムラ〗
「あの灰色の魔法少女………一体何者なのでしょう?」