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01 「俺なりにやってきたのさ」

──聖域の森。


 深く、何処までも広がる森。森の奥、そのまた奥は聖域と呼ばれ、入った者が出て来れる事は二度と無い。


 噂では神の使いである獣がこの森の守護者として君臨し、森の秩序と自然を守っているのだとか。


 まあ、あくまでも噂だがな。

 だが、森の奥の奥まで入ったら最後なのは確かだ。


 其処には、高ランク冒険者も歯が立たない強力なモンスターが腹を空かせて蠢いている。

 

 だから入ったら最後、出て来れないのは当たり前だ。


 でも、聖域と呼ばれるエリアからそのモンスター達が出て来る事も無いので、聖域に侵入しなければ良いだけの話。


 聖域と呼ばれるエリアは、勇敢な冒険者達によって柵で囲まれ。ちゃんと入っては行けない所が分かる様になっている。


 なんでも、その柵を設置するのに、何人もの冒険者達が犠牲になったとか……。


 その柵のお陰で、今の冒険者達がうっかり聖域に侵入する事も無くなり、凶悪モンスターに喰われる犠牲者は出ていない。勇敢なる偉大な先人達に感謝だな。


 で、俺はその聖域の森へ来ている。

 勘違いするな。森の奥へなんて行くわけねえ。


 俺が歩いているのは森から10分程歩いた所だ。

 此処等までなら、スライムやホーンラビット位しかモンスターは出て来ない。


 弱小な俺の、狩場って訳さ。

 ほれ見ろ。噂をすれば、スライムちゃんが出て来たぜ。


 青く透き通った肌。目、耳、口は無く、獲物を粘着性の体で包み、溶かして栄養を吸いとる魔物。それがスライムだ。


 動きは鈍く、攻撃も酸を飛ばして来るだけの単調さ。

 だが、油断して酸が体に掛かると、強力な酸が皮膚と骨を溶かして強烈な痛みに襲われる。


 こいつの倒し方は、体の中央に赤く光っている小さな核を壊す事だ。


 剣で貫くのが一番早い。後は、火を扱うスキル持ちなら火で溶かすのも手っ取り早い。スライムは火に弱いからな。


 んで、俺がこいつを倒す方法だが……ズバリ! 塩だ。 

 

 スライムと遭遇したら、先ずは酸が当たらない距離まで離れる。次に、スライムの動きに注意しつつ腰に着けた布袋から塩の入った袋を取り出す。


 この塩は、道具屋で50エーンで買える一番粗悪な塩だ。

 因みに100エーンで果物が一つ買える。

 

 10エーンで一小さな銅色の硬貨。

 100エーンで小さな銀色の硬貨。

 1000エーンで金色の少し大きい硬貨。

 10000エーンで白銀色の大きい硬貨だ。


 で、粗悪品の塩が入った袋から、塩漬けした乾燥肉を更に粗悪品の塩でコーティングした物を取り出す。


 そして、その乾燥肉をスライムの近くへ投げる!


 モゾモゾと体を動かし、乾燥肉を喰らいにいくスライム。少し待つと、スライムは乾燥肉に覆い被さり溶かして喰おうとする。


 だが───あら不思議。シュワ~と、逆にスライムの方が溶けてゆく。暫くすると、原形を留めた乾燥肉と核を残し、跡形もなく溶けるスライム。

 

 これで、スライム討伐の完了だ。


 凄いだろ? この作戦は俺のオリジナル。他の冒険者は誰もスライムが塩で溶けるなんて知らない。 


 まあ、スライムの弱点が塩だなんて俺もたまたま知っただけなんだけどな。


 あれは若かりし10年前の事──


 当時、新人教育を終えた俺は、入ったパーティーを次々にクビにされていた。力が無いから荷物持ちもろくにこなせないし、ましてや、スライム一匹倒すのも儘ならなかったから、しょうがないけどな。


 それで、パーティーに入れない俺は一人で森へ来ていたんだ。

 雑用依頼は街への奉仕作業で、冒険者のイメージを上げる意味合いが強い為、貰える報酬は500エーンが相場だ。


 それじゃ飯は一食が限界だし、雑用依頼は1日一件しか受けられない。その他に、冒険者としてエーンを稼ぐ方法と言えば、薬草の採取依頼。


 だがこれは、ルーキー以外の冒険者もモンスター討伐をしながら常に採取している為、採取出来る薬草は僅かなものだ。


 薬草10個1000エーンで引き取って貰えるが、この10個を見付けるのが俺にはかなり大変だ。


 なんと言っても、俺には普通の草と見分けがつかない。

 とりあえず見付けた薬草らしき草をギルドに持ってくと、その中で薬草だったのは10個中3個が俺の最高記録だ。


 そんな俺が飯を食う為、雑用以外で金を稼ぐにはモンスターを討伐するしか方法が無い。


 んで、森へ来たわ良いが──俺が最弱と言われるスライムを一人で倒せる可能性は殆ど無かった。


 だって怖いんだぜ? たまたま入ったパーティーで見たんだが、スライムの酸を腕に受けた奴は、皮膚がドロドロに溶けて直ぐに骨を溶かされてた。


 腐ってボトッと落ちた腕は、俺にトラウマを植え付けるには十分だった。


 そんな訳で、どうやって倒したら良いかも分からぬまま、スライムに出くわした俺は、有る事を閃いた。


 布袋から非常食用の塩漬けした乾燥肉を取り出して、スライムにぶん投げた。乾燥肉をスライムが喰ってる間に近付いて、倒そうとした訳だ。


 ぶん投げた乾燥肉はスライムの直ぐ近くに落ちた。

 そしたら、スライムは見事に乾燥肉に興味を示し、ヌルヌルと体を動かして乾燥肉を食い始めた。


 今の内だ! 俺はそう思ってスライムに駆け寄った。

 そこで、驚くべき光景を目にしたんだ。


 スライムの核目掛け剣を突き刺そうとした時──

 何故かスライムはドロドロに溶け始めた。


 ものの数分で完全に溶けたスライム。

 残っていたのは原型を残した乾燥肉とスライムの核。


 急に溶けたスライムに、頭の中は?が湧いたさ。

 でも、良く考えたら有る事に気付いた。


 乾燥肉は原型を残してる。なら、これがスライムの溶けた原因じゃないのか? そう思った。


 だが、肉を喰って溶けるのも変だ。

 スライムはモンスターの死体なんかも喰ってる。

 後残るは乾燥肉に染み込んだ"塩"。

 これしかスライムを溶かす原因が思い付かなかった。

 

 俺は町に戻る為に森を全速力で走った。

 ああ勿論、スライムの核は確保した。

 スライムの核をギルドに売れば50エーンが手に入る。


 なんでも、スライムの核を粉々にして更に濾すと、滋養に効く薬の原料の一つになるらしい。


 一つ50エーンでも、塵も積もればなんとやら。

 その塵を積もらせる為に、町に戻った俺は道具屋へ直行した。


「──オヤジ! 塩くれ塩!」

「なんだい慌てて……塩って言っても色々有るぞ」


「一番安いので良い!!」

「ケッ、貧乏ルーキーか──ほらよ。50エーンだ」


 たまに砂利が混ざってる様な粗悪品の塩。

 だが、スライムに使うならこれで良い。


 手のひらに収まる位の布袋に入った塩を買った俺は、息つく暇も惜しいと思い、直ぐに聖域の森へと戻った。


 そして──30分程森を探索すると、奴の姿を発見した。

 相変わらずのプルプルボディ。

 

 そのボディを横目に、さっき買った粗悪品の塩が入った袋とスライムが喰えなかった乾燥肉を、腰に着けた布袋から取り出す。


 粗悪品の塩が入った袋を開け、塩を一掴みして乾燥肉に振りかける。そして、塩でコーティングした乾燥肉をスライムの近くにぶん投げる!


──数分後、予想通りの展開が俺の前に広がっていた。

 

 乾燥肉に喰らい付いたスライムは原形を留めた乾燥肉と核を残し、跡形もなく消えていたんだ。


 しめた、と思った。これでスライムを狩りまくればガッポガッポだと、その時の俺は有頂天だったのさ。


 だけど……夕方までスライムを見付けては狩っていた俺は、当たり前の事を見逃していた。


 赤く染まる空。鳥達が巣に帰る為羽ばたく中──

 暗くなってきた森の中で、俺は一人呟いた。

 

「スライムがいない……」


 夕方になるまでは順調だった。だが、最後にスライムを狩ってから二時間以上経っても、俺の前にプルプルボディが現れる事は無かったのだ。


 スライムって、そもそもそんなに居ないのな……。そりゃあ、見付けては狩ってを繰り返してたら、居なくなるのも当然だわ。


 そんな当たり前の事を見逃していた俺は、その日狩った十体のスライムの核をギルドで金に変え、小銭に片手で下宿所へトボトボ帰った──という訳だ。


 今思い出しても、苦い思い出だぜ……。

 その日から、無駄にスライムを狩るのは止めた。

 今は出くわしたら狩る位の気持ちだ。


 まあ、苦い思い出は忘れて、目当てのポイズンウルフを見付けなきゃな。

お読み頂きありがとうございます!

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