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昭和17年8月14日 巡洋艦 神通 夜

昭和17年8月14日 巡洋艦 神通 夜


「お集まり頂きありがとうございます。

早速てはありますが陸海協定作戦会議を始めたいと思います。

今回の作戦の目的はガダルカナルの飛行場の奪還です。

敵兵力の予想およそ二千。

敵の飛行場の活用は見られないことと、敵の本格的反抗時期が来年以降であることを考慮にいれると、我が軍に対する偵察と飛行場の破壊が目的と推定します。

よって敵が飛行場の破壊と撤収をする前に速やかに奪還することが肝要と考えておりますので、よろしくお願いいたします」

「それで、駆逐艦で第一陣を早急に送り込む、と言うことか」


 松本中佐の言葉に第二水雷戦隊司令官田中少将が確認するように言った。


「そうです」

「駆逐艦一隻で運べる人員は150人程度だ。重火器も運べない。それで陸軍が構わないと言うのなら海軍として何も言うことはないが、本当に良いのか?」

「承知の上です」


 松本中佐は、そう答えながら一木大佐の方をちらりも見た。一木大佐は力強く頷く。


「第一梯団は第一大隊を基幹にして、重機関銃、工兵の編成です。後、山砲(さんぽう)を二門持っていく予定です」

「山砲?!

クレーンがないから大砲の積み降ろしはできないぞ」

「分解して人力で運べますので大丈夫です」


 平然と答える一木大佐に、同席している駆逐艦長たちは顔を見合わせる。


「まあ、その辺は陸軍の領分なので任せるよ」

 

 田中少将は腕を組んだまま椅子にもたれて、口をつぐんだ。隣に座っていた河西大佐が後を続けた。


「第一梯団は駆逐艦 (あらし)萩風(はぎかぜ)陽炎(かげろう)谷風(たにかぜ)浦風(うらかぜ)浜風(はまかぜ)に分乗。

第二梯団はぼすとん丸と大福丸に分乗。

第一、第二梯団ともに出発は16日0500(マルゴオマルマルじ)を予定。

ここからガダルカナルまでは駆逐艦で2日、輸送船は6日かかるので、第一梯団の到着は8月18日、第二梯団は8月22日。

上陸はいずれも当日の夜2100(フタマルマルマルじ)に敢行する予定」


 何か質問は?と締めくくる河西大佐に一木大佐が問いかける。


「上陸地点はどこになるのです?」

「タイボ岬です」


 それを聞いて一木大佐は難しい顔になる。


「そこなんだが、タイボ岬は目標の飛行場から三十キロも離れている。もっと近くに上陸できないのか。例えば……」


 一木大佐はガダルカナル周辺の海図の持ち出すとその一点を指し示した。


「このルンガ岬では駄目なのか?

ここなら飛行場は目と鼻の先だ。駆逐艦からの艦砲の援護も貰えれば一気に強襲できるんじゃないかと思うのだが」


 一木大佐の意見具申に海軍側列席者は海図を見たり、ぼそぼそと話をしていた。やがて一人の佐官が口を開いた。渡邉(わたなべ)保正(やすまさ)中佐、後に一木大佐が乗船することになる駆逐艦 嵐の駆逐艦長だった。


「ルンガ岬に上陸するのは可能ですよ」

「ほう、ならば是非に……」

「そこは駄目です」


 前のめりになる一木大佐を遮ったのは以外にも松本中佐だった。


「タイボ岬上陸はこちらからお願いしたことです」

「なんだって、軍司令部の発案なのか?」

「そうです」

「ならば軍司令部に掛け合って私の意見を通してもらえないか」

「駄目です。軍司令部でもルンガ岬上陸は検討しました。

しかし、ルンガ岬はアメリカ軍が上陸点として選んだ場所です。当然、飛行場攻略の最適点であることを熟知しています。

当然、なんらかの防衛を施していると考えるべきです」

「敵は飛行場を破壊したら撤収するつもりなのだろう?

そんな準備をしているかな」

「確認ができていないので、可能性を考えるべきです。そのために絶対に安全なタイボ岬で態勢を整え、敵情を見定めながら行動して頂きたいのです。

それに、海軍さんに艦砲などの支援をお願いすることもできません」


 松本中佐の言葉に一木大佐は少し驚いたような表情をして、田中少将たちの方を見た。


「えっ、そうなのですか?」


 一木大佐に見つめられ、田中少将は少し気まずそうな顔になった。


「すまんな。我々は君たちを輸送したら直ちに危険水域から離脱せよと言われている。

無論、命懸けで君たちをガダルカナルに送るつもりだが、それ以上のことはできんのだ」

「そう、なのですか……

う~ん」


 一木大佐は一言唸ると腕を組んで目をつむり、じっと考え込んでしまった。席上にぴりりとした沈黙が訪れる。しかし、それもそれほど長くはなかった。数秒後に大佐は目を開き一言言った。


「了解です。タイボ岬で問題なしです。後は上陸後、こちらで判断してやっていきます」


 全く、急げといったり、慎重にことを運べとか、一体何をさせたいのかさっぱり分からんな


 その後も続く会議を聞きながら、一木大佐は冷ややかにそう思っていた。

2019/08/14 初稿

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