第八話 そして再び
『狼』の拠点に逃げ延びたエメラにはどんな出来事が待ち受けているのでしょうか?
意外なことが起こるのも縁なのかもしれません。
いつの間にか、時計の針は加速を始めます。
酒場の地下は、テーブルが四つほど置いてある無機質な壁に囲まれた密室になっていた。
煌々とした灯りがともされている。電気ではなくランタンのようだ。
あまり心地よい空間とは言えないが、ここにも色々な使い道があるのだろう。
バーテンダーは一番近いテーブルの椅子を指して、「こちらへどうぞ」と促した。
このバーテンダー、年の頃は五十代くらいであろうが、相当落ち着いた感じをにじませていた。体は大きくないが、存在感を感じる。
白髪が少し混じっているが、若さを感じる雰囲気を持っていた。
エメラは何も言わずに椅子に座る。木製の、頑丈そうな椅子だった。
バーテンダーも対面に座る。少しの間、沈黙が支配した。
「ここが『狼』の拠点なのか?」
エメラが先に口を開いた。
「左様ですね。逃げ延びた同志の身の振り方などを考える、駆け込み寺といった感じの場所です」
こほんと咳払いをしてバーテンダーは続けた。
「貴女もここに身を寄せたようですが……いかなる事情がおありで?」
「先ほどまで政府庁にいた。だが爆発が起こった混乱に乗じて逃げ延びてきた。ヤンという青年に助けられたよ」
「なるほど。計画は成功したようですね。ヤンは無事でしたか。忘れておりましたが私はシャトーと申します。出来れば貴女のお名前もお聞きしたいのですが……」
「済まない、失礼をした。エメラだ。よろしく頼む」
それを聞いたシャトーは心から驚いたような表情をした。
「もしや隊長の愛娘のエメラ殿ですかな? 生きていらしたとは! 確かに隊長の面影がある」
シャトーは嬉しそうにエメラを見つめる
「あの後かくまわれて十年過ごしてきた。だが、最近残党狩りの連中に見つかってしまった。私だけは逃げることが出来たが、かくまってくれた仲間は恐らく……」
「そうでしたか……。しかしこうして会えたのも何かの縁。本当に喜ばしいことです」
そう話していると、階段を降りてくる足音が聞こえた。エメラは思わず身構える。
「お久し振り、エメラちゃん」
相手はこちらに気付いた様子で、苦笑交じりに声をかけてきた。
足音の人物はよく知っている――いや、つい最近会っただけだが――人物だった。
「スレイ! どうしてここに!?」
そう、この間酒場で出会った、『狼』の仲間、スレイだった。
再会した二人ですが、背負っているものは違うのかもしれませんね。
良い再会とは言えないのかもしれませんが、見知った相手と会うのは、安心感があるのかもしれません。




