第十話 再会
図書館で得られる情報と言えば、新聞ぐらいだった。はっきり言って新聞にはあまり良い情報は載っていなくて、僕はそれを考えると足労の無駄だと思い、深い溜息を吐くのだった。
「……まあ、想像通りだろうな」
恐らく、確実に彼女であることは間違いなかった。
三年前に、あの高専に居た、彼女。そして小野さんを殺害して、そのまま行方をくらましたあの彼女だ。
でも、だとすれば、どうして今になって再開することになったのだろう?
三年間沈黙を守っていたならば、ずっとその沈黙を守っていれば少なくとも過去の犯罪が見つかることなく、そのまま時効を迎えていたはずだ。にも関わらず、彼女は表舞台に帰ってきた。その理由がさっぱり分からない。というより、わかりあえるはずがないとでも言えば良いのだろうけれど。
所詮、彼女は殺人鬼。
所詮、僕は一般人。
思考を分かろうとしても、一般人の範疇からそれを理解できるなんて、敵わないことだ。
「まあ、わかり合えるはずもないけれど」
僕は図書館を出た。研究室のある場所までそう遠くない。けれど講義が始まったからか、外は静かだった。誰も歩いちゃいない。僕しか歩いていないというのも、何というか不気味だ。
慣れっこといえば慣れっこだけれど、この大学のオンとオフの切り替えの早さはすさまじいと思う。それに関しては、未だに追いつけていないところがあるし、なかなか難しいところがある。教授だって定時を回れば帰ってしまう人間が殆どだし、「放課後にやるくらいならさっさと帰れ。非効率的だ」と言ってしまう教授も居るらしい。人間は難しい。というか学生は単位を取りながら卒業研究をやらないといけないのだから、結果的に後者が放課後になることは自明だということも、教授達だって知っているはずなのに。
おかげで定時である五時半を回ると教授の部屋はガラガラだ。たまに定時過ぎに作業している教授もいるけれど、それでも五割は切っている。今は働き方改革で忙しいからな。でもそれって単純に働く量を上手く配分出来ていないだけのようなきがするけれど。
いずれにせよ、それもあるからか基本的に外に出てくる人はリフレッシュに来る人か、或いは講義の移動中か、或いは講義がないからさっさと帰る人間かのいずれかだ。
結果的に、働き方改革が進んでいるならばそれで良いのだけれど、学生たる僕たちには不安が残る。本当にこのまま進んでいけば良いのだけれど、絶対に前には進まない気がする。
オリンピックもあと僅かだっていうのにこの有様。……本当にオリンピックは開催できるのか、という風潮すら漂いつつある。はっきり言ってもう少し仕事が減れば働きやすくなるのだろうに、と僕は思うけれど結局ただの社会の歯車の準備中である僕にとって、何を言ったところで何も変わらないのだ。選挙権はあるけれど、国会議員は結局老人層に票を多く集めれば良いと思っているあたり、この国は腐りきっている気がするけれど。
「……おっと、そのようなことを考えている暇はなかった」
食事中に考えていた卒論の完成稿を忘れないうちに書き始めないと、次はいつそれが生まれるか分かった物ではない。だから僕は駆け出した。急いでそいつを形にするために。急いでそいつをパソコンのキーボードで叩くために。
「お久しぶり。××××」
声が聞こえた。
まるで冷凍庫の中に入ってしまったかのような、凍えた声だった。
そしてその声を、僕は聞いたことがある。
だから僕は唾を飲み込んでから、こう答えた。
「……久しぶり、とでも言えば良いのかな。スマイリング・ヒューマン。……何のために、ここにやってきた?」




