02 「ウサギと女の子」
──森の中を突き進み、ポイズンウルフが生息する所まで歩いていると、今度は白くて小さなモフモフに出くわした。
こいつは……ホーンラビットだな。
真っ白な体に真っ赤な目。
小さい体でピョンピョン跳ねる姿は愛くるしいが、油断していると痛い目に合う。最も危険なのは額から生えた一本の角。
ホーンラビットの角は硬くて鋭利。普段は温厚だから害がなさそうに見えるが、一度敵対するとその獰猛さを現す。
可愛いと思って近付いてみろ。
一瞬にして鋭利な角で突かれて、身体中穴だらけだ。
それに、ホーンラビットはすばしっこい。捕まえようと思っても、小さい体で素早く駆け回るから俺みたいなどんくさい奴じゃ一生かかっても無理だ。
そんなホーンラビットを俺が倒す方法──まあ、見ててくれ。
先ずは美味しそうに草を食ってるホーンラビットに気付かれ無い様に木の影に隠れる。そしたら油断してるホーンラビットに向かって石を投げつけ、様子を伺うのさ。
俺の投げた石はホーンラビットの真横に落ちる。
ビクッとしたホーンラビットは直ぐに辺りの様子を伺いだした。
キョロキョロする姿は可愛らしい。
そんなホーンラビットに俺は容赦なく再度石を投げた。
石はホーンラビットの直ぐ側に落ちて奴の闘志を煽る。
フシュッーと、鼻息荒く怒りを露にしながら後ろ足を蹴り出すホーンラビット。
奴の準備はバッチリだな。ここまで来たら後は簡単。
自分の場所を知らせる様に、怒り心頭のホーンラビットへ最後の投てきをして俺は木の影へ隠れた。
グサッッ!! そんな効果音が、俺の隠れた木から鳴る。
状況を確認する為、木の影からゆっくり出ると──
隠れていた木に突き刺さったホーンラビットの姿が俺の視界に入る。後は、一生懸命抜け出そうともがくホーンラビットの頭を落とすだけだ。
剣を抜き、勢い良くホーンラビットの首へ振り下ろす──
血が滴り、頭と体が別れるホーンラビット。
少し可哀想だが、これでホーンラビット狩りは終了だ。
敵対する相手に真っ直ぐ飛んでいく習性を持つホーンラビット。俺はそれを利用してこの方法を思い付いた。
普通の冒険者だったら飛んで来た所をバッサリやるんだろうけど、どんくさい俺が避けられる訳ねえ。
かなりこズルいが、弱い俺なりに頭使ってやってきた。
情けなくなんかねえぞ……。
さあ、気を取り直してホーンラビットの角を頂こう。
この角は硬い材質だけあって刃物なんかに溶かして混ぜると、硬度が少し上がるらしい。
一本500エーンで売れるから、スライムの核に比べるとかなり高価だ。まあ、臆病なホーンラビットに遭遇出来る確率は、1日森を歩いて一回遭遇すれば良い方。
だからそんなに稼げる獲物じゃねえがな。
そんな獲物に、今日は直ぐに会えた。
なんだか、今日は良いことがあるかもしれないな。
──それから森を歩く事三十分。
森の中にぽっかり空いた広場の様な場所に出た。そこは木々が日を邪魔する事もなく、暖かい日だまりが心地良い。
ここらまで来たらそろそろポイズンウルフが出て来るかもしれないな……。気を引き締めていかねえと。
まあ、その前に少し休憩しよう。
最後の決戦に向けて体力を回復させねえと。
そう思い、中央の一番日の当たる場所に移動する。
だがそこには──人らしき物体がうつ伏せに横たわっていた。
「な、なんだこれ!? 人か? ……もしかして死んでる?」
肩まで伸びた黒髪の、変な服装をした人物。
露出した細い足と、髪からほのかに香る甘い匂いから察するに、この人物は女性の様だ。
「ちょっと失礼……」
生きているか確認する為、首に手を当て血の流れを確かめる。
暖かい肌。ドクドクと伝わる血の流れ。
どうやら生きてはいる様だ。
それにしても……女の肌を触ったのは何10年ぶりか……。
生きてるなら襲っちまうか?
そんな下卑た思いが沸き上がって来る。
女の体を仰向けに動かし顔を確認してみた。
可愛らしい整った顔立ち。
スヤスヤと眠る幼い顔が、俺の下卑た心を洗い流してくれる。
「俺は馬鹿か! 子供に興奮するなんてどうかしてる……それにしてもコイツ。なんでこんな所で寝てんだ?」
もしかしたらパーティーからはぐれた?
それとも自殺でもしに来たのか?
様々な可能性が有るが、真実はコイツが起きないと分からない。
「おいっ! 起きろ、起きろよ!」
スヤスヤと眠る幼い顔。起こすのは少し可哀想にも思えるが、こんな所で寝ていたらモンスターに襲われて間違いなく死ぬ。
それが目的なのかもしれないなが、とりあえず起こして事情を聞こうと、女の子の体を揺さぶる。
「起きろよ!! おいっ!!」
一際大きな声を出して女の子を揺さぶる俺。
しかし、一向に起きる気配が無い。
どんだけ熟睡してんだよ……図太すぎる。
そんな時──
ガサガサと、背後から草を踏み締め音が俺の鼓膜を刺激した。
「──ガルルッ!」
振り返って音の方を確認すると、鋭い牙を剥き出しにして唸っている一匹の獣の姿が目に入り込んでくる。
間違い無い……アイツはポイズンウルフだ──
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