昭和17年8月7日 ガダルカナル 未明
昭和17年8月7日 ガダルカナル ルンガ岬 未明
空が紫から少しずつ赤みを増していく中、帝国海軍第十三設営隊は規律正しく隊列を組み、粛々と移動中であった。
向かうは設営中の飛行場である。
もっとも要となる滑走路は二日も前に完成しており、後は最後の仕上げをするのみであった。それも今日一日もあれば事足りる。その為か、設営隊の人夫たちはみな、目をしょぼつかせていたり、欠伸をしたり、とどこか緊張感の欠けた様子であった。
丘を越え、いつもなら南洋のどこまでも青く澄んだ海が見渡せるところに来た時、人夫たちの脚が止まった。
海が真っ黒に染まっていた。
「なんじゃ、これは」
誰とは言わず、困惑した声が漏れた。
船だ。
大小無数の船がびっしりと海を覆っていた。
ブロオオオオォ~
上空から飛行機の爆音が響き渡る。見上げると何十もの飛行機が編隊を組んで飛んでくる。
機体に記されたマークは星印。アメリカの物だった。
「敵機じゃ~!」
悲鳴に近い叫び声と、ヒュルヒュルという爆弾が落ちてくる音がほぼ同時で、その一拍遅れて、耳を貫く轟音と地響きが設営隊に襲いかかった。
海に浮かぶ船がチカチカと光を放つ。2、3秒遅れでドーン、ドドーンと砲声が聞こえた。と、同時にいたるところで何メートル、何十メートルもの土柱が幾つも幾つも立ち上がる。
空爆に続いての艦砲射撃だ。
「逃げろ!島の奥に逃げろ~!」
設営隊の人夫たちは蜘蛛の子を散らすように島の奥へと逃げ出した。
《敵来襲 兵力多数》
ガダルカナルから西に約1000キロメートルに位置するラバウルは緊急無電を受ける。
《巡洋艦四、駆逐艦六、輸送船三十から四十のアメリカ軍有力部隊来襲
敵上陸部隊多数 現在、我が守備隊と交戦中》
その無電を最後にガダルカナルからの通信はしばらく途絶えることとなる。
2019/08/07 初稿