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第九話 再開



 久しぶりだね。私との再会を快哉しようじゃないか。



 ◇◇◇



 あれから何年経過したのだろう。何というか色々と面倒臭いことは起きたようなこともあった気がするけど、そんなことはあのスマイリング・ヒューマンの出来事と合わせると何だかどうでも良いことに思えてしまう。世界って素晴らしい! いや、この場合は人間の価値観の決めつけぶりが凄まじいのか?

 そんなこんなで僕は普通に大学へ編入(高専の場合、編入したら大学三年次からの開始となる。とどのつまりが単位が足りなくてどっきりどっきりどんどんなのだ。不思議な力が湧いてきてほしいくらいだ)すると、あれよあれよとあっという間に単位を取得出来た。気が付けば卒業研究も佳境となり(まあ、大体『落とす』先生はよっぽど出てこない)、自堕落とした大学生活を送っていたのだった。

 否、確かに送っていた。

 九月のある日、そろそろ論文の完成稿を書き始めようと思った矢先の出来事。


「……それでさ、都市伝説! 聞いたことあるでしょ」

「まあ、多少はね」


 研究室の仲間でいつも通り食事を取っていた、いつもの日常。

 この平和がいつまでも続けば良いのに、と願うのは、逆に直ぐに平和が終わりを迎える『フラグ』と言って良いだろう。


「何だかね、噂なんだけどね。大量殺人鬼の噂! 聞いたことないかな」


 どくり、と僕の心臓が飛び跳ねた。

「何だか週刊誌にも新聞にもネットニュースにも載っているんだよね。『今、東京を震撼させる殺人鬼現る! その名も――』」

微笑む人スマイリング・ヒューマン――」


 気づけば、僕はその言葉を口にしていた。いつからその言葉を思っていたのか、或いは衝動的に発していたのか、或いはそのいずれも違うのか。それは分からない。けれども、僕の口からその言葉が出てきたのは間違いない。

 スマイリング・ヒューマン。

 少し昔、或いはとても昔の出来事のようにも思えた。あのスマイリング・ヒューマンの犯した罪を、そして僕がそのまま犯した罪を、忘れるわけにはいかなかった。

 忘れたかった、という思いがあったかもしれない。

 忘れなくてはならない、という思いがあったかもしれない。

 いずれにせよ、その思いは僕の中で消化不良を起こしながらも、ずっと引き続いて僕の記憶の中に刻まれていたのだけれど。


「……そうそう。良く知ってるじゃない。世相については疎いのかと思ってたよ」

「……馬鹿にしないでくれ。流石にそれくらいは知ってるよ。で? それがどうかしたの」

「いや、それを知ってるかな、と思って聞いただけなんだけれど。何だかロマンを感じない?」

「はあ? あんた、どこにロマンを感じるの? 美蓮って相変わらず変わってるよね」

「着眼点が人と違うと言って欲しいかな、そこは!」

「まあ、それはそれとして……。別にこのあたりで見つかった訳でもないだろ?」


 少し心臓が高鳴る。

 もし、スマイリング・ヒューマンが居るというのなら――恐らくターゲットは僕だ。

 だって僕は彼女の顔を見て生存している唯一の存在。消してしまいたくて仕方が無いはずだ。まあ、もし消すとするならあのとき消してしまった方が一番良かったと思うのだけれど。

 でも、今思えば――なぜ彼女はあのタイミングで僕を殺さなかった?

 殺すならあのタイミングが一番だったはずだ。なのに、彼女は僕を逃がした。僕が警察に証言する可能性だって十分にあり得たはずなのに。まあ、実際にはそれをしなかったから未だに彼女は殺戮を繰り広げているのだろうけれど。


「どうかしたの?」

「……うん?」


 僕は美蓮――研究室の仲間の一人――に声をかけられ、我に返った。


「ああ、いやちょっと、考え事をしていただけだ。……次の課題の提出期限までいつぐらいだったかな、ということとか」

「それって、明後日の物理の課題のこと?」

「うん、それそれ」

「それは確か――」


 こうして、話は再びいつもの話題に戻っていく。

 それが当たり前。処世術の一つ。世間を渡り渡って行くにはこんなことも憶えておかなくてはならないし、覚えておく必要があった。

 そして僕はそれを覚えることが出来たし、こうやって活用することが出来ている、というわけだ。


(それにしても……)


 スマイリング・ヒューマン。

 まさかまた彼女の名前を耳にする機会が、しかも学校の中で訪れるとは思ってもみなかった。

 何か調べて対策を練っておかなくてはならない。そう思って僕は早々に食事を終えて、図書館へと足を運ぶのだった。



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