◆あ
その他。
そう書かれたボタンがあった。
家の中、テレビのリモコンに、そんなボタンがあった。
なぜ今まで気づかなかったのか不思議だが、その理由はすぐに理解できた。
左上の赤いボタン。これは電源ボタンのはずだ。だが、私は無駄な待機電力を消費しないためにこのボタンは使わないで、モニターの電源を使っていた。
ゆえに、この電源ボタンが、実はその他ボタンであった事に気づかなかったのだ。
もう一度見てみる。
その他。
確かに、ボタンのすぐ上にはそう書かれている。
では、電源ボタンはどこにあるのか。
それはすぐに見つかった。右上に。
他に、各チャンネルボタンと、上下左右のボタン、そしてその中にある環境設定ボタン。下部にあるのはVHSビデオデッキの電源ボタンにその操作のボタンだ。今時DVDのないビデオデッキは珍しいのだろう。
だが、その他ボタンはその一個だけだ。
モニターに近付いて、操作キーを端から端まで確かめる。
電源ボタン、音量ボタン、チャンネルボタン、画面設定ボタンが並んでいて、その隣に赤黄白の挿し込み口があった。
ビデオデッキも同様で、必要最低限のボタンしかなかった。
もう一度手元のリモコンを確認する。
確かにその他ボタンは存在していた。
突然、電話が鳴った。
リモコンをテーブルの上に置いて立ち上がり、電話機の前まで行った。そして受話器を持ち上げ、耳に当てる。
ツー、ツー、ツー。
電話は切られていた。どうやら悪戯電話だったようだ。受話器を元に戻す。
と、目が自然とそのボタンに吸い寄せられた。
その他。
数字ボタンの上に並んだ各種機能ボタン。その右下のボタンに、その他と書かれていた。
気味が悪くなる。
リモコンに続いて電話。
何気無くその視線は洗濯機に向けられる。
まさか、ね。
多少の恐怖と好奇心で洗濯機に近寄る。
案の定、その他ボタンは無かった。
ホッ。
だが、すぐ隣の洗面台の上に置いてある鏡を見下げて、驚愕した。
そこに写った電卓にはあった。
その他。
と。
リモコン、電話機、電卓にあったその他ボタン。
インターネットで検索してみる。
色々とヒットした。だがどれも求めるものではなかった。
しばらく検索結果を見ていく。そこで気になるページを見付けた。
『その他のボタン』
小説だ。
それをクリックする。
しばらく待たされた後、小説紹介ページが表れた。小説を読むボタンをクリックすると、目次ページになる。
◆あ
◆ん
とある。
まずは、◆あ、を押した。




