昭和17年8月11日 ラバウル 早朝
昭和17年8月11日 ラバウル 早朝
二見参謀長が第十一航空艦隊の司令部に着いた時、司令部近くの滑走路から零式戦闘機が轟音を上げながら空へ舞い上がるところだった。
一体どこへ向かうのだろう。ひょっとしたらガダルカナルか?と二見参謀長はみるみる小さくなる零戦を少しの間、見送った。
人気の無い廊下を抜け作戦課のある部屋へと入った。
「朝早くからご苦労様です」
部屋にはいるとすぐに一人の将校が声をかけてきた。
第十一航空艦隊参謀長酒巻少将だった。
「いえ、こちらこそ、このような時間に申し訳ありません」
「とんでもない。本日の訪問は他ならぬガダルカナルの話です。元々は我々海軍が蒔いた種なです。本来ならば私の方がお伺いしなくてはならない事案です」
酒巻参謀長はそういいながら椅子を勧めてきた。二見参謀長は座るとすぐに口を開いた。
「早速用件についてお話をさせていただきたい。今日お伺いしたいのは最新のガダルカナルの動向です。率直な意見をお聞かせ願いたい」
「そうですね……。まず、大きな動きは見られない、と言うところでしょうか。良くも悪くも進展無しです。飛行場を積極的に使おうとしているのように見られません。沿岸で人の出入りがそれなりに見られますが、我々はそれを撤収準備ではないかと見ております」
「なるほど。やはり海軍は今回の件は一時的な攻勢と考えられていますか?」
「そうです。もしも、居すわるつもりなら飛行場などに防空設備の設置などを推し進めるはずですがそれが見られていません」
「分かりました。それを聞いて安心して部隊を投入することができます」
二見参謀長は膝を打って、立ち上がった。
「納得して頂けましたか?」
「はい。最後に教えてください。現在、ガダルカナルの敵の数はどのくらいと見積もられておりますか?」
「そうですね。三千人。多く見積もっても倍の六千人でしょうか」
酒巻参謀長の言葉を噛み締めるように二見参謀長は一瞬黙りこんだが、すぐに何事もなかったように笑顔を見せる。
「ありがとうございます。参考になりました」
二見参謀長は礼を述べると司令部を後にした。
2019/08/11 初稿




