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スマイリングヒューマン -僕は殺人鬼に恋をした-  作者: 巫 夏希
第一章 まっかなおとぎばなし
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第三話 出会いとスマートフォン

 それからというものの、あまりこれといった事象は起きず、ただただ単純に過ぎていっただけの話。だから説明する必要も無ければ、説明する義務も無い。

 放課後は研究室に移動し、卒業研究に移る。卒業研究のテーマは薄らぼんやりとしか決まっておらず、卒業できるのかどうか分からないと指導教員に言われてしまうレベルだった。強いて言うならば、ゲームが作りたいという話をしたところ、ゲームと学問を結びつける物があるからそれを使ってみるとどうだろうかと提案され、それを確認している次第。

 とは言っても、結局暇なことには変わりない。全員が全員、卒業研究に一辺倒しているわけでもないし、ずっとスマートフォンでインスタグラムを見ている人だって居れば、ずっとゲームをしている人だって居る。……ま、後者は僕のことだけれど。


「ところで、今日も先生、来ないって」


 ずっとスマートフォンを弄っていた平井理沙がそう言った。平井さんは一年上だが、学年は同じ。……まあ、やんごとなき事情があるのだ。そこについてはあまり触れないほうが良いだろう。

 それにしてもずっとスマートフォンを弄っていてその情報が分かった、ということは、おそらく先生はラインを使ってきたのだろう。ガラケーを使っている自分にとってみればラインなど使えた物ではない。だからどちらかといえば、ガラケー勢は徐々にその行き場を失いつつある。哀しい事実だけれど、仕方が無いと言えば仕方が無い。


「何だ。聞きたいことがあったのに。まあ、いいや。別に急ぎの用事でもないし」


 美作が言うと、僕は続けて、


「ラインで聞けばいいんじゃない?」

「直接聞きたいんだよ。それに、ラインにプログラムのコード送りつける訳にもいかないだろ」

「さいですか」


 そんな感じで卒業研究の時間は過ぎ去っていく。あっという間と言えばあっという間だ。四時ぐらいから始めて気づけば七時を過ぎていることもしばしば。そうなってしまうと夕食を取る時間がどうしても遅くなってしまう。

 七時を回ったあたりで、僕は電話をかけることにした。連絡先は、実家だ。正確には居候している身である。両親が出張しているため、僕は祖父母が住む実家から学校を通うことにしているのだ。別に珍しいことでもない、普通のこと。


「……そう。そういうわけだから、先に食べておいてよ」


 帰る頃には九時を回るだろうが、致し方ない。卒業研究が進んだと思えば良い。え? ゲームしかしていないだろう、って。失敬な、ゲームもきちんとした卒業研究の『研究』にあたるのだ、と言い訳をしておく。

 電話を切り、僕は研究棟に入る。電気は既に消されており、研究室の明かりだけが灯されている状態だった。はっきり言って、何か出てきてもおかしくないぐらいの暗さ、とでも言えば良いか。

 そこで僕はふと昼食時に聞いた話を思い出してしまう。

 微笑む人。スマイリング・ヒューマン。

 微笑みかけて、その人を殺す。

 何だそりゃ、けったいな存在だ。そもそもそんな存在が居ることを、都市伝説として流布されてしまっていることを、学生課は気にも留めていないのだろうか。普通ならば学校のイメージダウンに繋がるからあまりそういう話を流布させないような気がするけれど。


「……ま、人の口に戸は立てられない、って言うしな」


 僕は独りごちり、ガラケーを折り畳む。今じゃすっかりスマートフォンが流行しているから、『折り畳む』なんてこと自体が珍しい訳だけれど、そんなことは僕にとってどうだっていい。別に家族の折り入った事情があるわけでもないし、具体的に言えば、僕がフリック操作を苦手としているだけだ。ただそれだけの話。


「じゃあ、ガラケーと同じように出来るから、それでいいじゃん」


 その一言で解決されてしまうと、僕としてはちょっと困る。別に悪いことを言っているわけでもないし、悪い話を聞いているつもりもないのだけれど、ただ、僕からしてみればその話はあまり聞きたくない話題とも言えるだろう。

 それってただ逃げてるだけじゃん。



 ――その通り、逃げてるだけだ。



 僕はただ、スマートフォンという流行から逃げてるだけに過ぎない。


「そろそろ戻らないと、流石に鍵を閉めることはしたくないぞ」


 僕はそう思いながら、研究棟の廊下を歩き始めようとして――。



 ――僕は、そいつに出会った。



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