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06 「おっぱい!!」

──活気に満ち溢れた夕食時。


 年季が入った木造の一軒の店。ここ『豚草亭』では、安くてボーリュムが有るオーク料理が人気の店だ。


「──さあ、腹一杯食べな」

「わ~! どれも美味しそう! では──頂きます!」


 色とりどりに並べられたオーク料理達を、目をキラキラさせて平らげていくキョウカ。


 食いカスが口に付くほどの良い食べっぷりは、男も顔負けだ。

 こんなに美味そうに食ってくれるならオークも報われるな。


「あれ? フォグさん全然食べてないじゃないですか! 具合でも悪いんですか!?」

「んあ? いや、ゆっくり食ってるだけだ。久しぶりの飯だから味わって食いてえんだよ」


「ああ、成る程。今日はお祝いですもんね! あっ! 私、フォグさんのお祝いなのに……バクバク食べちゃって……」


 しおらしくシュンとするその姿に思わずドキッと、してしまった。女に対する免疫の無さが情けない……。


 良く見ろフォグ! コイツは食べカス付けた子供だぞ!

 そう思うと、刻む速度が上がった心臓の鼓動が治まっていく。


「気にするな。それだけ美味そうに食べてくれたら、こっちも嬉しい。ほらっ、気にせずどんどん食え」

「はい! 遠慮なく頂きます! なんたってフォグさんの奢りですから!」


 フッ……変わり身の早い奴め。

 それに、俺よりキョウカの方が金持ってんだぞ。


 超薬草を売った代金は100万エーンもの大金だ。それをゲットした懐は、俺の懐よりよっぽど暖かい事だろう。


 久しぶりのまともな食事。胃を驚かせないようにチビチビ食う俺を尻目に、次々と料理を胃に収納していくキョウカ。


 その食いっぷりを肴に、酒を煽る。


 しばらくすると、テーブルに乗り切れないほど並べられた皿達は、すっかり空虚な寂しさを見せていた。


「──しかし良く食ったな……お前本当に女か?

「ゲプッ……失礼ですねフォグさん! 私はれっきとした女子です!!ほら、お胸だってちゃんと有ります!」


 ちょっとした小山を寄せてアピールするキョウカ。

 なんなとなく……あるか?


「少しな。それよりキョウカ……お前は何者だ?」

「少し!? フォグさん! 言って良いことと悪い事が有るんですよ!!」


「わ、悪かったよ……」

「許して上げます! うーんと、私が何者かって事ですけど。会った時に言ったじゃないですか。私は別の世界から転生してきたんですって!」


「まあ、それは覚えてるが……普通、そんな事信じらんなくね?」

「んんぅ……なら! どうしたら信じてくれるんですか?」


「どうしたらって言われてもな……なら、俺が質問していくからそれに答えていってくれ。その答えを聞いて判断する」

「分かりました! ドンッとこい!」


 おいおい……無い胸を叩いたら余計無くなっちまうぞ?

 やべっ、目が合った。こんな事口走ったらまた怒られちまう。


「ゴホンッ。じゃあ、質問するぞ? どうしてキョウカはこの世界に来たんだ? 目的は有るのか?」

「質問に答える前に……何か、失礼な事を考えていませんでしたか?」

 

 ジト目で俺を睨むキョウカ。何か取り繕う言葉は無いかとキョウカを観察していると、口に付いた食べカスが目に入った。


「いや、口に食べカスが付いてるなと思って」

「えっ!? あ、本当だ! やだ、子供みたい……」


 いや、子供だろ。そう思ったが、口に出すとキョウカの逆鱗に触れるので、その言葉は飲み込んだ。


「あっ、えっと、私がこの世界に来た理由ですよね!?」

「ああ。答えられる範囲で良いから教えてくれ」


「では、一から順に説明しますね」


 キョウカはそう言うと、何かを思い出す様に語り出した。


「私は日本という所で暮らしていた16歳の高校生でした。でもある日──部活の帰り道で車に跳ねられて、短い生涯を閉じたんです。そして、死んだと思った私は白い世界で目を覚ましました」

「白い世界? ……まさか神の世界とでも言うのか?」


「えっ! なんで分かったんですか!?」

「マジかよ……まあいい。続けてくれ」


「あ、はい! 目を覚ました白い世界では、女神様が居ました。真っ白な服を着た長い金髪と青い瞳の女神様。唖然とする私に、女神様は言いました『ごめん! うっかりで死なせちゃった!』と」

「はぁ? なんだよ、うっかりって……そんな事有るのか?」


「こっちが聞きたいですよ! んと、それで……女神様は──」


『お詫びに今の体のまま異世界に転生させてあげるから、許して? ついでにチートスキルあげるから、異世界に起こる悪い事を何とかして来て!』


「──そう、私に言ったんです……」


「なんだよその女神様……随分適当だな」

「本当ですよ……でも、このまま死んじゃう位なら違う世界で生きてみるのも悪くないかな? と、思いまして」


「因みに、この世界で起こる悪い事ってなんだ?」

「なんでも、この世界にはスキルを使って世界を征服しようとする悪い人達が居るみたいですよ? その人達が動き出すまでは自由に暮らして良いからと、女神様は言ってました」


「ほーう……そいつらが動き出す時期は?」

「それが、分からないみたいなんですよね……どうやら、世界の理は複雑に絡み合っているらしくて、女神様にも確実な時期は分からないみたいです……」


「成る程な……」

「はい……あ、そうだ! これで信じてくれましたか!?」


「いいや……無理だ!」

「えー!? なんでですか!? 質問にはちゃんと答えましたよ!」


「それはそうだが……そんな話、簡単に信じられると思うか? いや、キョウカが嘘をついてるって言ってる訳じゃねえぞ。ただな……突拍子が無さすぎて上手く呑み込めねえんだ。仮にその話が本当ならキョウカは"神の使い"って事だろ? そんな崇高な人物が俺の前に居るなんて、どう考えてもおかしい」

「そうですか……まあ、そりゃそうですよね……」


 参ったな……またシュンとさせちまった。

 何かキョウカの話を信じれるものが有れば良いんだが……あっ!


「なあ、キョウカ。女神様からスキルを貰ったんだよな?」

「はい、そうですよ!」


「なら他に、特別に与えられたものとかねえのか? こう、キョウカの話を一発で信じちまう様な特別ななんか」

「うーん……あっ! そう言えば、私のスキルって特別仕様みたいなんですよ! 例えば……あ、ほら! この世界の鑑定スキルって、物とか生きていない物しか鑑定出来ないんですよね?」


「ああ、スキル研究所からはそう発表されてるな。それが?」

「私の鑑定スキルは……生きてる物の情報も見れるんですよ!」


「ま、マジか!? じゃ、じゃあ……俺の情報も見れるって事か!?」

「勿論です! あ、まだ人に使ってないから絶対とは言えませんが……と、兎に角! 今からフォグさんの情報を見てみます!

ぬ、ぬぬぬ──」


 変な唸りを上げ、輪っかにした手で俺を覗くキョウカ。もし、人の情報が見れるなら、鑑定スキルの常識を覆す事になる。


 そうなれば、キョウカの鑑定眼はダブルSランクどころか、ダブルSSランクまで上がってしまう……。


 過去にダブルSSランクのスキルを持っていたのはただ一人──伝説のSSランク冒険者の『錬金スキル』だけだ。


「──み、見えました!」


 手を上げて鑑定終了を告げるキョウカ。

 どんな結果が出るか、ドキドキしてきた……。


「で、どうなんだよ?」


 真剣な表情をして俺を見つめるキョウカに、答え問い掛ける。

 それにしても、なんで顔が赤いんだ?


「え、えっと……先ず、フォグさんは現在26歳。出身はデイゴという農村。家族構成はお母さんとお父さん。それと上にお兄さんが二人います。こ、ここまでは合ってますか?」

「う、嘘だろ!! ど、どこで聞いてきたんだ!?」


 マジでどこで聞いてきたんだ?! おっさんに家族構成まで話たっけか? まさか、本当に俺の情報が……。


「だから、鑑定スキルで見たんですよ! 他にも色々見えましたよ! 例えば、フォグさんのスキルがパッシブスキルのランダムスキラーと"俊敏"スキルを持っているとか。そ、その、まだ女の人としてないとか! 10歳の時に隣のお姉さんのパンツをぬ──」

「ちょ、待てよ!! それ以上はダメだ! 信じる! 信じるから! 俺の誰にも知られてはいけない暗黒歴史を紐解くな!!」


 キョウカの口を急いで抑え、紐解いてはいけない封印されし歴史に蓋をする。


 これは本物だ──


 絶対に知っている筈がない俺の情報を、見て来たかの様に話そうとした。


 キョウカは──紛れもない『神の使い』だ。

 

 ん? 待てよ……キョウカは俺のスキルがランダムスキラーと俊敏スキルを持ってると言ってなかったか? 


 俺は俊敏スキルなんて持ってねえぞ……。


「──んぐ! んん!」

「あっ、悪い!」


 キョウカの口から手を離し、冷静になって椅子に座り直す。

 さっきの偽情報を問い質さないとな。


「苦しかったですよ! 酷いじゃないですか!」

「すまなかった! それより、俺の情報について誤りが有る」


「え!? なんですか誤りって?」

「俺のスキルについてだ。俺のスキルはランダムスキラーだけで、俊敏スキルなんて持っていない」


「うーん……でも、本当にそう出たんですよ」

「そうだとしても、誤りは誤りだ」


「なら、ギルドに行って確認してみましょうよ!」

「ほほう。そんなに自信が有るなら行ってみようじゃないか! だが、もし誤りなら……」


「な、なら?」

「おっぱいを揉ませて貰おう!!」


「ええっ!! ちょ、なに言ってるんですかフォグさん! そんな事、させられるわけないですよ!!」

「じゃあ、誤りだと認めるか?」


「ぐぐっ……わ、分かりましたよ! 良いですよ! もし誤りなら、好き放題揉めば良いじゃないですか!! フォグさんのスケベ! 変態!」


「そうか。なら行って確認にしよう」

「本当だったら、私もフォグさんに何か要求しますからね!」


「ああ、構わんよ。何でも言ってみろ。まあ、俺がおっぱい!! を揉むのは間違い無いがな!!」

「もう! おっぱいを強調しなくて良いですから!」


 うむ。どんな結果が出るか楽しみだな。

 今日は、手が洗えんかもしれない……。

お読み頂きありがとうございます!

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