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青い海、青い空、白い雲…… 赤い砂浜  作者: 風風風虱
第二章 我らその川を越えて行かん
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昭和17年8月19日 テテレ 午後3時

昭和17年8月19日 テテレ 午後3時

ルンガ飛行場の東 約17キロ


「支隊長、支隊長!」


 富樫大尉が走ってくるのを見て、一木大佐は何かまずいことが起きたと直感した。


「斥候隊が、斥候隊が――」

「斥候隊がどうした?」


 敵と接触したのか

 交戦中なのか


 一木大佐は瞬間的に様々な善後策を考えながら立ち上がる。


 場所は?

 敵の規模は?

 すぐに増援を送るべきか、それとも全軍で……


「斥候隊が全滅しました」

「なっ?!

今、全滅と言ったのか?

全滅?斥候隊が全滅?」


 さすがに想定外の言葉に一木大佐も事態を飲み込むことができなかった。報告した富樫大尉自身も顔面蒼白で唇がワナワナと震えていた。


「さ、先ほど斥候隊の奥野兵長が戻ってきて、斥候隊が全滅した報告してきました」

「奥野が?奥野はどこにいる。直接話が聞きたい」

「こちらへ」


 富樫大尉についていくとすぐに人だかりの出来ているところにたどり着いた。中心にいるのは確かに奥野兵長だった。 


「奥野兵長!状況を報告してくれ」


 奥野兵長は一木大佐の姿を認めると居ずまいをただした。


「支隊長、申し訳ありません。斥候隊は全滅しました」


 改めて奥野兵長に言われる言葉にそれなりに衝撃的ではあったが、一木大佐は大分冷静さを取り戻していた。


「それは分かった。落ち着いて何があったか話してくれ」

「はい。昼の頃です。斥候隊は小さな村につきました。地図によるとコリ岬の少し西です。

無人の村でした。そこで小休止を取りました。

小休止を終えて、さらに西へ向かおうとしたとき突然、敵の襲撃を受けました」

「敵の規模は?」


 一木大佐の質問に奥野兵長は首を横に振った。


「確かなことは分かりません。正面からものすごい銃弾の嵐が起こったのです。

そうこうしているうちに左や後方からも銃弾が飛んで来ました」


 六十から百人というところか、と聞いていた蔵本大隊長がぼそりと呟いた。


「渋谷大尉たちはどうなった?」

「渋谷大尉は最初の銃撃で亡くなられたと思います。館小隊長殿が下がれとお命じになられていましたが……

その声もすぐに聞こえなくなりました!」


 奥野兵長はボロボロと涙を流し始めた。

 一木大佐は、どうしたものかと空を見上げた。が、蔵本大隊長や富樫大尉がじっと自分を見つめているのに気がつくとすぐに彼らに向き直る。一呼吸すると言った。

 

「直ちに救援隊を組織する。

救援隊は1中隊に救護班をつけたものとする。

大隊長、大隊から1中隊を抽出してくれ。

富樫大尉、田坂(たさか)軍医長に至急救護班を組織させてこの場に寄越すように伝えてくれ。

救援隊は編成できしだい直ちにコリ岬に出発。

支隊本体は日没まで警戒体制でこの場に待機。

中元(ちゅうげん)伍長、機関銃中隊小松中尉に伝令。直ちに周辺要地に機関銃を設置して敵の襲撃に備えさせろ。

以上」


 矢継ぎ早に命令を下すと、蔵本大隊長以下が命令を実行するために散って行った。

 後には男泣きしている奥野兵長と一木大佐の二人になった。大佐は奥野兵長の肩に手を置くと諭すように囁いた。


「良く生きて帰ってきてくれた。

ご苦労。今はゆっくり休め」






2019/08/19 初稿

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