25話 死闘!ベヒーモスと、なまくらの刀
【前回までのあらすじ】
主人公イセキン一行の前に、突如現れたのはクエストのターゲットであるヒポグリフだった。襲ってくるかと思いきや一点突破で逃げたように見えた。しかしなにかがヒポグリフにぶつかった。ステータスMAX勇者とエッちぃ魔王の異世界謝罪会見!〜俺と魔王のいちゃつき動画が流出しても、この世界を救います!〜
「キョルェエエエエエエエエ!」
ヒポグリフ断末魔。しかしそれはすぐに止み、代わりドシンドシンと、その体を地面に何度も叩きつけられる音に変わった。首を噛まれ、おびただしい血があたりを染めあげる。
「グルルルルル……」
執拗に痛めつけたヒポグリフはすでに動いてない。
鷲馬を仕留めた影の主は我々には目をくれず。夢中で肉を貪り始めた。
もしかしてヒポグリフは俺たちを狙ってここに来たのではなく、こいつから逃げてきたのか?そこにたまたま俺たちが居たということか?
骨ごと噛み砕いて食べているのだろう、ボキボキと重低音が辺りに響く。
「気をつけろ、あれはベヒーモスだ!」
「ベーヒーモス!ボ……ボクは初めて見たニャン!」
「わたしもだ」
「えー!ツァラちゃんも!?皆さんご覧ださいニャ!その躯体は、ヒポグリフの3倍はあろうかという大きさ!はちきれんばかりに盛り上がった筋肉!異常に大きな口と牙!赤い眼光!するどい爪!立派な鬣!そして頭には2本の大きな角!四本の足でしっかりと眼の前に立つ、この魔獣。ベヒーモスはそこらのドラゴンよりも数倍は強力な力を持っているとされているニャ。一撃でヒポグリフを仕留める攻撃力。まさに伝説通り!」
ベヒーモスといえばRPGでも後半ででてきがちなモンスター。ネコ子の実況から言って、この世界アナムネでも同じくドラゴン以上の強敵だろうことは推察出来る。
「イセキン!ここは逃げたほうがいいかもしれん」
「いや……」
と、ベヒーモスと目があう。次のターゲットは俺たちだと言わんばかりだ。
真っ赤な目がこちらを睨み体勢を俺に向ける。
「グオオオオオ!」
「なんという!咆哮!その声は大気を震わせ、まるで空さえも割れてしまうようニャ衝撃です!」
「ツァラこりゃ逃げるのは無理みたいだぜ?」
「そうみたいだな」
「ニャ!?でもまだヒポグリフの肉は残っていますよ?もう食べないのかな?一体どういうことニャんでしょうか!?」
「見ろ、内蔵と四肢だけは平らげている。旨いところだけ食ってあとはポイなんだろう。私達が食べ方のマナーを教えてやらんとならないようだな」
「うーん、できれば戦いたくニャい相手ですが、やらざるを得ないようニャ!《ライブ》の効果なくして果たして倒せるのか……!?」
ふと、イセキンTVの視聴者数を確認する。約40万ビュー……この力が今俺たちに宿ればどんなに楽か!
「行くぞ!でああああ!」
キンキンキンキンキンキン!!!
「行ったー!ツァラちゃんが仕掛ける!気迫の猛攻ニャ!」
「ふふふふふ、この剣はホルドマン系列店で購入できる、体力回復の効果がついた剣だ!少々値は張るが、ご覧の通り、攻撃による体力消耗はない!いや、むしろ力が湧き上がってくるぞ!攻撃は最強の防御とはまさにこのこと!」
ツァラは攻撃をくりだしつつ、冷静に解説をいれる。これが……あれか、スポンサーへの配慮ってやつか?
「すっごーい!ツァラちゃんの連続攻撃ニャ!で、でもなんかダメージが通ってない気が、」「こ、こらネコ子!!大丈夫!ダメージはほら通っているぞ!」
キンキンキン!
ものすごく必死に、でもツァラの顔は満面の笑みでベヒーモスを斬りつける。ネコ子は、その行動にぽかんとしていたが、ハッと表情を変えた。「そうだ、この剣はなまくらだった」と思い出したようだ。
「みみみ、見てください!ベヒーモスは圧倒敵に防戦一方だニャ!押してるぅ!ツァラちゃんが押してるぞぅ!そうこうしている間に崖っぷちまで追い込むニャ!」
なまくらの剣だが、しかし確かに体力回復の効果は有効であるようだ。ツァラ必死の猛攻によってベヒーモスは徐々に下がる。
そうだ!
「ツァラ!一気に押し込んで崖からこいつを落とそう!うおおおおらあああ!」
「今度は後方からイセキン君が飛び出した!ふたりがかりで崖から落とす作戦かぁ!?ニャニャ!?あの構えは?イセキン君、何かを企むかぁ!?」
「魔法が使えないと言うなら、剣技はどうだ?ベヒーモスよ!ドラゴンを倒した俺の太刀を受けてみろ!雷光斬り!」
「なんと!イセキンの剣に雷がやどり、ベヒーモスを斬りつけたニャ!どうやら剣技はこの山でも使えるようだニャ!魔法は空間に漂う『マナ』の消費が力の源泉ニャ!しかし剣技などスキルは『体内のマナ』を消費するニャ。故にこの霊山でも、『オド』と呼ばれる『体内のマナ』を消費する剣技は効果が有効ニャのでしょう!」
行ける!攻撃は効いているようだ!ソッコーでケリをつけるぞ!
「闇影斬り!大地斬り!氷結斬り!」
俺は次々と属性の剣技を繰り出した!ドラゴン戦で放った攻撃に、実は名前を付けておいたんだ。それぞれの属性を模したものにしてある。
「ニャあああああ!イセキン君が繰り出す、とめどない属性攻撃剣技!光、闇、木、水!様々な輝く剣の軌跡はまるで虹のように色とりどりに光輝くニャ!」
「これで最後だ!火炎斬り!」
剣は灼熱に包まれ、業火とともにベヒ―モスを斬りつける!……ん?なんか手応えがないんだが。
「あああああ〜〜ぁああ!ちょちょ!!」
なんとも情けない声を上げるネコ子どうしたってんだ?
「剣、剣!剣がーー!」
慌てるツァラは剣の刀身を指差す。
ああああ、しまった!この剣はよく斬れる代わりに熱に弱かったんだ!やっちまった。
刀身は熱にやられてぐでんぐでん。真夏の食べかけのアイスのようにどろどろに溶け原型を留めていない。
「うおおおおおお!オルぁああああ!!駄目押しだ!んにゃろ!!!」
「っとー!ここでツァラちゃんが盾でベヒーモスの巨体を攻撃ニャ!ノックバックに効果的なのは盾による攻撃!これにはたまらずベヒーモス体制を崩し崖へ落ちていったニャ!」
なんか、ツァラの盾攻撃は、ベヒーモスを崖に落とすというよりは剣が溶けたことを有耶無耶にするために、ベヒーモスを渾身の力出押し切ったように見えた。
【次回予告】
襲いくるベヒーモス。唯一の属性攻撃である剣技を駆使して撃破を狙うも、全く効かない。ツァラがつぶやく「こいつは、もしかしたら全属性無効化かも」
次回、第26話:全属性無効のベヒーモス!切り札は『空斬り』




