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第十七話 酷薄(告白)


 結局、僕はスマイリング・ヒューマン――彼女を止めることは出来なかった。

 そして、次の日――僕たちは美蓮の死体が見つかったことが、学校のニュースで知らされた。

 彼女は校内の池に落とされていたらしい。ビニール袋に包まれたそれは、もはや人の形を成しておらず、関節の部分でバラバラにされていたらしい。何のビニール袋かと思い中を開けた清掃員は腰を抜かした、といっていた。目が開いたまま、ずっとこちらを見ていたらしいのだ。そりゃあ、トラウマにもなるだろう。

 僕は昨日聞くことは出来なかったけれど――多分、美蓮を殺したのは彼女だ。


「だとしたら、それをむざむざと逃がしたのは、僕だ」


 だって最後に彼女と――スマイリング・ヒューマンと出会ったのは、僕なのだから。

 僕が犯した罪は、また増えてしまった。

 簡単に言えば、逃亡の手引き。

 長々と言えば、それはきっと僕の罪であること。

 大学の教授は何も言わなかった。きっとあまり関わりたくないと思っていたのかもしれない。死んでからの噂も増えた。彼女が怪しい宗教にはまっているのではないか、という噂が流れた。信じられない。信じたくもない。きっとそれは、彼女に対して恨みを持っていた人間が、『死人に口なし』と思った現状を見て、彼女の評価を下げようとしているだけに過ぎないのだから。

 だが、それを止める相手など誰一人として居ない。誰一人として存在しない。存在することを許されないかの如く、存在するべきではないと思わせたいかの如く。


「……でも、それは間違っている」


 スマイリング・ヒューマンは、罪を、犯した罪について、裁かれるべきだ。

 それは、世間一般の常識であり、世間一般の考えであるといえるだろう。

 しかし、彼女は――人間なのか?

 風体だけを見れば彼女が人間たる可能性しか浮かび上がらないだろう。しかし彼女は人間ではない。人間であるならば、そうも簡単に、侵入し、人を殺すことなど出来るのだろうか。

 やはり、彼女は殺人鬼であって非人間的存在であって――都市伝説。

 それも、誰にも管理されていないわけではなくて、『機関』という存在に管理されている存在であるということ。

 彼女は多くは語らなかった。しかしそのすべては、僕にとって有益な情報だったと言えるだろう。

 スマイリング・ヒューマン。彼女は何者であって、僕は何をするべきなのか。

 そして、スマイリング・ヒューマンは何故僕を殺さなかったのか。

 一番彼女の存在を近くで目の当たりにしていて、一番彼女の存在に近い、僕を。

 何故彼女は殺さなかった?

 今更、『機関に命令されていなかったから』なんて言い訳が通用するはずもない。通用すると思っているならば、それはれっきとした間違いだと思えるわけだけれど。

 それはそれとして。

 彼女は、やはり――何か考えているのではないか?

 機関とは違う、何か別の考えをもって行動している。だからこそ、今は機関の命令に従いつつも、敢えて僕を逃がした。もし彼女が機関の命令に忠実に動いているしもべであるというのならば、彼女が僕に話したことは絶対に話さないだろうし、そもそも僕の命はあの高専時代の悪夢で終わっていたはずだ。

 でも、彼女は僕の命を無碍に奪い取ることはしなかった。

 どうして? 何故?

 何故彼女は僕を殺さなかった。

 謎は深まるばかりで、僕はいつかまた彼女と出会える機会をうかがいつつも――どうやってコンタクトを取れば良いのか分からないまま、また時は流れていった。

 しかしながら、案外早く、彼女と出会えることになろうとは、今の僕は未だ知らない。



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