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地続きの島流し  作者: みかんたくわん
2/8

水みたいな水割りが一番美味しい時もある

 桜の樹の下には屍体ではなく大学生のゲロが埋まっている。

 午後10時。大学近くの亀三公園は春祭りで賑わっていた。この時期になると桜の木の下では毎夜毎晩新入生歓迎の飲み会が行われている。


 よく馬鹿と天才は紙一重だと聞くが、悪と正義、裏切りと信頼、ビッチなギャルと清楚な乙女などなど、物事の醜美は表裏一体であり、ゲロと桜もその括りなのかもしれない。

 公園を離れ行きつけのバーへと歩みを進めながら、4回生の讃岐は酔った頭で考えていた。


「あら、さぬちゃんいらっしゃい。最近来ないから男でもできたのかと思ったわ」

「就活でそれどころじゃないよ愛ちゃん。エントリーシートが夢に出てきそう。水割り頂戴」

 カウンター内の中年男性にいつものオネエ言葉で迎えられつつ、私は手前から2番目に座った。

 ちなみに今日は本当に久しぶりだけど、週一で通っていたとしても基本的に「久しぶりね」と言われる。水商売の基本なのだろうか。


 愛ちゃんはオカマバー『愛の国』のママ。昔は普通のサラリーマンだったらしいけど、今は1人でこの店をやっている。(ちなみに本人の前でこの話をすると「OLね」と強めに訂正されるので注意)

 私は2回生の頃からこの店に通っているけど、他の客はあまり見たことが無い。現に今も私だけだ。ちゃんと儲かってるの?と聞いても、愛ちゃんは「太客がいんのよ」としか答えてくれない。


「就活で忙しいわりには結構飲んできたように見えるけど?」

 女の子なんだから1人の時は控えなさいよ~と言いつつも水割りを作ってくれている。

「今日はちょっとだけね。サークルの新歓の時期だから。ちょっとがいっぱい」

「あんた色々入ってるもんね~。10個くらいかけもちしてるんだっけ?」

「まぁバイトみたいなものだから。在学中に処理し切れるか怪しいけど」

「ほんとたくましいわねえ。繊細なアタシには真似できないわ」

「コツがあるだけで、そんなに難しいことじゃないよ」

 出された水割りを一口飲む。美味しい。

 普段は「ケチりやがって!」とすら思える愛ちゃんの薄い水割りが、酔った体には染みる。

「酔ってると甘い水みたいで美味しいね」

「ケンカ売ってるなら買ってあげるわよ」

「褒めてるんだけどなあ」


 愛ちゃんがカウンターから出てきて、私の隣の席に座りタバコに火をつける。1杯目にしてラストオーダーだったらしい。まだ10時過ぎだけど。


「で、就活は順調なの?」

「まだなんとも。正直新卒が信頼される業種ではないから、個人事業主としてはじめてもいいのかなって」

「個人でやるのは大変よ~。アタシは確定申告のたびにヒィヒィ言ってるわ」

「みんなそれ言うよね。大体やめとけって言われるから、とりあえず大学生らしく就活してるってわけ」

「あんたの経験を生かすならコンサル系とかを目指してるのかしら」

「そう、まさにコンサル」

「確かに新卒でコンサルって言われてもねえ~」

 私なら頼まないわ。と言いタバコをふかすオカマ。


「そもそもコンサルって業種自体フワっとしてるわよね~。言ってることは大層だけどあなた、何ができるの?みたいなね。ただ、」

「ただ?」

「さぬちゃんならその辺のエセコンサルよりよっぽど使い道あると思うわ」

「使い道ってひどいなあ」

 愛ちゃんはほとんど歯に衣を着せない。だからこそ信頼できるし、私も素の自分を見せるのは家族の前かこの店くらいだ。

「もし本当に個人でやるのなら、コンサルって名乗らない方がいいわよ。だってあんた、実際やってることってコンサルとは真逆じゃない?」

「それはそうだけど、じゃあ何て名乗るの」

「…探偵とかでいいんじゃない」

「仕事来るかなそれ!」

 思わず笑ってしまった。

「こんな時代だし、そっちのほうが案外需要は多いかもしれないわよ~」

「そんなもんかなあ」

「そんなもんよ」



 物事の醜美は表裏一体である。


 彼女は大学4回生讃岐。現在所属しているサークルは9つ。

 大学生活3年間で破壊したコミュニティは31グループ。

 コンサル業界への就職を目指すプロサークルクラッシャーである。


「明日朝から新歓のビラ配りがあるからこれ飲んだら帰るね」

 プロサークルクラッシャーの朝は早い。

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