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青い海、青い空、白い雲…… 赤い砂浜  作者: 風風風虱
第二章 我らその川を越えて行かん
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昭和17年8月21日 中川 午後1時

昭和17年8月21日 中川 午後1時

ルンガ飛行場の東 約1キロ


「突撃失敗です」


 沢田中隊長が額から流れる血を拭おうともせずに蔵本大隊長に報告した。


「砂丘の出口のところに電気を流した鉄条網があるそうです。

あれを何とかしないと敵陣への突撃は難しいと思われます」

「ううむ、そうか。

支隊長殿に工兵の出撃を要請しよう。

鉄条網を排除したら再度敵陣に突撃をかける」

「了解……

だ、大隊長。どこへ行くのですか?!」


 川縁に歩いていく大隊長を見て沢田中隊長は慌てて叫んだ。


「戻ってください。危険です」


 沢田中隊長の言葉に蔵本大隊長はくるりと振り返る。


「危険? 危険なのは兵隊だ!

なんとしても敵の弱いところを見つけねば」


 蔵本大隊長はずんずんと川へと歩いていく。

 

「ふむ、確かにこっちの岸からあの河口の砂丘の先端の川幅が一番短いが、砂丘の出口の鉄条網が厄介だ」


 蔵本大隊長は、ぶつぶつ言いながら双眼鏡で砂丘の様子を観察する。視線を徐々に左、川の上流へ向けていく。少しいくと急に上り坂になり崖になっていた。


「あの崖は登れない。だが、崖と砂丘の間も渡れないことはないか。

川幅はかなりあるが、渡れるのか」


 大隊長は深度を計ろうと川へ足を踏み入れる。シュポンと音がすると、照明弾が打ち上げられた。辺りが白々と照らされる。


ダダダダダ


 銃声が轟く。照明弾を光を背景に蔵本大隊長の体がびくんびくんと震えた。何か大隊長がふざけて踊っているように沢田中隊長の目には映った。そして、大隊長の体は川面(かわも)に弾けとんだ。

 バシャリと水が跳ねた。


「大隊長!」


 叫ぶのと地に伏せるのはほぼ同時だった。銃弾がほんの数センチ手前の土を何度も抉った。

 照明弾が消えると辺りは闇に戻り、銃声も止んだ。

 沢田中隊長は懸命に倒れている大隊長のところまで這っていくと、渾身の力で近くの窪地迄引き摺っていった。


「大隊長。大隊長」


 懸命に呼び掛けても返事はない。

 蔵本大隊長はかっと目を見開いたまま息絶えていた。胸からはまだ血がじわじわと流れていた。







2019/08/21 初稿

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