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青い海、青い空、白い雲…… 赤い砂浜  作者: 風風風虱
第二章 我らその川を越えて行かん
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昭和17年8月20日 川西岸 午後11時

昭和17年8月20日 川西岸 午後11時

ルンガ飛行場の東 約1キロ


 支隊は午後10時頃に再び行軍を開始した。しばらく歩くと左手に小高い丘が現れた。

 行軍を速やかにするために丘を避け、丘と海の間の狭い砂浜を進んだ。幅300メートルほどの砂浜を支隊は四列縦隊で静かに行軍していった。

 やがて道が拡がり大きな砂場のような場所に出た。

 そこで支隊の歩みが止まった。


「川? 沼か?」


 沢田小隊長は目の前に突然現れた水の障壁に戸惑いの声をあげた。

 テラテラと月の光を反射させ左から右へと支隊の行く手を遮る名も知らぬ川はさながら大蛇のようだった。

 実は、これこそが本当の中川であった。

 支隊が1時間ほど前に苦労して渡った川の本当の名前はテナル川という。

 中川は海につながる河口際で垂直に近い角度で曲がる、さながらギリシャ文字のΓ(ガンマ)のような形をしていた。

 沢田小隊長以下がどうしたものかと思っていた、その時


シュポン


シュルルルルルル


 唐突に川の向こう岸から光の玉が尾を曳きながら空をかけ上っていく。砂浜が昼間のように明るく照らされた。

 照明弾だ。

 支隊のほとんどの人間が眩しげにそれを眺めていた。


ダン ダーン


ズガガガガガガ


 次の瞬間、猛烈な火線が川を越え、一木支隊に襲いかかった。


「うわっ」


「ギャッ」


 あちらこちらで悲鳴が上がった。


□□□


 突然の照明弾、それに続く銃声。

 一木大佐のいる支隊本部は恐慌状態に陥った。

 何が起きているのか理解しようと前方を凝視する一木大佐の目の前に照明弾に照らされた中川がその全貌を現していた。


「なんだあの川は」


 思わず吐き捨てたその言葉。その一瞬後にあれこそが本当の中川であると思いいたり、愕然とした。

 中川一帯にあると予想していた敵の防衛線。それが今まさに部下たちに向かって牙をむいているのだ。戦端はいやがうえにも開かれてしまった。

 五年前のあの忌まわしい記憶が甦る。


「攻撃命令でよろしいか?」


 あの時、中国の荒涼とした大地で、自分は予期せぬ攻撃を受け、否応もなしに戦端を開くことになってしまった。それが太平洋戦争という道に続いていた。ならば、この戦いはどのような道に続いているのだろうと一木大佐は不意に恐ろしい気持ちになった。


「攻撃命令と受け取ってよろしいのですね」


 あの若き頃の自分の問いかけが耳元ではっきりと聞こえた。

 今、その判断をするのは自分しかいなかった。


「応戦せよ!」


 一木大佐は叫んだ。


 突撃するのだ


 一木大佐は心の中で叫び、そして、思った。どこへ?と。

 一木大佐は銃弾が横を通りすぎるのも構わず、突撃点を見極めようと川辺を睨み付けた。

 川の上流の方は崖になっていてとても登れない。ならば下流かと右に目を向ける。すぐに河口に張り出した半島のような砂丘が目に止まった。


 あそこだ!


 一木大佐は直感的に思った。


「河口の砂丘を渡河して突撃。敵陣を制圧せよ!」

「了解しました」


 一木大佐の命令に富樫大尉が呼応する。


「中元伍長!

蔵本大隊長へ伝令。

河口の砂丘を目指して川を渡り、敵陣に突撃せよ!」


 富樫大尉の命を受け、中元伍長は転がるように銃弾が飛び交う砂浜へ走り出した。



2019/08/20 初稿


2019/11/08 誤字訂正 & 少し文章を手直し

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