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革命――ある女兵士の逃亡譚  作者: 姫草りあ
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第十六話 悲劇の連鎖

悲劇は繰り返します。

どこまでも、連鎖し続けて。

呆然と立ち尽くすシェーメル。なんだ、これは。この男は何を言い出すのだ?

「そんな……そんなことがあるはずはない! エフィは世界で一番大事な妻だ! 娘二人と共に最後まで私と戦ってくれる、一番の仲間だ!」

シェーメルはあり得ないとばかりに大声を出す。

「お前の奥さんはな、帝国に魂を売ったんだ。情報筒抜けな状況、思い出してみろよ?」

はっとするシェーメル。確かにエフィには話していた。作戦の内容、これから起こること、その他様々ことを。

「そんなはずが……くっ」

「確かめて見れば良いじゃねぇか。ここからそう遠く無いだろ? お前の実家。自分で確かめたら分かるだろう?」

くくっと笑うヨシュア。いつの間にか、ヨシュアに対する感情が憎しみに変わっていた。

「さっさと出てって確かめてこいよ。昔なじみのよしみだ。殺さないで送りだしてやるよ、反乱軍の隊長さん」

そして楽しそうに笑う。この男が憎い。

「ありがとうと言っておこう。借りは必ず返す。覚えていろ……」

それだけ振り絞るとシェーメルは踵を返した。


一体何故。いや、きっと嘘だ。あいつが嘘を言っていたに違いない。

もう夜のとばりが降りる頃、シェーメルは自宅へと向かって早馬を飛ばしていた。勿論エフィに事実か問いただすため、そしてもし事実なら、私は彼女を……。


シェーメルの生家にたどり着いたのは真夜中だった。

あまり裕福では無い人々が暮らす村。そこにシェーメルの家はあった、

家に灯りは付いていない。だが、カギはかかっていた。シェーメルはあまり音を立てないようにしながら、カギを開ける。

そして家の中に入っていく。

「エフィ、いるのか!?」

思わず大声を出してしまう。少し待つと、エフィが出て来た。相変わらず長く綺麗な黒髪をなびかせて。

「あなた……」

「聞きたいことがある」

そう言うと、エフィは観念したような顔をした。

「全て、話すわ」

そして一呼吸する。

「あなたの推測通り、あなたの情報を政府軍に売ったのは私です」

「何故だ! 何故そんな裏切りを」

「情報を流したら……戦が終わったら、お前達家族の命は保証しようと言われたの! 私は家族を守りたかった! 家族だけは!」

「なんてことを……」

シェーメルは気が抜けて何も考えられなくなった。

「まさか、お前が間諜だったとはな……」

「私は家族を裏切ってしまった。でもあなたも、エメラもユラも、家族みんなを守りたかっただけなの! 私は家族の誰一人も失いたくなかった!」

エフィは叫ぶ。心の悲鳴だ。全て歯車が狂っただけなのだ。誰も、悪くないのだ。

「すまない、だが私はこうするしかない」

シェーメルは懐から銃を取り出す。軍事用の拳銃だ。

「ごめんなさい、あなた……。娘だけは守ってね……」

すまない――。

パンっ。銃声が一度響く。

エフィの身体を銃弾が貫き、辺りが血に染まっていく。最後に見たエフィの顔は、悲しそうだった。

シェーメルは最早何も考えることが出来なかった。何が正しいのか、何が間違っているのか。一体どうすれば良いのか。

一番は自分自身が腹立たしい。

「父さん……?」

!?

そうだ、この家にはもう一人住んでいる者がいた。幼さから戦争を体験させたくないと思い、家に残した愛娘、ユラだ。

なんてことだ、母親が殺されるシーンを見てしまったのか。

「ユラ! 見てしまったか……。父さんのことは恨んでくれ。すまない」

そしてシェーメルは玄関に向かい、外へ出て行く。

「なんで? なんでお父さん! なんでお母さんを撃ったの!」

ユラは絶叫する。

シェーメルは答えない。いや、答えを持ち合わせていないのだ。もう何もかもが終わりだ。せめて、この革命だけでも成功させよう。その後はどうなっても良いから。悲劇はいつまで続くのだろう。

家の外。シェーメルは一人で歩いていた。懐かしい、この雑貨屋。エフィとよく来たな……。

シェーメルの目から、一筋の涙がこぼれた。


ここで一つの区切りです。

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