1話 私服
1話 「私服」
突然アリアちゃんが電話をかけてきた。
「ヒロインになれ?」
『はい!夏休みが終わって少し経ったら文化祭があるじゃないですか。桃さんのクラスは劇をやるんですよね?』
「そうだけどなんで知ってるの?」
『桃さんのクラスメイトから桃さんをヒロインにしてほしいってたのまれたんですよ〜。』
「だから何でアリアちゃんが頼まれてるのよ。」
『顔が広いんですよ!ヒロインじゃないですけど!』
「ダジャレ……流行ってるの?」
『では!よろしくお願いしますね!』
「え、あっ、ちょっと……!」
電話は切れてしまった。
夏休みも気づけば半分が過ぎていた。この公園は相変わらず人がいない。
「ちょっとぐらい動こうかな……でも暑いし……うーん……。」
やっぱり動こう。運動することは大切だ。
そう思って大会でもなんでもないのに手を地につけてスタートの構えをして顔を1回伏せて再び上げるとゴミを見たような目をした少女がいた。
「頭がおかしくなったのか……うん。110番」
「待って待って!せめてそこは119番にして!じゃなくて……走ろうとしてただけだから!」
「見れば分かるわ。」
少女は持っていた袋から何やらアイスクリームらしきものを取り出した。
私が走るのを諦めてよだれを垂らしているのを見たのか少女は背を向けた。
「これが欲しいの?」
ごくりと唾を飲む。
「条件があるけどいい?」
私はひたすら頷いた。
「その私服ちょうだい。」