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昭和17年8月16日 トラック島 午前5時

昭和17年8月16日 トラック島 午前5時


 手に持った懐中時計の短針が5時を差した。


 時間になった


 田中少将は懐中時計をしまうと静かに言った。


「全艦、ガダルカナルに向け出撃」


 田中少将の命令に神通艦長 河西大佐は無言で頷く。


抜錨(ばつびょう) 微速前進」

  「抜錨 微速前進」


 しずしずと神通が前進を開始する。その後に輸送船ぼすとん丸と大福丸が続く。ゆっくり慎重に湾を出ていく。出たところで河西艦長は命令を発する。


原速(げんそ~く)

  「原速《げんそ~く》 よーソロ~」


 号令に従い、神通はくんっと速度があげる。

 河西大佐は左を見た。

 およそ2000メートルのところを駆逐艦が並走していた。


取り舵(とりか~じ)

  「取り舵」

 

 神通と第二梯団を乗せた二隻の輸送船はゆっくりと右に弧を描く。左の第一梯団を乗せた駆逐艦の列も一回り大きな弧を描きながら右に曲がる。


「舵 もど~せ」

  「舵 もど~せ よーソロ~」

 

 巡洋艦 神通を先頭とする第二梯団を運ぶ船団と駆逐艦 嵐を先頭とする第一梯団を運ぶ船団は一路ガダルカナルへ向かう進路を取った。


「本日 快晴なり

どこまでも青い空 青い海

雲あり 風あり やや波高し……

さぁて、そろそろ、行くかね」


 艦橋から双眼鏡で前方の海を見ていた嵐の駆逐艦長 渡邉中佐はそう呟いた。


「方位そのまま 全艦増速 第二戦速(だいにせんそ~く)

  

 速度を上げた駆逐艦の艦首が海を切り裂き、波をかきたて、乗り越え、進んでいく。進路変更の時に開いた神通隊との差がぐんぐんと縮まっていく。最後尾の大福丸に追いつき、追い越していく。

 大福丸の甲板には一木支隊の兵士たちが精一杯手を振り、なにかを叫んでいる。嵐の甲板にも水兵の白い服に混じって一木支隊の茶色の服が混じっている。彼らもまた、懸命に手を振り別れを惜しんでいた。

 嵐は大福丸をたちまち追い越し、ぼすとん丸の横を通りすぎる。甲板兵が手旗で互いの武運と航海の安全を祈願しあっている。そのすぐ横に一人の男が直立不動で敬礼しているのを渡邉中佐は気づく。

 一木大佐であった。

 一木大佐の視線の先を追ってみると、ぼすとん丸の甲板で大佐と同じように直立不動で敬礼をしている男が目に入った。遠目で誰かは分からないが、恐らくは第二梯団団長を拝命している水野少佐であろうと渡邉中佐は思った。

 二人が何を思っていたのかは渡邉中佐には分からない。しかし、一木大佐がぼすとん丸が見えなくなるまでずっと甲板で敬礼をするのであろうとなんとなく分かった。 

2019/08/16 初稿

2019/08/16 誤字の修正とラストの表現を変更しました

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