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地続きの島流し  作者: みかんたくわん
7/8

春、嵐の前の

「離島研究会だからね、部室も離島なんだ」

というのは新入生への鉄板ジョークの予定だったが、はたしてフライトチャンスは来るのだろうか。


大学敷地内の最北に位置する旧部室棟。半ば物置と化した建物の一室が、離島研究会の部室としてあてがわれていた。

ちなみに部室までの間にはちょっとした並木道がある。普段は煩わしい距離だが、紅葉の時期だけは少し得した気分にならないこともない。


「おや、村井くんだけかい、藤田くんは……捕まらなかったのかな?」

入室したところ、読みかけの旅行雑誌を閉じて、「待っていたよ」とこちらに手を振る人物が一人。

離島研究会代表、四回生のタヌキさんだった。

「藤田は逃げました」

「そうかい、そうかい。あのぽんぽこりんめ」

「それで、えっとタヌキさん」

「ああ、そう構えなくていいよ。新入部員の件。苦戦してるみたいだね」

村井がタヌキと呼ぶこの男。彼はもちろん狸ではない。名前からなぞらえたあだ名であり、彼の周りが皆そう呼ぶものだから、村井もそれに倣っていた。

タヌキさんの外見に言及するのなら、俗な言い方になるがイケメンだ。女性向け恋愛ゲームなら和装に狐面を身に着けそうな雰囲気だ。

だがタヌキである。

なんなら狸面を着けている姿を見た覚えもある。あれは昨年の大学祭だったか。

タヌキさん自身「昔から親近感があってね」なんて言い、タヌキ呼びを受け入れたうえ、いつもひとつ、たぬきグッズを身に着けている。

今日の服装からは見つけられないがきっとどこかに忍ばせているのだろう。たぬき。


「それでね村井くん、どのあたりで苦戦してるのかな?」

「勧誘ですか?そうですね、チラシを配ってても手ごたえはイマイチで。そもそも受け取ってもらえないことも」

「ふーん、受け取ってもらえないのは誰に?」

「それはもちろん新入生ですけど」

「ほうほう、だったら考え方を変えてはどうだろう」

どういうことだろう?新入生以外にも声をかけてみたらいいのということか?

しかし我々が欲しているのは新入部員。二回生でも新たに入部するなら新入部員。

そういう理屈なのだろうか。

「よく考えたまえ、皮算用も大いに結構。勧誘で苦悩することは二回生の特権なんだから」

「特権なんです?特権というのはもっとこう……」

言いかけたがやめておく。なんだか卑しい部分を晒しそうだ。

「お話はこれで?」

「そうでけど……ただあとひとつ大事なことが」

大事なことと言われれば真剣に聞くが、予想はついていることでもあった。

「それはね、離島の心を忘れちゃいけない」

離島の心。タヌキさんがよく言うセリフ。別の先輩も似たことを言う。

はっきり言ってよく分からない。

ここに藤田が居たら言うだろう。

「もちろん、離島の心を失ったら終わりですよ」

言うがあいつも絶対分かっていない。それだけは村井にも分かっていた。


「さて、来てもらってすまないが、そろそろ時間じゃないかな」

「……あ!」

気がつけば講義の終了時刻まであとわずか。

一応次の講義終了時に新入生を出待ちする作戦だった。

こんな北の果てから移動することを考えたら本当に際どい時間だ。

「じゃあ俺はこれで」


部室を出て、早歩きで並木道を進む。やっぱり煩わしい。もっと建物はひとまとめに建ててくれよ。

ほらそこの新入生らしき女子も戸惑っている。なぜ新入生か分かるかだって?

この季節に大学便覧を片手にうろうろしてるのは入学したての新入生ぐらいのものじゃないか。


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