ルイスの初恋
あらすじ通り、【ちょっと変わった婚約破棄騒動】をご覧になってから観覧してください。じゃないと、話がわからないと思います。
美しき花々が咲き誇るあの場所で、私は恋に落ちた。風が吹いた時に靡くキラキラ輝く銀髪。まるで薔薇のような瞳。
小柄で愛らしく、花達の中でも彼女は一番美しく咲いていた。
まるで妖精か精霊の類かと思うほどに、彼女は美しかった。陽の光が挿し込み、神々しくも思えた。静かに、優しく頬笑む彼女に私は一目で恋に落ちた。
その後すぐに、父上に話して婚約を結んでもらった。彼女の名はリリス・ファントム。王弟であったファントム公爵が残した一人娘で、騎士団総督という重役についていた。それには驚いたが、そのお陰で婚約はあっさり通った。でも、彼女の僕を見る目は感情がこもっていない。
自分でもわかっていた。これは一方的な片想いだと。
それでも、彼女と添い遂げたかった。心を寄せてくれなくてもいいから、側にいてほしい。彼女こそ私の婚約者に相応しい。
でも、その恋心は徐々に迷い始めた。それは、ラーニャ・エイルという男爵令嬢に会ってからだ。ラーニャはいつだってにこにこしていて、私の話をよく聞いてくれる。
思いやりがあって、とても優しい娘だった。そして、私はリリスへの愛をラーニャに向けた。
ラーニャといる日々は楽しかった。
令嬢らしくないけど、そこもまたラーニャのいいところ。私とラーニャはどんどん親密になっていった。そして、それに拍車をかけたのが
リリスだった。ラーニャと中庭で話しているとき、ふと上を見るとリリスがいて…初めて私に感情を向けてくてれた。それが軽蔑によるものだとしても、とても嬉しかった。
それからはリリスの視界に入る場所で、ラーニャと仲睦まじく過ごした。
その度に冷たい視線を浴びせてくるが、感情を向けてくれただけで嬉しい。だが最近、リリスは弟のレイスといることが多い。
弟は騎士団副総督なのだから、リリスといることは不思議ではない。だが、弟をみるリリスの瞳はどうだ?困ったような、軽蔑が混じったような多種多様な感情を向けている。
リリスは私のものなのに。
弟であろうと、リリスを奪う奴は許さない。
お願いだから、他の男に感情を向けないでくれ…私だけを、見てほしいのに。
この時、私は決心した。
いい加減、ラーニャも飽きた。
冷静に考えれば、ラーニャはただの計算高い女だった。私以外の男にも愛想を振り撒いている。他の女と同じで権力が欲しかっただけだ。
やはり、私にはリリスしかいない。
リリスは権力に屈しないし、誰かのいいなりにもならない。
自由で、マイペースで……だから、本当の感情をリリスの前で出すことは出来なかった。愛の言葉すら、リリスの前へ立てば出てこない。
つい、冷たい言葉ばかりかけてしまう。でも、その度に冷たい視線を向けてくる。悲しいけど、感情のない瞳で見られるよりは百倍ましだ。
そして、私はラーニャの思惑を利用することにした。
彼女を騎士団総督という立場から外し、国外追放にする。そしたら、私は地位を捨ててリリスを誰の目にも触れない場所へ連れていく。
他の女はいらない。縛り付けられたくない。
リリスを、他の男に見せたくない。彼女に会った者はきっと一目惚れしてしまう。そんなの、許せない。彼女を誰にも見つからない場所に閉じ込めて、私だけのものにしたい。
他の奴がいなくなれば、私だけを見てくれるに違いない。
あの日会った時から私は、リリスを
自分のものにしたいと思ったんだ。
そして、運命の日。
この日、彼女は私のものになる…………筈だったのに。
弟のレイスが、邪魔をした。何を言っても否定され、正論を叩きつけられ…為す術がなかった。
そして、私は絶句した。
あの完璧主義者かつ堅物のレイスが、リリスに蹴られて喜んでいた。
弟のこんな性癖、知りたくもなかった。
ていうか、羨ましい。
痛いのは嫌いだが、リリスが相手ならば我慢できる。
……そして、その時我にかえった。
リリスが初めて、私をちゃんとまっすぐ見てくれた。
彼女の瞳には私が映っていて、
その時こもっていた感情は分からない。だが、心が温かくなってくる。
しかし、ラーニャがリリスへ牙を向いたときは、殺してやろうかと思った。
だが、リリスは呆気なくラーニャを取り押さえた。彼女はとても強い。私は、自分が恥ずかしくなった。自分の感情を身勝手に彼女に押し付け、一方的な感情をぶつけていただけに過ぎなかった。
やろうと思えば、彼女は私を罰することも出来た。実力でも頭脳でも、
私は彼女には劣る。それに、今まで何度も心ない事ばかりいってしまった。
これでは、彼女に好かれなくて当然ではないか。
そう思うと、冷静になれた。
自分の欲を叶える為に、彼女の幸せを私は奪おうとしてしまった。
仕事をしている時のリリスの顔は晴れ晴れとしていて、膨大な仕事量にも関わらずいきいきとしていた。
ただ、その感情を私に向けてくれるだけでよかったんだ。
リリスがレイスを見る目はまんざらでもない様子で、私の恋はここで終わったのだと気付いた。
そして、最後に彼女はこういった。
『私は私だから、誰のいいなりにもならない。』
あぁ、なんて彼女らしいんだ。
高潔で、清純で…愛らしくも美しき薔薇のような人。それがリリスだ。
いつだって平等で、こんな私にも厳しくも優しい罰を与えた。
リリスは人を狂わす薔薇の花。
薔薇のように美しく、棘で相手を牽制する。そして、それもまたリリスの魅力。
本当に、彼女には敵わないな…。
私の最初で最後の恋は、ここで幕をを閉じた。
その後、私は他国の王女と結婚した。愛こそない婚約だったが、その王女は自由満帆で民想いの優しい娘だった。
義父も温かく迎えてくれて、王女とはいい関係が築けている。
そして、リリスはレイスと婚約したらしい。恐らく、リリスがレイスしつこさに折れたのだろう。
祖国であるラングレイは益々繁栄した。これもリリスの手腕のお陰に違いない。
寂しくもあるが、私はこちらでやるべき事がある。次にリリスと会う時までに、私は立派な王とならねばならない。過去は過去。リリスへの未練はもうない。彼女は私は相応しくなかった。
高潔な薔薇は誰をも惹き付ける。棘で相手を制する。そして、その薔薇に触れられるのは薔薇の棘を受け止められる者だけ。私にはその力がなかった。ならば、私は祖国とこの国の為に最善を尽くすまで。リリスやレイス達に負けぬ、民が安心して暮らせる平和な国を築いて見せる。
新たな婚約者と共に……。
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