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昭和17年8月10日 ラバウル 朝

昭和17年8月10日 ラバウル 朝


 第十七軍作戦課の二見(ふたみ)参謀長が軍司令官の執務室に入ると百武(ひゃくたけ)中将はすぐに読んでいた書類から目を上げた。


「ああ、二見君。朝早くからすまないねぇ」


 丸メガネの奥で柔和な瞳が本当にすまなさそうな光を放っていた。


「いえ。それで、どのようなご用件でしょうか?」

「うん、実はね。少し困っているんだ」


 百武中将は椅子から立ち上がるとゆっくりと壁に貼り付けられている南太平洋の地図の方へと歩いていく。二見参謀長はそれをじっと目で追いかけた。


「君、ガダルカナルの話を知ってるかい?」

「ガタルカナルですか?

海軍さんが飛行場を作っていた島ですよね。

三日前にアメリカ軍に奪われた」

「そうそう、よく知ってるね」

「実は、奪われたその日に第八艦隊の(かみ)参謀が来まして、もしもの時は陸軍の力を貸してほしいと頼まれました」

「ほう。それで何と答えたの?」

「出来る限りの協力はすると答えましたが、それっきりです。

昨日、派手に夜襲を仕掛けて大戦果を上げたので海軍で上手くやっているんだな、と思っています」

「あれは凄かったねぇ。

大本営発表だと撃沈が巡洋艦五、駆逐艦十、輸送船二十だってさ。

でも肝心の奪還部隊がないそうだ」

「奪還部隊がない?」

「運が悪いことに、陸戦隊の輸送船が潜水艦にやられたらしい。

幾ら巡洋艦や駆逐艦を沈めて制海権を取っても飛行場を取り返す陸上部隊がないことにはどうにもならない。

そこで海軍さんがお願いしてきたんだ」


 そこまで聞いて二見参謀長には、百武中将の困りごとが何なのか分かった。

 

「ガダルカナル奪還の部隊を第十七軍に捻出しろと言うわけですか」 

「早い話がそうだ。

どうだろう。できるかな?」


 そうですね、と言いながら二見参謀長は百武中将の横に立ち、南太平洋の地図を眺めた。

 二見参謀長の目は、第十七軍及び第八艦隊の拠点があるラバウルとそのすぐ下に描かれているニューギニアのポートモレスビーの二点に注がれた。


「ご存知の通り、我が第十七軍は現在、ポートモレスビー攻略のための準備に集中しております。その主力たる南海支隊を振り分けることは不可能。

となるとパラオの川口支隊を転進させるか、移送中の第四十一連隊を投入するかのどちらかですが……」


 二見参謀長は腕を組んだまま、視線をラバウルの右に位置するソロモン諸島、ガダルカナルへと移動させる。その距離はラバウルからポートモレスビーまでの優に倍はあった。

 二見参謀長は小さく首を横に振った。


 そんな余裕は第十七軍にはない、と言うのが結論だった。


「正式な命令は第八艦隊から大本営の海軍部を経由して陸軍部から来るのですよね。

ならば、ソロモン海域のガダルカナル攻略は担当区域外ということで追加の部隊を要求しましょう。

具体的にはこの間、第十四軍に引き抜かれた青葉支隊の再編入あたりを要求するのが宜しいかと思います」

「なるほど。やはりそうなるかな」


 百武中将は軽く頷いた。

 それを横目に、二見参謀長は地図上の小さな点に視線を戻した。彼には投入する部隊の捻出よりも気になることがあった。

 神参謀から聞いた情報や大本営の発表に見え隠れしている輸送船の存在だ。話を総合するとガダルカナル沖合いには輸送船が二十から三十隻停泊していたと思われる。


 輸送船二十から三十?!


 もしも、その輸送船に上陸部隊が乗っていたとするならば、一個師団に相当するのだ。つまり、一万人から二万人の兵力がガダルカナルに上陸している計算になる!

 

 二見参謀長はその数に体をぶるりと震わせた。


2019/08/10 初稿

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