10話 女戦士ツァラとキャンプ!
【前回までのあらすじ】
主人公イセキンは、魔王パレシアに迫られキスをしてしまった。同時視聴者数が多いほどに強くなる配信魔法。イセキンとのキスシーンは魔王の《ライブ》視聴者数200万ビューに登りランキングはダントツの1位。圧倒的な力を前に女戦士はイセキンを連れて魔王の元を離れるのだった。
女戦士は足を止めずズンズン歩く。
「ラッキーだったな。魔王から逃れることができた。魔王は絶大な力を持ちながらも、《ライブ》の効果もあって、事実上無敵だ」
「そうだな同時視聴者数200万。とんでもない数だ」
女戦士はさらに歩く。
「そうだ。だが、次はわからん。魔王から逃げることはできない。考えたくは無いが次は確実にやられるだろう」
たしかにそうかも知れない。
RPGでは魔王はおろか、ボスから『逃げる』というコマンドは選べない。
ふと、女戦士が立ち止まり、コチラを振り返る。
「あの……あらためて、いろいろとありがとう。私の名前はツァラ。職業は聖騎士だ」
その目から涙はすっかり引いていて、白く透き通っていた。
深々とお辞儀をする女戦士ツァラ。
彼女の頭がちょうど日に当たり、赤髪が綺麗に輝いていた。
「いや、頭を上げてくれ、ツァラ。……俺の名前はタk」
「イセキンだろ?さっき魔王に言ってた」
「ん、そうか」
名前はタカオと言いたいところだったが、訂正するタイミングを見失ってしまった。
「で、俺の職業は……えーと」
「ぶ!ハハハ。なんだ、自分の職業もわからないのか。そんなやつ居るんだな」
女戦士ツァラから笑みがこぼれる。
「そうなんだ。ははは。すまない」
と、俺は乾いた笑い。
「いやべつに謝らなくていいよ。大体そういうときは、剣士って名乗っておけばいい。剣士は無職の別名だ。他の職業と違って何の資格も登録も要らないからな、物は言いようだよ。
まったく……不思議なやつだなイセキンは!」
止めていた足は方向をかえ、静かに歩き始める。
「私達のパーティはもともと4人だった。エクスカリバーを探していて、ある時ドラゴンが潜む洞窟に聖剣があるという情報を掴んだんだ」
ツァラは続ける。
「ダンジョン最深部。くまなく探したが、エクスカリバーはどこにもなかった。そして現れたのが5体のドラゴンだった。十分な準備をしたつもりだったが……」
「なるほど」
4人のパーティのうち3人はその時ドラゴンにやられたのだろう。
あるものは燃やされ、あるものは食いちぎられ、あるものは凍った。
「そして気づいたらイセキンが現れた。目を疑ったよあの瞬間は。確かにそれまで誰も居なかったはずなのに」
「そうだな、俺も気づいたらあそこに居たんだ」
「はは、面白いこと言うなぁ。しかも、《ライブ》もなしにドラゴンを1人で倒すなんて。ありえない」
まあ、異世界から転生してきたなんて言っても信じてくれないだろうが……
なんて話をしている内に、ツァラは足を止めた。
「着いたぞ」
「ここは…」
焚き火のあと、そしてツァラパーティのものであろう荷物がそこにあった。
キャンプだ。
ここをベースにしてエクスカリバーを探していたのだろうか。
「私は、いろいろとイセキンのことを聞きたい。しかし、旅も急ぎたい。そこでだ、このキャンプで昼飯を食って出発。夜までには、ここら辺で一番大きな街、ヒュードルへ到着しよう」
「俺もツァラにはいろいろと聞きたいことがある」
「そうか、だが腹が減った。まず飯にしよう。イセキンは火を起こしておいてくれないか。私は水を汲みに行く。ついでに何か食べられそうなものがあったら持ってくる」
「火?いや俺はゼロから火を起こしたことがないぞ。どうやって?」
「まったく、何も知らないんだなお前は。
まあ最近は火のエレメントエーテルを詰め込んだ便利なファイヤートーチといったアイテムもあるからな。火起こしをしたことない奴は珍しくもないか。
私はトーチを使わないんだ。水に濡れると点火できないし、途中でエーテルがなくなるとゴミになり荷物になる」
ツァラは火起こしが慣れているのか言いながら、キャンプにおいてあったリュックからアイテムを取り出す。
「そこで、私が使うのが、このファイヤースターターだ」
ツァラが取り出したのは、家の鍵みたいな小さな金属の棒と、そしてガムぐらいの薄い板。それがキーホルダーのようなチェーンでつながっている。こんなの元の世界でも見たことないかも。
【次回予告】
ファイヤースターターを使った火起こし。干し肉を使った料理。女戦士ツァラはよっぽど旅に慣れているのだろうか、主人公イセキンの目には、彼女のことが完璧に見えた。
次回、第11話:ツァラっていいお嫁さんになりそうだよな




