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昭和17年8月11日 ラバウル 午後

昭和17年8月11日 ラバウル 午後


 第十七軍作戦室。

 百武中将、二見参謀長、松本中佐がガダルカナルの対応について議論を続けていた。


「では、ガダルカナル攻略部隊は一木支隊と言うことで宜しいですね。

一木支隊は12日夕刻にトラック島に到着予定です。

輸送船は通常船のため速度8ノット。これで敵機動部隊が潜む海域を輸送するのは危険のため一木支隊を第一、第二梯団に分けます。第一梯団は駆逐艦六隻に分乗、速やかにガダルカナルへ向かいます。一隻に150人で計900人です」

「駆逐艦で輸送するのか?

野戦砲とかの重火器はどうする。駆逐艦では運べないぞ」


 百武中将は少し嫌な顔をしながら言った。


「野戦砲等の重火器はすべて第二梯団と一緒に運びます。

第一梯団の目的は敵情を確認の上、飛行場奪還――」

「待ってくれ」


 二見参謀長が口を挟んだ。


「千人にも満たない第一梯団に飛行場を奪還させる気か?」

「二千人規模の敵なら第一梯団の兵力でも十分可能と思います」

「二千?

今日の話だと最大と六千と聞いたぞ」


 また、それか、と松本中佐はうんざりする。参謀長みたいなことを言い出したら一個小隊もあっという間に一個師団の大部隊になってしまう。

 そう叫びたいところを松本中佐はグッとこらえた。


「六千でも勝機があれば勝てるのは先のフィリピンでも証明済みですが……

ならば第一梯団の任務は敵情偵察の上、可能と判断するなら飛行場の奪還、としますか」


 松本中佐の言葉にも二見参謀長の表情が晴れることはなかった。見かねた百武中将が間に入ってきた。


「何か心配事があるのかな?」

「一木のことが気掛かりで……」

「一木?支隊長の一木大佐が何かあるの?」

「あいつとは士官学校の同期で、性格を良く知っています。

意志が硬く、勇敢。責任感が強い。軍人としては美徳の塊なのですが、『取れるなら取ってこい』と命じると取ってくる男なのです」


 二見の言葉に、百武中将は難しい顔で腕組みをした。十秒程してから、百武中将は口を開いた。


「つまり、『可能と判断するなら奪還せよ』と命じると無理をしてでも取りにいってしまう、と心配しているわけだ」

「そうです。その通り」


 我が意を得たりばかりに二見参謀長は頷く。一方、松本中佐は、取れるのなら良いことではないか、と冷やかに思った。


「第一梯団の目的は『敵情偵察のみ』としますか」


 百武中将は静かに言った。

 だが、今度はその言葉に松本中佐は度肝を抜かれた。


「待ってください。大本営はガダルカナルを奪還しろと言って来ているのですよ。それをその第一陣の目的が『敵情偵察のみ』とは、容認されるとは思われません」

「取れとは命令されたが取り方は第十七軍に任されている、と思っているけど?」


 声は穏やかであったが、表情は少しむっとしていた。だが、ここで引き下がっては後で怒られると松本中佐は思う。怒られるとは勿論大本営に、だ。


「ならば、この内容で行くと大本営に通達いたしますが宜しいですね」 

 

 松本中佐のその捨て台詞のような言葉に、一瞬口をつぐむが結局、承諾した。


(一)

ガダルカナル奪還に一木支隊を投入する

(二)

一木支隊は第一梯団と第二梯団にわける

(三)

第一梯団は駆逐艦に分乗してガダルカナルに急行する

(四)

第一梯団の目的は敵情偵察のみとする


 以上の内容がラバウルの第十七司令部から大本営へと伝えられた。



2019/08/11 初稿

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