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地続きの島流し  作者: みかんたくわん
8/8

離島の素養

「遅かったな相棒、もう会えないかと思ったぜ」

経済学の講堂の前で偉そうに腕を組み、壁にもたれかかっている藤田。


「タヌキさんから、煮て焼いて食うとの言伝を預かっている」

「…ほんとお?」

「残念ながら嘘」

「それはタチの悪い冗談だぞ。それで、タヌキさんは何て?」

「離島の心を失うなと」

「なるほどね、了解」

「お、お前、意味がわかるのか…?」

「フォースと共にあれ的な」

なるほど。


「お。終わったみたいだな」

講義が終わったようで、講堂からゾロゾロと出てくる新入生たち。

同時に、新入生勧誘のために編成された、各サークルの斥候部隊も集まりはじめていた。


「確認だが村井、俺達は新入生拉致のために適当なテニサーに潜入する。それでよかったな?」

「そのつもりだ」

「ということは俺たちは新入生のフリを?」

「新入生でなくともサークルには入れるだろうが、今の時期はそのほうがスムーズだろう」

ましてや引き抜きだ、みすみす素性を明かすこともない。

新入生の波に紛れて講堂から出ていけば、我々も新入生だと思われるはずだ。

藤田との最終確認もそこそこに、裏手の入り口からこっそり講堂に入る。


少し重い扉を開けると、階段になって席が並んでいるこの講堂の一番後ろ、一番目立たない席で机に突っ伏して寝ている学生が一人。


「おい藤田、こいつはまさか…」


突然だが、諸君は大学デビューという言葉を知っているだろうか。

基本的に大学進学では新しいコミュニティに属することになる。

高校からの友人が数人居たとしても学部学科が違い、結果疎遠になっていくものだ。そうなると新入生は必死に友達作りに励む。コミュニケーションにおいて第一印象が最重要であることが周知の事実であるが故に、本来の自分よりも良く見せよう、高校時代の陰鬱な自分とはおさらばしようと考える若人が後を絶たない。その身の丈に合わない無理な背伸びがあまりにも散見されるため、総称して大学デビューと呼ばれているのだ。

弱者に鞭を打つような言葉だが、そのように揶揄されようとも新入生にとって第一印象は重要なのだ。Twitterには己の学部学科情報を書き連ね、Instagramには出会って2日の仲間たちとの集合写真をアップするのが通例であり、講義の合間は常に周囲に合わせて集団行動に務める。それは特別なことではなく、むしろ新入生のスタンダードなのだ。


「テニスサークルに入る手間は省けそうだな、村井よ」


講堂の中はあっという間にがらんとし、目の前の彼は誰にも起こされることなく、取り残されたかたちになった。今頃他の新入生達は表でサークルの勧誘を受けていることだろう。


我々は幸運にも、労することなく見つけてしまったのだ。

そうか、これが離島の心…

どうか目の前で眠る彼のキャンパスライフに、フォースの導きがあらんことを…

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