07 「10年目のスキル開花」
──キョウカが見た俺の鑑定結果にランダムスキラーと俊敏スキルが出たというので、真偽を確める為にギルドに戻って来た。
「あれ? フォグとキョウカじゃないか。どうしたんだ?」
業務を終えて帰ろうとしていた受付のおっさん。
すまんがもう少し居てくれ。
なんたって、おっぱいを揉めるかどうかの瀬戸際なんだ!!
「帰り支度している所悪いんだが、俺のスキルチェックしてくれないか? おっぱいが懸かってるんだ!」
「まだ言ってるんですかフォグさん……童貞って怖い」
「はぁ? スキルチェック? てかおっぱいってなんだよ?」
「おっぱいはおっぱいだ! それ以上でもそれ以下でもない!」
「意味分からん……今さらスキルチェックしてどうすんだ? まさか自分のスキルを忘れたとでも言うのか? 流石にそんな馬鹿居ねえか、ハハッ」
「ああ! 忘れた! だから早くスキルチェックを!」
「童貞拗らせた人ってこんなに馬鹿になるんですね……」
横で呆れるキョウカ。だが、そんなもん知らん!
男が求めるおっぱいへの情熱など女に分かるものか!
たとえそれが、ちっぱいでもな……。
「もうっ! 何処見てるんですかフォグさん! おじさん、早くスキルチェックして上げて下さい。私の羞恥心が限界です!!」
「あ、ああ。そう言う事なら……」
ちっぱいを隠して憤るキョウカに、受付のおっさんはちっぱいを不憫に思ったのか、スキルチェックが出来る水晶を取りに行く。
ちっぱいを凝視しながら待っていると──
水晶を抱えたおっさんが戻って来た。
「──ほらフォグ、早く手で触れろ。早く帰らんと嫁に怒られちまう!」
「まあまあ、そんなに焦るなよ」
丸くて透き通る水晶──
そんな水晶に、俺はゆっくりと手を触れた。
さあ、至福の一時を味わう瞬間は直ぐそこだ。
「おっ、結果が出たな。なになに……」
どうやらスキルチェックの結果が出たみたいだ。
俺の方からじゃ分からないが、おっさんは結果が表示された水晶を覗きこんでいる。
ん……なんだ、おっさん?
なんで俺と水晶を交互に見てんだ……。
「あれ……? フォグ。お前、俊敏スキルなんて持ってたか?」
その瞬間──
俺のおっぱいへの夢は絶たれた。
「なんでだ! なんでだよー!! 俺は一生おっぱいを揉む事が出来ないってのか!!」
「ちょっとフォグさん!? そんな、泣き崩れなくても……」
「お前に! 俺のおっぱいへの情熱が分かってたまるか! チクショー!」
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけなら……」
「ちょっとだけなら?」
「ダメー!! ダメに決まってるじゃないですか! 危ない危ない。危うくほだされる所でしたよ……それより! 私の情報、間違って無かったんですから、何でも言うこと聞いて下さいよ!」
「チッ……それは置いといて。何故、俺のスキルが増えていたか考察しなければな」
「なんで急に冷静なんですか……」
「やはり、おっぱいは大きい方が良いと気付いたからだ。それより、何故スキルが増えていたのか、分かる情報は他に無かったのか?」
「小さくて悪かったですね!! もうっ! 他に情報ですね……えー、とっ。ぬぬ、ぬぬぬぬ──」
俺を手の輪っかから覗きこむキョウカ。
その唸り声は必要なのか?
「分かりました! 原因はランダムスキラーに有ります!」
「ランダムスキラーに?」
「はい! ランダムスキラーは──」
「待てキョウカ! 詳しい話は宿で聞こう。ここじゃ色々まずい」
此方を見る冒険者の視線が気になった俺は、場所の変更を提案する。仮にも特殊性SSランクのランダムスキラー。
ランダムスキラーに秘密が有るなら、隠しておきたい。
そんな俺の胸中を察したのかは分からないが、キョウカは素直な声で答えた。
「分かりました! じゃあ、行きましょう!」
「ああ、早く行かないと部屋が無くなっちまうからな。じゃあ、おっさん。世話掛けた」
「あっ、ちょっと待て」
用が済んだのでキョウカを伴ってギルドを出ようとすると、おっさんが声を上げて俺達を引き留める。
なんだおっさん? 毛根が死滅した理由なんて鑑定出来んぞ?
「キョウカに下宿所を案内するのを忘れてた。すまないが、今日は宿に泊まってくれ。明日下宿所に案内するから」
「あ? なに言ってんだおっさん。下宿所はもう一杯だぜ?」
なんたって、今年のルーキーが多かったせいで俺は下宿所を追い出されたんだからな。
「ん? まだ一部屋空きが有る筈だぞ。管理人からはそう聞いてるが」
なんだと!? ……あのババア! 騙しやがったな! くそっ!
……まあ、良い。今の俺はEランク冒険者。
今さら下宿所に泊まれる権利も無いしな。
「だってよ、キョウカ」
「はーい。じゃあ、明日来ますね」
「ああ、また明日」
おっさんに別れを告げギルドを出た俺達。
折角のルーキー卒業記念日だ。今日は奮発して普通の宿屋に泊まり、柔らかいベッドで寝る事にしよう──
「──よし、宿屋に着いた事だし。ランダムスキラーの情報を聞こうじゃないか」
「ああ、はい。所で……なんでフォグさんと同じ部屋なんですか? もしかして、私を……」
2つ並んだベッドに座り、ランダムスキラーの情報を聞こうとしていると──キョウカが身を縮ませて顔を赤くしていた。
「んな訳ねえだろ! 俺は子供に興味は無い! 部屋が二人部屋の一つしか空いてなかったんだから、1日位我慢しろ。それより、早く情報を聞かせてくれ」
「本当かなー? さっきは私のおっぱいをあんなに揉みたがってたのに」
「おっぱいは別だ! そんなに俺と同室が嫌なら、俺は外で寝るから構わん」
「そ、そこまでしなくて良いですよ! 絶対、襲っちゃダメですからね?」
「分かった。約束しよう」
「絶対ですからね! ……じゃあ、本題ですけど、フォグさんのスキルを鑑定した結果。スキルが増えていた原因は、ランダムスキラーに有ると分かったんですが……」
キョウカの鑑定スキルは寒気がするほど恐ろしい。人の情報だけではなく、スキルの中身まで晒してしまうとは……。
スキルを研究している奴等が聞けば、泣いて喜ぶだろう。
まあ、教えてやらんがな。
俺を冷たくあしらった事は忘れん。
「初めて知ったスキルだ! これは凄いぞ!」
そう言って持て囃しといて、いざランダムスキラーの謎がどうやっても分からないとなると、気持ち良い位手のひらを返した奴等。そんな奴等に誰が教えるかってんだ。
「──ランダムスキラーは、新しい敵を三体倒す毎にランダムでスキルを獲得出来るスキルです。つまり、倒した三体のスキル内、何れかが『俊敏』スキルを持っていたって事ですね」
「はあ!? 俺が今まで倒した敵って、スライムにホーンラビット、ポイズンウルフだけだぞ! その中に俊敏スキルを持っていた奴が居たって事なのか!?」
「そう言う事ですね……因みに、新しい敵とは違う種類の事を指しているので、同じ敵三体じゃランダムスキラーは発動しないみたいです」
「て事は……今日ポイズンウルフを倒して三体になったからランダムスキラーが発動したって事か……」
なんてこった……まさか冒険者10年目に、初めてスキルが発動するとは……俺の10年ってなんだったんだろ。
ポイズンウルフよりも弱いモンスターは居た。
もっと早く、死ぬ気でソイツらを倒してれば俺は……。
「大丈夫ですかフォグさん?」
「ダメ……この10年なんだったんだろうって思うと死にたい」
「……じゃあ、こう考えて下さい! 今までの10年は私に会う為の布石。ここからフォグさんの人生は急上昇! そう、私とフォグさんの出会いは運命だったんです!」
「運命ね……まあ、そう言う事にしとくか。てかよ、自分で運命の出会いとか言って恥ずかしくねえのか?」
「え……恥ずかしい。うわー!」
枕に顔を埋めて叫ぶキョウカ。
俺も若い頃よくやったわ。
それにしても、運命の出会いか……。
フッ、面白いじゃないか!
見てろよ……こっから俺は成り上がってやるぜ!!
「よーし、寝るぞキョウカ。明日から忙しいからな」
「は、はい……キャッー」
まだやってんのかよ……。
明日は下宿所にキョウカを案内して、装備を整えてから、教育開始だ。そうだ、俺の俊敏スキルについても実験しなきゃな。
そんな事を考えていると、今日の疲れが出たのか、俺の意識は柔らかいベッドに沈んでいった──
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