誰も願いをかけない流れ星
相手に気づかれずに物を盗む所謂スリとは逆に、気づかれず物を持たせることを何と呼ぶのだろうか。結局まともに勧誘をしたところでビラ一つ受け取ってもらえないのだ。六等星には荷が重い。結果身に付いたこの技術の他の使い道を考えていると、藤田が戻ってきた。
「これ以上は無駄だろう。場所か時間、どっちかは変えないとさ」
「確かにな。こんなに人がいるのはずなのに、お前が離れていったら独りぼっちだったわ」
「可哀想に……」
「お前もだろ」
無駄な技術を覚えなかった藤田のビラは、全くといっていいほど減っていない。しかし減れば良いということでもない。人が来なければ一緒だ。ティッシュ配りとは違うのだ。まずは一人でもいい、とにかく話だけでも聞きに来てくれる新入生が欲しい。話だけ聞いて帰れる保証などどこにもないのだが。何にせよ新歓を開かねばならないのだ。新歓を開くために勧誘をする、不思議だなあ。
その後も勧誘らしきことをしてみるも、見事に空振り。バッターボックスに立てているのかも、他の人達からすれば怪しいか。
「流石に悲しくなってきたな。村井、俺のことちゃんと見えてる?」
「同じ立場の奴に聞くなよ。多分これが島流しの気持ちなのさ、いや知らないけど」
二人で自分の胸に目を落とす。
「……ここは陸の孤島か?」
「外界に連絡できるはずなんだがなあ」
麗らかな春の日のはずなのに、何故か寒くなってきた気もする。人だかりの中で人肌が恋しい。
「よし、こうなったらさっきの村井の案を採用するか。このままじゃどうにもならないし」
「なるほどつまりテニスサークルかあ、楽しみでもあるけど不安だなあ。」
「さてと外界に連絡連絡」
藤田がスマホを取り出す。
「陸の孤島でどこに繋がるって言うんだ?」
「どこでだって先輩には繋がる」
「必修科目の講義ってどこだっけ」
急に冷静になってしまった。
「まあ必修って言っても学科次第だしな。めぼしいのだと……経済とかか」
「じゃあ2階の講堂か、近いしそれにするか。それまでどこかで作戦でも考えようぜ」
「このままここにいても仕方ないしな。なんとか捕まえないとな」
「そうそう」
「うんうん」
別に人だかりの中なのに寂しくなってきたわけではない。互いにこの場は一時撤退しただけと自分に言い聞かせ、六等星達は流星のようにその場を後にした。いやただそそくさと逃げ出しただけとも言うのだろうが。きっと速さだけは同じ。
この時間だと学食とはいえ流石にまだ人は少なく、窓際の席に腰を掛けた。カフェではなく学食。しかしお洒落にも自販機で買ってきたペットボトルコーヒーを片手に今後の作戦を練る。
「やっぱり出待ちか?」
遅れてカップのコーヒーを持ちながら藤田が座る。
「先に勧誘しても講義挟んでる内に逃げられるぞ。すぐに連れてくのが正解だろう」
誘拐の相談でもしているのだろうか。我ながら言葉を間違えている。
「まあ講義の間待ってるのもなんだしな。しかし出待ちか、久々にするわ」
久々に、出待ちを、する。つまりしたことが過去にあるということだ。ストレートに考えるならアイドルか。心が純粋なら、高校時代に好きな娘に……とかも先に思い付いたのかもしれないが、その心はもう萎れて枯れてしまった。出待ちをしてどうするか、ということよりも藤田の言葉が気になってしまった。
学食の時計を確認するとまだまだ経済の講義が終わる時間は先だ。というかまだ始まってもいない。元々相談する内容などなかったに等しいのだ、一言二言で終わってしまった。さてこれからどうしたものか。