昭和17年8月9日 サボ島周辺 深夜
昭和17年8月9日 サボ島周辺 深夜
ガダルカナルに停泊していたアメリカ軍の艦隊に手痛い砲雷撃をくわえた第八艦隊だが、サボ島を半時計回りに航行中、思わぬハプニングにみまわれる。古鷹が舵故障を起こし、進路を大きく左に曲げてしまったのだ。古鷹の後続であった天龍、夕張がそれに追従する。そのため第八艦隊ははからずも鳥海を先頭にする隊と古鷹を先頭にする隊の二列縦陣になってしまった。
そこに砲撃を聞きつけてアメリカの別動隊が現れる。巡洋艦ヴィンセンズ、クインシー、アストリア、駆逐艦ヘルム、ウィルソンの五隻だ。
「左舷に敵艦影!」
鳥海の見張り員が叫んだ。
「右舷 敵艦隊!!」
ほぼ同時に古鷹の見張り員も大声を張り上げていた。
ヴィンセンズたちは鳥海隊と古鷹隊の真ん中に突っ込んでしまったのだ。
「探照灯!!」
探照灯が五隻をくっきりと浮かび上がらせた。
「全砲門開け!」
「撃ちかた始め!」
「魚雷装填急げ」
矢継ぎ早に命令が下され、第八艦隊は高角砲、機銃に至るまで持てる火力全てを敵艦隊に叩き込む。
両側からの猛攻撃にたちまちアストリアが爆沈。続いてクインシー、ヴィンセンズも沈没した。
第八艦隊はそのままぐるりと一周する。
「全艦速力そのまま。
このまま、この海域を離脱する」
三川中将の命令に早川艦長は驚きの表情を見せた。
「離脱ですか?!
また、沖合いには敵輸送船が無傷で停泊しています。
これを攻撃するべきです」
しかし、三川中将は首を横に振った。
「深追いは禁物だ。このまま、ぐずぐずしていて敵機動部隊に反撃をされたら、もとも子もない。これだけの戦果を上げたのだ。欲をかかず、さっと引くのが兵法というものだ」
第八艦隊はその言葉通り、脱兎の勢いでラバウルに帰還する。
ガダルカナル沖になすすべもなく浮かぶ、輸送船に指一本触れることなく……
その輸送船に積まれた補給物資がその後の戦闘を大きく左右するなどとは夢にも思ってはいなかった。
2019/08/09 初稿
2019/08/09 誤字修正&文章一部変更