昭和17年8月8日 ソロモン沖 夜9時
昭和17年8月8日 ソロモン水道 夜9時
墨を流したような漆黒の海を巡洋艦鳥海は静かに進んでいた。
そのすぐ上を三機の水上偵察機がとびこえていく。
「全艦増速 26ノット」
第八艦隊司令長官三川中将が号令を下す。
心持ち艦首が切り裂く白波が大きく、高くなる。
やがて、前方に丸い島がぼんやりと浮かび上がる。サボ島というガダルカナルの北に位置する直径10キロにも満たない小さな島だ。この島を抜けるとガダルカナルの沖合い。そこに目指す敵艦隊が停泊している。
今朝、飛ばした偵察機の報告では巡洋艦三、駆逐艦七、輸送船二十だ。
ようやく、ここまでたどり着けた
昼間、敵の偵察機に一時間ほど張り付かれ時はいつ敵機が攻めてくるかと気が気ではなかったが、幸いなことに敵襲はなかった。
三川中将は安堵の気持ちとこれから始まるであろう戦闘に対する緊張という相反する不思議な感覚に包まれていた。ここまで来ればあとは日本帝国海軍のお家芸である夜襲あるのみだ。どのような大艦隊が待ち受けていても、遅れを取ることはあり得ない。
「総員戦闘準備 夜戦に備えよ」
三川中将は雷鳴が如く大声で全艦にむけ号令を発した。
2019/08/08 初稿