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幕間1 疑問

 次の日、研究室に行くと美蓮が居なかった。


「……彼女は?」

「聞いていなかったのか? 今朝の幕川先生のSHRで言ってたろ。行方不明になったから、探してるって。……何か知ってるのか?」

「知ってたらさっさと警察なり何なりに話をしてるよ」

「だろうな」


 そうして、扉に一番近い席に座っている大男――牧田はパソコンに目線を移す。

 今日は全員二時限目が休みらしく、この時間でも研究室に多く人は居た。ちなみに僕は四時限目が最初の授業だったので、別に午前中サボタージュをしても良かったのだけれど、そろそろ完成稿のネタが浮かび上がってきた頃合いだったので、それについては致し方ないことと言えるだろう。

 思えば、彼女はスマイリング・ヒューマンのネタを話していたと思う。

 そして、行方不明になった。

 それは、三年前と同じ。

 とどのつまり、美蓮は三年前――小野さんと同じように、スマイリング・ヒューマンに殺された。

 そして、それを知っているのは、今回も僕だけだ。

 僕がいったい何をしたというのだろうか? 誰か教えて欲しいくらいだ。はっきり言ってこんなことはあり得ない。あり得ないというか、考えたくないというか、いずれにせよその可能性は排除しておきたいレベルだ。


「……ま、人ひとり消えたところで、哀しいかな、意外と世界は回っていくんだよね」


 牧田はそう言いながらも、パソコンにぱちぱちと文字を打ち込んでいる。


「確かにそれもそうだけれど……だからといって、冷たくなりすぎじゃないか」

「でも実際そうだろ? 人がひとり居なくなったって誰も気にしない。そりゃあ親族とか、知り合いとかが行方不明になったら最初の数日は違和感を抱くかもしれないけれどさ。それも数日まで。年単位で過ぎていけばあっという間に忘れることはなくても、その人がいなくても動いていくシステムが構築されていくよ。そして気づくんだ。……ああ、人間って所詮社会の歯車に過ぎないんだな、って」

「ちょっと、怖いこと言わないでよ」


 牧田の隣に座る馬塚はそう言うと、スマートフォンを取り出した。


「何か、連絡あった?」


 合わせて牧田もスマートフォンを取り出す。僕も気になるのでスマートフォンを取り出した。特に通知音は鳴っていなかった気がするから、僕には関係の無いことのように思えるけれど。

 それにしてもスマートフォンは人間をだめにする機械だと、つくづく思う。

 だってこれさえあれば音楽だって聴けるしインターネットだって見られる。ゲームだって遊べるし(勿論、課金は適度に)、これといった欠点が見当たらない最高の機械だと思う。三年前にスマートフォンを持てなかった自分に、もし会える機会があるなら言ってやりたい。安心しろ、大学生になれば持てるようになるから、と。

 それはそれとして。

 結局、その日、美蓮は来なかった。

 とどのつまり、スマイリング・ヒューマンに殺されてしまったのだろう。

 スマイリング・ヒューマンは、言っていた。機関によって管理されている、と。

 人殺しを容認する『機関』とはいったい何者なのか。何のために行動し、管理をしているのか。はっきり言って疑問しか浮かんでこない。解決法を見いだすとしたら、それこそ、スマイリング・ヒューマンに直接質問するしかない。

 でも、スマイリング・ヒューマンに出会う機会が、次、いつ生まれるか?

 それを僕はずっと考えていた。

 スマイリング・ヒューマンは、殺しの時に僕の目の前に現れる――としたら、僕と出会うということは殺しを行う前後。ならば出来ることなら出会いたくない。そう思うのが普通のはずだ。

 しかし、僕は、そんな恐怖心よりも好奇心のほうが勝っていた。

 スマイリング・ヒューマンのことを知りたいという自分が、気がつけばそこにいたのだ。

 だから僕は、スマイリング・ヒューマンにいつ会えるか、気づけば遊園地に連れて行って貰える子供のようにわくわくし始めるのだ。勿論、誰にも見えないように。

 そして――その瞬間は、あまりにも早くやってきた。



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