41話 悲しみと憎しみの輪廻
【前回までのあらすじ】
たくさんの報道陣の前。魔王パレシアと、主人公イセキンはマイクに向かう。パレシアは静かに動画流出に対する経緯の説明を口にする。
「まず、私どもの個人的なことにつきまして、皆様にご足労いただきましたこと、お礼申し上げます。ありがとう御座います。
さて、この度の私どもの行為、そして発言につきまして、経緯をご説明いたします。
私と『イセキン』ことタカオさんと初めて出会ったのは、私がタカオさんを勇者であると疑いをかけたときと同日です。
きっかけはドラゴン5体に対して5属性を操り倒したこと。
さらに《ライブ》を使うオークに強烈な技で、倒すという常人離れした行動を察知したからです。
異常を察知してからは、すぐに転移魔法を使い、タカオさんの元へ駆けつけ、エクスカリバーを抜くときに死ぬという祝福をかけました。
と同時に、祝福の儀式ではなく解析魔法の《アナライズ》の効力を増すために口づけをおこない彼の素性を把握し勇者であると確信いたしました。
その後、私は秘密裏にタカオさんにお会いしました。
その時タカオさんからは、人魔間の戦争をやめて欲しいとのご提案があり、私はその条件としてエクスカリバーを探すという体で、私とタカオさんとの戦いを続けることを提示し、ご了承いただきました。
しかしながら私はこのとき既に、エクスカリバーはこのアナムネには存在しないことを把握しておりましたし、交渉の時点でタカオさんにもご説明をいたしました。
私の提案は、人魔間の戦争をやめることにつながることと信じ、良かれと思っての行動でした。とはいえ結果的に視聴者の皆様や、ご支持いただいている魔族の皆様、信仰していただいているすべての信者の方々を裏切る行為となってしまったこと。心より深く反省をしております。申し訳ございませんでした。……これがこの度の経緯であります」
パレシアは本当に包み隠さず何もかも話した。
2人だけの秘密だった、エクスカリバーがこの世に無いことさえ。
次にペリオリがマイクを握る。
「では、質疑応答をいたします。順番にどうぞ」
つぎつぎと挙手をするマスコミたち。
――この度の事実が流出しました、イセキンTVについてはどのようにお考えでしょうか?
「どのような形であれ、魔王という立場でありながら不適切な行為に身をまかせてしまったことについては、誠に申し訳ないと思っています」
――何故、勇者であるタカオ氏にキスをしたのでしょうか?」
「まるで異世界から来たかのような常人離れした強さに魅力を感じてしまいました。
また同時に人魔の戦争をやめたいと常々考えておりました。そして私ひとりが、戦争をやめても第2、第3の魔王が出てこないようにするにはどうすればいいかと。
タカオさんは、これらの悩みを唯一相談できる相手であることから、押し寄せる感情が芽生えた結果であると思います」
――どうやって、アナムネにエクスカリバーが無いということがわかったのでしょうか?
「私の……歴代魔王に代々つたわるタレントスキルがございまして、それが『オーバーアイ』という、このアナムネすべてを監視できるスキルを利用したからです。『オーバーアイ』は魔法ほど深く探ることはできませんが、表面的な事象については広く感知することができるスキルです」
一連の質問に、真摯に偽りなく答えていくパレシア。やがて質問は俺に向けられる。
――タカオさん、一言お願いできますか?
一言……何を言えばいいのか。パレシアと同じく正直に誠心誠意、応えよう。
「えと……私は……皆さんから見れば、異世界からきた人間です」
え?っとざわつくマスコミたち。無理もない。
どこの謝罪会見に、こんな突飛なことを言う者が居るだろうか。
そしてパレシアもそこまでは把握していなかったと言う表情でこちらを見る。
構わず、俺は続ける
「アナムネで勇者として一方的に認定された私は、勇者としての自覚はありません。
しかしパレシアさんのことが好きなことは事実です。彼女は美しく、誰しもが惹かれる存在です。それだけでなく、パレシアさんが感じられたとおっしゃいました、異世界的な魅力というものを、私も感じました。
彼女は……彼女は断罪されるべきではありません。
今回の行為は裏切りに見えてしまうかもしれませんが、それでも人魔間の戦争回避を彼女なりに一生懸命考え、見つけ出した答えなのです。そして今を一生懸命生きて、魔王という職務を全うしようと奔走していました。そんな彼女の健気な姿に僕は……惚れたんだと思います。
批判は甘んじて受け入れます。
しかし、この世界がなんと言おうと僕は、パレシアさんを愛しています。
その事実は今後も変わることはありません。
……皆さん、もう戦争はやめましょう。
魔族・人間・その他の種族、自分が何者であろうと関係がない。魔族も人間も、それ以外の種族も、互いに憎しみ合うことは今日で終わりにしましょう。
過去はもう変えることはできません。でも未来はつくる事ができます。そのために今があります。『過去を忘れろ』という意味ではありません。しかし、過去に縛られる必要もないでしょう。悲しみと憎しみの輪廻から脱し、自由になって、前を向いて一緒に歩いて行きませんか!?」
「私は!!!」
パレシアではない女性の声、部屋の隅から大きな声がした。
会場の視線が集まる。ツァラだ。
何故人間がここに居ると会場が、ざわつき始める。しかし彼女はそのまま続ける。
「私の両親を……魔族に殺された。虫けらのように無残にも、ぐちゃぐちゃにされたんだ。
だがイセキンの言葉を信じたい。
悲しみと憎しみの輪廻から自由になりたい!
ここで必要なのは赦す愛だ。
私は魔族が行った罪を赦す。私はこれで人間の批判を受けるだろう、そして、魔族にはこの赦しは理解も相手にもされないだろう。それでも私は私の意見を変えない。
過去は変えられぬ。しかし未来は作られる!決断は今だ!」
パチパチパチと、まばらだがツァラの宣言に拍手が起こる。
まだ一部に過ぎないが、それでも魔族が人間の思想に共感を示したのだ。
マスコミの手が次々と上がり俺へ質問が向けられる。
――戦争をやめたくてもやめられない者も居るでしょう、彼らに対しては?
「経済的に戦争に依存している部分もあるでしょう。そういうことはスポーツとして昇華していきませんか?名付けてAスポーツ。Aにはもちろん、この世界『アナムネ(Anamne)』という意味を込めています」
「おお〜!」
とざわつくマスコミたち。これには相当の納得をしたようだ。
もともと好戦的な習性なのだろう、魔族たちの衝動は『戦い』でしか抑制できていないようだった。しかしスポーツを行えば、戦いの衝動を昇華させることできると思っていた。
魔族たちには具体的なこの解決方法が刺さったようだ。
早速どのようなスポーツにするかを話合う者まで出てきた。
格闘技にせよ、球技にせよ、はたまたテーブルゲームにせよ。
なんでもいい、命を落とすことがなくルールに則り安全に戦いの衝動が収まれば、それも悲しみと憎しみの輪廻から脱する方法になるはずだ。
【次回予告】
謝罪会見を経て、魔族の理解を得たパレシアとイセキン。そしてついに剣士メーロンとの戦いを決意する。
次回、第42話、前人未到!同時視聴者数300万ビューの驚異!




