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第十八話 伝承



 結局、お前はただの人間だよ。




 京都府の山奥にある白いコンクリート製の建物。

 その名前を、『特異性ヒトゲノム開発機構 京都研究所』と呼ぶ施設には、多くの『人間と認定されない』何者かが暮らしている。

 インターネット上では都市伝説めいたものとして『確保』『収容』『保護』をスローガンとした機構が存在しているが、あくまでもそれはダミー。実際はそんなちゃちなものではない。

 廊下を歩くのは白いローブに身を包んだスマイリング・ヒューマンだった。


「やあ、実験体023。元気にしていたかな?」


 金髪の青年が、壁にもたれかかっている。

 スマイリング・ヒューマンはその声を聞いてちらりと一瞥する。

 しかしながら直ぐに彼を見る目を戻し、またすたすたと歩き始めた。


「おいおい、どうしてそんな機嫌が悪いのか、教えて貰えないかな?」

「あなたにそれを言わなくてはいけない理由があるのかしら、『切り裂きジャック』」

「……ここでは実験体ナンバーで呼べ、と『ドクター』からの命令だろう? 実験体023、いやさ、スマイリング・ヒューマン」

「…………それもそうね、実験体034」

「さて、ところで君が興味を持っている存在、人間だったか? それについて話させて貰いたいね」

「……いったいどこからその情報を入手したのかしら」

「噂だと思っていたけれど、事実なのかい?」


 鎌をかけてきた。

 スマイリング・ヒューマンは舌打ちをすると、深い溜息を吐いた後、話を始めた。


「ええ、そうですが。何か?」

「いいや、人間に興味を持つって、僕たち実験体らしくないなあ、と思ってさ。まあ、ドクターは人間と積極的に交流せよ、とは言うけれどね? 人間ってやっぱり下等生物であるからさ、あまり興味も持たなければ交流しようとも思わないんだよね」

「……それはあんたの都合でしょ。私は私の都合があるの」


 話が長くなりそうだと思い、立ち去ろうとするスマイリング・ヒューマン。

 それを言葉で止める切り裂きジャック。


「まさかとは思うけれど、その人間に好意を抱いている、なんて言わないだろうね?」


 それを聞いた彼女は踵を返す。


「あなた、どこまで知っているつもり?」

「あはは。君は隠せないなあ、実験体023。……一応言っておくけれど、僕たちは人間じゃあない。都市伝説やフォークロアなど様々な『伝承』によって生まれた不確定要素だ。スマイリング・ヒューマンである君が日本人の風貌をしているのは、主に日本で語られている都市伝説であり、僕切り裂きジャックが西洋の男性として現出しているのは、そちら側が発祥のお話だから、さ。まあ、切り裂きジャックは実在の人間をモチーフにしているのだけれどね」

「……何が言いたいの? 内容のない話を聞くためにわざわざ立ち止まったわけではないのだけれど」

「辛辣だねえ。つまり、言わせて貰うと、僕たちは人間の信仰によって存在出来ている。それは日本に伝わる八百万の神に近い存在と言ってもいいだろう。そんな僕たちは、人間の力が無いと……正確に言えば機関の力が無いとこの世界に留まることも出来ない。だから僕たちは機関の協力を得るために、機関の命令に従っている。意味が分かるかい?」

「ええ。だから私は機関の命じた相手を殺している。音もなく殺すには、あなたのような連続殺人鬼よりも私のほうが効果的と言われているからね」

「ひゅう、言うねえ。」


 切り裂きジャックは体制を立て直し、歩き始める。


「ま、気をつけた方が良いよ、という話だ。君は常に監視対象にある。ということは機関もその人間のことを知っているだろう。君がどう選択するかは自由だが、僕の生活を脅かすことだけは辞めてくれよ」


 そして、廊下を歩いて行く切り裂きジャックを見て、


「……結局、ここの連中って皆自分勝手なのよね」


 それだけを言って、彼女も又歩いて行くのだった。



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