03 「運命の出会い」
「──ガルルッ!!」
ゆっくりと近付いて来る黒い獣。
大きさは大人の男より少し小さい位。
鋭い牙と爪。獰猛な性格で獲物を狩る獣──ポイズンウルフ。
ポイズンウルフは自分より大きい獲物も狩る。
それを成功に導くのは鋭い牙から注入される毒だ。
一度ポイズンウルフに噛まれると、牙から注入された毒で体は痺れて動けなくなる。
噛まれたら最後──生きながら喰われて終わりだ。
ポイズンウルフを倒すには噛まれるのを防ぐ為、素早く動く事と、仲間と連携する事が大切だ。
だが、俺に素早く動ける俊敏さもねえし、連携出来る仲間も居ない。でも、やるしかねえんだ……。
コイツを倒さねえと、俺は一生ルーキーのままだ!!
「やってやるよ!! 掛かってこいよ!」
立ち上がって叫んだは良いが、二本の足はプルプルと震え、足元は覚束ない。
だってよ……怖ええよ……。
想像してみろよ。体は痺れるが痛みは感じるんだぜ?
生きながら内臓を引き摺り出されて、目の前で喰われるんだ……。やべえ、剣を構えた腕まで震えてきたぜ……。
だが、ここで逃げたら俺の足元でスヤスヤ眠ってる女の子が喰われる。
男だろフォグ! 最後に女を守って死ねるなんて、格好いい死に方じゃねえか! 飢え死にして死ぬ位なら──
「お前を道連れにして、ここで死んでやらっー!!」
「ガルルッ!! ガルッッ!!」
勇気を振り絞り、ポイズンウルフへ飛び出す。
奴もこっちに向かって、唸りを上げ飛び込んで来る。
雌雄を決する瞬間。地面へ転がるのは奴か俺か。
そんな緊張の一瞬で──
「オラッー!! おえっ!? うごっ!」
俺は盛大に転けた……。
まさかこんな時に石につまづくなんて思いもしなかったさ。
どう転んだらそうなるのか分からないが、後ろ向きへ盛大に転けた俺は、地面に頭を打って意識を手放した。
俺の人生──ここで終わりか……。
「おきて──起きて下さい──起きてー!!」
「あぁ……? なんだよ煩いな……」
「良かった~! お体、大丈夫ですか?」
奇跡的に死んでいなかった俺は、クラクラする頭を抑えながら体を起こした。
霞む目で辺りを見回すと、スヤスヤ眠っていた女の子が、目の前で心配そうな表情をして俺を覗き込んでいる。
「嘘だろ! 何でポイズンウルフが死んでるんだ……まさか、君が?」
その女の子の後ろには、俺の剣が突き刺さって横たわるポイズンウルフの姿が見えた。その光景に、俺は思わず大きな声を上げて驚いてしまった。
「そんな訳ないじゃないですか! 貴方が倒したんですよ!」
「は? 俺が? んな訳無いだろ! こう見えても俺はくそ弱いんだ! そんな俺が倒せる訳無いだろ……」
少々言ってて切なくなるが、自分の弱小さは自分が一番分かっているから、悲しくなんかない……。
「貴方が倒したんです! 私見てたから知ってますもん!」
「まだ言ってんのか……なら、説明してみろよ」
にわかには信じられない女の子の言葉。本当に俺がポイズンウルフを倒したってなら、聞かせて欲しいもんだ。
「貴方があの獣に向かって飛び込んで行った時、私は目を覚ましたんです。煩いな~、と思って声のする方を見たら、貴方が変な声を出して転けてました……それで、危ない! と、思って見てたら、あの獣が貴方に覆い被さってて。そしたら獣が凄い声で唸って血を流してたんです。獣は直ぐに死んじゃったみたいで、急いで貴方を助け出したら、貴方の剣が獣に刺さってました」
「ま、マジかよ……」
女の子の言葉が本当なら、偶然とは言え、俺がポイズンウルフを倒した事になるじゃねえか。
待てよ。て、事は──
「ルーキー卒業だー!! マジか!! やったぜ! ありがとう! ありがとう!」
「えっ! ちょっと何ですか!?」
俺は嬉しさが込み上げ、お礼を言いながら女の子の手を取り、訳の分からない振り付けで踊り出す。
泥水を啜って苦節10年。長かった……。
だけど、遂に光が見え始めたんだ。
そんな気がして、俺の興奮は治まらなかった。
──ぐ~ぅぅっ。気が狂った様に踊る俺を冷静にさせたのは、悲しそうに鳴く、女の子の腹の虫だった。
「なんだ腹減ったのか?」
「はい……お腹ペコペコです……」
「そうか。じゃあ俺がなんか奢ってやるよ。ポイズンウルフを倒せたのも、お嬢ちゃんと出会ったからかもしれないしな」
「本当に!? やったー! あっ、でも……私の名前は夢野恭華です! お嬢ちゃんじゃ有りません!」
「ユメノキョウカ? 珍しい名前だな……俺はフォグ。ユメノキョウカ。宜しくな」
「あっ、違うんです! ユメノは名字で名前がキョウカなんです……」
という事は、この女の子……貴族?
「キョウカ=ユメノ様って事か……貴女はもしかして貴族ですか? それなら失礼な態度申し訳有りませんでした!」
「ああ、違うんです! 私はただの16歳の女子高生で! あれ? でもあっちでは死んじゃったから今は女子高生じゃないか……と、兎に角! ただの女の子なんで敬語とか止めて下さい! 私の事はキョウカって呼び捨てで呼んで下さい!」
なんだ、貴族じゃないのか。それなら一安心だ。
もしも貴族様に失礼な態度なんて取ったら、たちまち犯罪者にさせられて一生牢屋で過ごす所だった。
だが……家名が有るって事は、没落した貴族の子供なのか?
だったら、あんまり詮索するのは良くないな。
「分かった。じゃあ、キョウカ。こんな危ない所さっさと出て飯でも食いに行こうぜ!」
「はい! この世界のご飯は初めてなので楽しみです!」
この世界のご飯? なんだか不思議な発言が目立つ子だな。
服装も変わってるし、この国の人間じゃないのかもしれん。
「──キョウカの着ている服は変わってるな。この国でそんな格好の人間は見た事無い」
街へ戻る為、森をキョウカと二人で歩きながら少し探りを入れる様に聞いてみる。
これで素直に答えるならもう少し突っ込んだ事も聞けるし、答えを濁すならこれ以上の詮索は止めよう。
「あっ、これですか? これはセーラー服って言うんですよ! このリボンが着いたセーラー服が可愛くて、入る高校も決めたんです!」
セーラー服? 高校?
キョウカの言っている事がさっぱり分からん……。
「そ、そうか……所で、キョウカは何処から来たんだ? モンスターが出る森で、女の子が一人なんて危ないだろ」
「そうなんですよ! 酷いですよね! あっ、私はこの世界とは別の世界の"日本"っていう国から来たんです。向こうの世界で神様の手違いで死んじゃって、可哀想だからってこの世界に転生させてくれたんですよね。チートスキルとか一杯付けてくれたんですけど私良く分からなくて……」
だ、ダメだ……全然意味分からん。もしかして、頭でも強く打ったのか?
まあ、事情を聞くのは後にしよう。
俺の脳味噌が焦げちまう。
「そ、そうか。大変だったんだな! と、とりあえず、街に行ってから事情は聞くよ」
「はーい。あっ! あの草、高く売れるみたいですよ! 取っても良いですか?」
手を上げて素直に返事をしたキョウカは、なにやら──道端の草が高く売れると言って、俺に採取して良いか聞いてくる。
「別に構わねえが、そんな草本当に高く売れるのか? ただの雑草にしか見えねえけど……」
「えっと、私の鑑定眼ってスキルで見たら、高く売れるって教えてくれたんです!」
はっ……? 鑑定眼って、特殊性Sランク、有効性SランクのダブルSランクで、冒険者や商人が喉から手が出るほど欲しいあの鑑定眼か!?
「ちょっと待て! それは本当なのか? つまんねえ嘘つくなよ!?」
「ど、どうしたんですか、フォグさん!? 私は嘘なんてついてませんけど……」
マジかよ……ならこの子は、ダブルSランク持ちのスキラーって事かよ!! 一体何者なんだ……。
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