昭和17年8月13日 トラック島 午後
昭和17年8月13日 トラック島 午後3時
「第十七軍 作戦課 参謀 松本博です」
「一木支隊 支隊長 一木清直です」
トラック島での仮の住まいとしてあてがわれられた大佐の部屋であった。互いに名乗り会うぐらいの簡単な挨拶ですぐに作戦の話になった。
「ガダルカナル……」
手渡された作戦要領に目を通した後、一木大佐は呟くように言った。
「ここです」
松本中佐は持ってきていた南太平洋の簡易地図でガダルカナルのあるソロモン諸島海域を指差して見せた。
「遠いな」
「そうですね。ここからだとざっと2000キロぐらいですか。
ここに海軍が作った飛行場があったのですが7日にアメリカ軍に攻撃されて占拠されました」
「なるほど、そこを取り返せ、と言うことか」
「はい。大本営からは速やかに取り返せと言われてます」
「それで、敵の数は?」
「二千」
「二千か、簡単だな」
「六千、六千の可能性もあります。
その為、上陸後は慎重に敵情を確認するべきと思います」
「六千か。まあ、やることは変わらんよ」
あまり動じるようすを見せない一木大佐に逆に松本中佐が動じてしまう。
「つ、次にガダルカナルへの輸送に関してですが、部隊を二つに分けます。
一つは駆逐艦に分乗して可及的速やかにガダルカナルへ輸送します。
もう一つは輸送船をもっての輸送とします。
駆逐艦には一隻で約150人分乗可能と思います。六隻で合計900人です。
こちらの人選を至急にお願いいたします」
「駆逐艦の輸送だと重火器は運べないな」
「はい。重機関銃ぐらいです。
装備の方も必要なものを厳選頂きたい」
「わかった」
「明日の夜、海軍との陸海協定作戦会議が巡洋艦神通で行われます。一木大佐にも参加願います。大佐以外にも参加可能です。必要ならそちらの人選もお任せします」
「誰か出るんだ?」
「第二水雷戦隊の司令官の田中少将以下、各駆逐艦長。後、第八艦隊の参謀ですね」
「分かった」
一木大佐は立ち上がった。
「必要なもののリストを今日中に全部作る。第二梯団に持っていってもらう弾薬、燃料、食料の積み込みもせにゃならんな。
一刻も無駄にはできん。話が終わりなら、失礼するよ」
大佐はそう言い放つと松本中佐をその場に置いたまま、そそくさと部屋を出ていった。
2019/08/13 初稿




