表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/24

04 「驚きすぎて、最早驚けねえ」

──聖域の森で出会った不思議な女の子、キョウカ。


 俺はキョウカを連れて町へ戻って来た。ルーキーを卒業出来たお祝いにキョウカに飯をご馳走するためだ。


 ポイズンウルフを倒して牙をゲットしたお陰で、今日の飯は良いものが食えそうだ。


 ポイズンウルフの牙は一つ2000エーンで売れる。牙には敵に注入する毒が溜まっていて、この毒は色々な毒の解毒薬の材料になるらしい。


 それにEランクに上がると、ルーキー卒業祝いに5000エーンが貰える。モンスターの素材を売った2500エーンと卒業祝いの5000エーン。


 久しぶりに懐が暖まると思うと、自然と顔が綻んでしまう。安宿だったら一泊素泊まりで2000エーンだから、残った5500エーンは飯と生活費に使える。


 これで何とか、暫くは生きていけそうだ。


 よし、街に戻ってきた事だし、早速ギルドに行ってランクアップ申請をしよう。


 受付のおっさん、喜んでくれるかな……。

 

「キョウカ。飯の前にギルドに行くけど一緒に来るか? って、どうした? 感動したような顔して。何か珍しい物でも有ったか?」

「珍しいですよ! この街全体、ヨーロッパに来たみたいですもん! 古くさい石造りの町並み──哀愁があって素敵です!」


 そうか? 俺にはただの汚ねえ町にしか見えないが……。

 ほら、町の中心に流れる川だって濁ってて臭いし。


 こんなありきたりな町が珍しいなんて……キョウカって、よっぽどの田舎暮らしか? それとも、レンガで綺麗に整った王都出身で、王都から出て来た事が無かったら驚くのも有り得る話だ。


 まあ、どちらにしてもその辺の事は飯の時にでも聞こう。


「そんなに珍しいなら後で町を案内してやるよ。その前に金を貰いに行かなきゃな。ほれ、ギルドに行くから着いて来な」

「わーい! 異世界料理、楽しみだな~! あっ、フォグさん! ちょっと待って下さいよー!!」


 町の入り口は商店街。そこを越えて町の中央まで来ると冒険者ギルドが見えて来る。


 安っぽい歪な石造りの建物と違って、ギルドはレンガ造りの二階建て。それだけギルドが儲けてるって事なんだろうな。


 冒険者ギルドは世界各地に拠点を持ち、何千人という冒険者達を抱えている。ギルドはその冒険者達から買い取った物を更に商人へ売ったり、モンスターの討伐を行って国や町の安全を守る事で地域の領主や国から治安維持資金を貰い、運営を行っている。


 力さえ有れば成り上がっていける冒険者は割りと人気の職業だ。まあその分、危険な仕事だけどな。


──さて、ギルドに着いたぞ。

 早速おっさんに報告するか。


「よ、おっさん」

「おお、フォグじゃねえか。スライムとホーンラビットでも狩ってきたのか?」


「それが違うんだな~」

「……じゃあどうした? 勿体ぶってねえで話せよ」


「実はな……ポイズンウルフを狩ってきました!」

「…………」


「「ええっ!!」」


 な、なんだよ……おっさんだけじゃなくギルドの全員で驚きやがって! そんなに俺がポイズンウルフを倒した事がおかしいのかよ! 


 ……うん。おかしいな。


「ほ、ほんとかフォグ!?」

「あ、ああ。ほらっ冒険者カードで確認してくれ」


 首に下げたチェーン付きの冒険者カードを外して、おっさんに渡す。この冒険者カード──


 原理は良く知らないが、このカード一枚には様々な情報が入っている。例えばモンスターを倒した時の記録とか、今まで受けた依頼の情報とかが記録されている。


 金もこのカードに情報として入金しとくと、各地のギルドで金の出し入れが出来る便利なカード。勿論、本人にしか使えない様になってるから、盗まれたり無くしたりしても大丈夫だ。


 大丈夫だと言っても、再発行の金は罰金込みで50000エーン払わないと再発行出来ないから、無くさない様に肌身離さず身に付けてはいるがな。


 おっ、情報の確認が終わったみたいだな。

 おっさん、手がプルプル震えてるぞ……。


「本当だ……や、やったじゃないかフォグ! これでルーキー卒業だぞ!! 長かったな……本当に良かった……」


 泣いて喜んでくれるおっさん。

 このおっさんとの付き合いも早10年。

 随分心配かけちまったが、これからはもう大丈夫だぜ。


 って、本当に大丈夫か? ポイズンウルフを倒したって言ってもたまたまだ。もう一回倒せって言われても無理じゃね?


 うん。今は考えるのはよそう。今日は素直にルーキー卒業を噛み締めて、難しい事は明日から考えれば良いさ。 


「ありがとうおっさん。これ、狩ってきたモンスターの素材。それと、ランクアップ申請を頼む」

「ああ任せとけ! 今日は祝いだ! 色付けて買い取ってやらぁ! ランクアップ申請もソッコー終わりにしてくるぜ!」


 興奮気味に俺のカードとポイズンウルフの牙を持って裏へ引っ込むおっさん。


 ルーキーカードの色は黄と緑のツーカラー。これがルーキーを卒業すると青に変わり、一番上のSSランクになると白銀色になる。冒険者はそのカードを目指して日々奮闘するのだ。


 今までSSランクになった冒険者は未だ一人しか存在しない。その冒険者はモンスターで一番強いとされるレッドドラゴンを、子供の様にあしらう位の実力とされる化け物だ。


 まあ、その伝説の冒険者が今何処に居るのかなんて、誰も知らないらしいけどな。  

 

 それより、そろそろおっさん戻ってくっかな?

 おっさんが戻って来たら、いよいよランクアップの時だ。

 なんだか、体がウズウズしてくるぜ。


 ああそうだ。そう言えば、キョウカはどこ行った?

 ……げっ、アイツなんでキョロキョロしてんだよ!


「おい、キョウカ! ちょっと来いよ!」

「はーい! ──なんですかフォグさん?」


「なんですかじゃねえよ……子供じゃねえんだから、うろちょろすんな! あっ、子供か」

「ごめんなさ、って! 私は子供じゃないです! 立派な大人の女なんですから!」


 あっ、おっさんが戻ってきたな。


「おー、おっさん待ってたぜ」

「ちょっと! 折角セクシーポーズしてるんですから少しは見て下さいよー!」

「なんだか賑やかだね。その子は? 見かけない子だけど……」


「あー、コイツは知り合いの娘でよ。ちょっと面倒見るの頼まれてんだ」

「そうかい。変わった服装だから、この辺の子供じゃないと思ったんだ。それより……」


 勿体ぶった様に、ゆっくり受付の下から物を取り出すおっさん。待ちに待った瞬間に、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 きっとその手には……。


「ルーキー卒業おめでとう、フォグ。Eランクのカードだよ」


 おっさんの手から渡される神々しく光る青いカード。

 普通の冒険者なら通過点に過ぎない瞬間。

 だけど、俺はこの瞬間を10年待ってたんだ。


「やっ、たー!! 俺は遂に、ルーキーを卒業したぞー!!」


 俺は絶叫しながら喜びを表す。

 涙するおっさんに、ポカンとしたキョウカ。


 遠目では、とっくにルーキーを卒業した冒険者達が嘲笑しなが俺を見ていた。


 笑っていられるのも今の内だぞ?

 お前等なんか、直ぐに追い抜いてやるからな……。


「本当に良かったな~フォグ……。あっ、そうだ! これ、素材の買い取り料金だ。ホーンラビットの角は1000エーン。ポイズンウルフの牙は3000エーンで、色付けといたぜ。それと……この10000エーンは卒業祝いだ。俺からの気持ちも入ってる。受け取ってくれ」

「おっさん……ありがとう、ありがとな! 俺、頑張るよ!」


 モンスターの素材を売った金が4000エーン。

 ルーキー卒業祝いが10000エーンで、合計14000エーン。


 金色の硬貨1枚と銀色の硬貨が4枚をおっさんから受けとる。

 金色の硬貨なんて初めて見たぜ……。


「これで、俺も装備が買えるぜ。見てろよおっさん! 装備を整えて、ポイズンウルフなんて腐るほど狩ってきてやるぜ!」

「おうおう、頼もしいな! 宜しく頼むぜ? Eランク冒険者さん」

「なんだか良く分からないけど、おめでとうございます。フォグさん! お祝いだったら、私が摘んできたこれを売って、美味しい物一杯食べましょうよ!」


 ああそうだった。キョウカが鑑定眼で摘んできた薬草が有ったんだ。冒険者じゃねえとギルドでは取引出来ねえから俺が代わりに売ってやらなきゃな。


 鑑定眼が本当なら、高く売れると言っていたこの薬草は、一つ1000エーン位で売れんのか?


 普通の10倍なら高く売れるってのも納得だ。

 それより、キョウカの鑑定眼が本当なのか気になる所だな。


「そうだおっさん。聖域の森で薬草を摘んできたから、これも買い取ってくれ」


 キョウカから薬草の束を受け取って受付に出す。

 薬草は全部で10個。果たしていくらで売れるのか……。


「どれどれ……ん? 見た事ない薬草だね。俺じゃ鑑定出来ねえからちょっと待っててくれ」


 おっさんは困った顔をしながら奥へ引っ込んで行った。

 きっと、薬草に詳しい職員にでも聞きに行ったのだろう。


 キョウカに質問攻めにされながら、鑑定を待っていると、突然──おっさんの大声が聞こえてきた。


 血相変えて慌てて戻って来るおっさん。

 一体、何があったんだ?


「た、大変だよフォグ! お、お前、あの薬草何処で見付けたんだ!?」

「な、なんだよ血相変えて……聖域の森で摘んできたって言っただろ」


「あの薬草は、瀕死の人間も回復させる超高級回復薬に使われる超薬草だ!! 普通の薬草が一つ100エーン、上薬草で一つ1000エーン。だがあれは、一つ10万エーンだ! それも、お前が持ってきた薬草は全部超薬草!! これの意味が分かるかフォグ!?」

「ええっ!? ま、マジかよ!! ちょっと待て! そんな急に言われても……」

「て事は、全部で100万って事ですね! 貨幣の価値が良く分からないけど、100万って凄いんですか?」


 一人冷静なキョウカが、戸惑う俺の代わりに計算してくれた。

 100万エーン……中堅冒険者一人が3、4ヵ月掛かって稼ぐ額だ。


 それをたった1日で稼いじまった……。

 それじゃ、キョウカの鑑定眼は本物って事かよ……。


 10年目のルーキー卒業。

 100万エーン。

 ダブルSランスキラー。


 あれ? 驚き過ぎて、最早驚けねえ……。  

お読み頂きありがとうございます!

面白いと思って頂けたら、評価&ブックマークのほど宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ