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第十一話 理解

「おやおや、覚えていて貰って何よりだよ。ええと、名前は」

「言わなくて良い。僕はその名前を嫌っている、と言った覚えはないか?」

「忘れたつもりはないよ。まあ、別に私は良い名前だと思うけれどね。ひらがなの画数を足して素数になるあたりがまた素晴らしい」

「……それ、どの目線で言っているんだ?」

「名字と名前の画数が一しか差分がないところとか?」

「だからどの目線で言っているんだ、それは!」


 踵を返す。

 誰も居ない外の空間。暗くない、日差しが照らされた空間に彼女は立っていた。

 それはどちらかといえば真実を照らし出す鏡よりも、白飛びさせることで敢えて真実を隠しているようにも思えた。いずれにせよそれについては、未だ僕がわかり得るはずも無いことであることは間違いではない。結局の所、僕と彼女は立って、向かい合っていた。

 誰も居ない世界。二人だけの世界。二人しか居ない世界に、ふう、と一つ溜息の音がこぼれ落ちた。


「……本当に、本当に久しぶりだね。まさか本当に会えるとは思っていなかったけれど、たまには博士の言うことも聞いておくべきだったね」

「博士? お前はただ一人で行動しているだけじゃないのか?」


 その言葉に首を傾げる。


「一人? うーん、まあ、私はいつも一人だね。ただ今は『機関』と友好条約を締結しているだけ。ま、それを君に伝える必要は今のところないかな。君が、もう一度私に会いたいと思う気持ちが強まって、実際に会えることが出来ればまた教えてあげても良いけれど」

「別に今だっていいだろ? どうして教えてくれはしないんだ?」

「何でだろうね。気まぐれ、ってやつかな?」

「気まぐれ、って。……まあ、いいや。別にそれについて話す必要は無いし。ところで、もしかして君がいると言うことは、誰か殺すということなのか?」

「まあ、その通りだね。殺めておかなくてはならない人間がいる。だから私がここに居る。はっきり言って面倒だけれど、やらなくてはならない存在が居るのも確か。私は殺めたい奴は決めていないから、それについては『機関』が決めるか、私の存在が危ぶまれる時か、私の欲求が満たされない時か、そのどれかになるわけだけれど」

「……大体迷惑な存在だということは分かった。それで、」

「誰を殺めるのか、って? それについては残念ながら話すことは出来ないね」


 だったら。

 どうして彼女は僕の目の前に姿を見せたのか。

 わざと? それとも偶然? もし後者ならたちが悪いし運が悪い。僕の悪運の強さははっきり言ってひどいレベルだと思ってしまうぐらいだ。

 しかし、それを否定するように、スマイリング・ヒューマンは首を横に振った。


「残念ながら、君に会いに来たわけではない……と言いたいのだけれどね。会いに来たことは確かだよ。ターゲットの先に偶然君がいた、ということかな?」

「……、」


 やっぱり、後者じゃないか。

 ああ、神様。なんで僕だけこんな目に遭っているのですか。

 神を信じていないからですか。


「ま、それは別に良いんだよ。それに、君が神を信じていないこともなんとなく頷ける。ってか、私も神なんて居ないと思っているけれどね。機関はどうやら居ることにしたいらしいけれど」

「さっきから言っているけれど、機関っていったい何なんだ?」

「『機関』は『機関』だよ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの存在であるし、存在ではないかもしれない。問題としては、私以上の変わった奴らを収容している施設とでも言えば良いかな。都市伝説で、『確保・収容・保護』をスローガンに掲げている財団が居るだろ? それと同じ理屈さ。変わった人間、或いは人間からかけ離れた存在を管理し、神を殺す。それが機関の役割とは聞いたことがあるけれど。ま、私としてはあまり興味がないから、ふらふらと彷徨いているだけなのだけれど。一応保護はしてくれているから、時たま機関のターゲットを殺しておくんだけど」


 まるでアルバイトのような感覚で言う彼女は、はっきり言って変わっていた。

 変わっていた、で済まされるかどうかは微妙だけれど、しかし彼女にとってはそれは『変わっていた』で済まされてしまうのだろう。


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