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青い海、青い空、白い雲…… 赤い砂浜  作者: 風風風虱
第二章 我らその川を越えて行かん
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昭和17年8月19日 テテレ 午前5時 

昭和17年8月19日 テテレ 午前5時

ルンガ飛行場の東 約17キロ


 行軍を開始して早や五時間が経過しようとしていた。途中、川を一つ越え、さらに二時間歩く。そして、東の空が赤らむ頃、急に視界が開けた。次第に明るさをます日の光の(もと)に真っ白な砂浜がくっきりと輝いていた。

 一木大佐は、持っていた航空写真とがり版の地図とを見比べ、そこがテテレと呼ばれる砂浜だろうと当たりをつけた。飛行場まで半分のところまで来たことになる。


「大休止をとる」

「了解しました」


 富樫大尉は直ちに命令を発した。


「全軍停止! 大休止に入れ!!」


 号令にゆっくりと兵隊たちの歩みが止まる。

 背負っている雑嚢をおろしてしゃがみこむ者、その余裕もなく砂浜に倒れ込む者、色々だ。歩兵でも40キロを越える装備を抱え、歩きにくい砂浜を五時間歩きづめなのだ。みな、疲労困憊していた。砲兵や工兵はもっと辛いだろう。

 心の中で部下たちを労いながら、一木大佐は言った。


「各人、休息と食事をとらせてくれ。

それから、各中隊長以上を召集してくれ。

斥候隊を編成したい」


□□□ 


 ヤシの木の下。一木大佐を囲み支隊の士官たちが集まっていた。


「それでは斥候群本部は渋谷大尉を長として14名とする。

さらに斥候班を4つ編成する。

各班人員は5名。各班の長は松本少尉、舘小隊長、萩生小隊長、和田小隊長。

班員の選定は各班長に一任する。

何か質問は?」


 質問はなかった。


「渋谷大尉。これを渡しておく」


 航空写真と海軍陸戦隊からもらった敵の要地が書かれた地図を手渡した。


「敵の兵力、要害、重火器の位置を極力詳しく調べて欲しい」

「わかりました」


 渋谷大尉は地図と支隊唯一の航空写真を恭しく受けとった。きびきびと立ち上がる。


「よし、1時間後に出発する。各班長は人選と準備を整えてここに集合してくれ」


 良く通る声だ。それを合図にみな一斉に立ち上がると自分の所属する小隊へと散っていった。それを頼もしげに一木大佐は見守っていた。

 視線を海辺へ向ける。

 白い砂浜に波が規則的に寄せては返していた。その先は南国特有の濃い青の海が広がり、その海の青さを映すようなどこまでも青く高い空が、これもまた無限に拡がって見えた。

 一瞬、ここが戦地であることも、戦争に来ていることも忘れそうになる。

 故郷の信濃の山あいとも、旭川の広大な平原とも違う美しさがそこにはあった。

 戦争が終わったら家族にこの美しい風景を見せてやりたい。一木大佐は心からそう思った。



2019/08/19 初稿

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