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第九話   クレイリーファラーズ

二人は戸惑いの表情を浮かべながら、館を後にしていく。ティーエンなどは、困ったらいつでも我が家にお越しください、裏の門を抜けて道を真っすぐですから……などと丁寧に自分の家を説明してくれたのだ。何と優しい人なのだろう。


二人の足音が遠ざかっていく。そして、しばらくして俺は、誰に言うともなく、口を開く。


「追い返しましたよ。これでいいのですか?」


「……もう、遅いですね。男のくせにペチャクチャと喋りすぎなのですよ」


「いや、あなたも相当よく喋っていましたよ。うるさくって途中何回も喋る言葉が飛びそうになりましたよ」


「まったくもう……」


そんな言葉と共に、俺の背後から女性が現れた。金髪で目つきの悪いこの女性。やはり、天界で会ったクレイリーファラーズだ。


この屋敷に入った瞬間に、頭の中に女性の声が聞こえてきて、俺はビクッとなった。思わず「何だ!?」と声を上げてしまったくらいだ。だが、その直後、声の主はクレイリーファラーズだと名乗り、天界からの使いだと自分のことを説明したのだ。


そして、村長の話を聞きながら彼女の声を聞くという厄介な時間を、しばらくの間過ごしていたのだ。


彼女は、最初から村長とティーエンを早く帰らせろとうるさかった。俺としても、何回同じ話しとるんじゃ、ボケ。などと思っていたが、そうした言葉はどうやら彼女には伝わらないらしい。早く帰らせろ、邪魔だの一点張りだった。


俺に動きがないのに業を煮やしたのか、自分の話が伝わっているのかどうかが不安だったのか、彼女は、この二人を帰らせろと言う理由を説明し始めた。ちゃんとお金もあるし、食糧もある。一人で生きていくのに問題はない。ついてはその説明をしたい。そのためには、この二人は邪魔だ。説明するならばちゃんと姿を見せて説明したい。天界人の自分が姿を見せると、色々ややこしい……。といった話をダラダラとしていたのだった。


村長の話を聞いていると、何となくこの人は俺の存在を迷惑……とまでは思わないまでも、できるだけ関わりたくないのだろうなと考えていることは伝わってきたし、さらに言うと、なるべくこの村の住人を巻き込みたくはないという意思も伝わってきていた。俺としても、なるべく多くの人とかかわりのない生活が理想だったのだ。そういう意味で、このクレイリーファラーズの「一人で生きていくために説明をする」という言葉は、俺の心を捉えて離さなかったのだ。


そして今、ようやく二人の姿がこの屋敷から消えた。クレイリーファラーズも姿を現してくれた。俺は期待半分、不安半分というなんとも複雑な感情を抱きつつ、彼女の話に耳を傾ける。


「ええと、まずはこのお屋敷だけれども、ほぼ毎日、この村の人が手入れをしてくれているので、基本的にはきれいに管理されています。トイレはその奥。ダイニングの隅の床をよく見ると、取っ手のようなものが付いているのがわかりますか? そこを引き抜くようにして持ち上げると、階段が出てきます。この屋敷の地下が貯蔵庫になっているのですよ。あ、とは言っても、今は貯蔵庫には何もありません。それで……」


彼女は、ハアと面倒くさそうにため息をつきながら、頭を振っている。どうやら説明することが多すぎて、気疲れしてしまっているようだ。


「よくこの屋敷のことを知っていますね」


「当り前ですよ。だって昨日からずっと待っていたのですから」


「へ?」


「ジジイがいきなり私を下界に下ろしたのよ! あのジジイ、自分のミスがバレないように、あなたを下界に送った後、私も下界に下ろしたのよ! ひどくないですか? ひどいですよね!?」


……目が完全に据わっている。怖い。彼女は俺に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ブツブツと何かを呟いている。そして、再びハアとため息をついて、力なく首を左右に振った。


「あの……もしかして、俺に色々と説明をするためだけに、昨日から待っていたんですか?」


「てっきりすぐに来ると思うじゃないですか! 何で一日遅れたわけ? 説明してくださいな」


俺は恐る恐る昨日のことを説明する。目が覚めたら、ティーエンの奥さんであるルカがいて、その後、夫婦二人で俺を心配してくれたこと。朝飯を作って出してくれたこと……。そんなことをポツポツと話していく。朝、野外で真剣勝負をしたことはさすがに内緒にしておいた。


彼女は俺の話を怖い顔を崩すことなく聞いていたが、やがて、恐ろしく低い声で、呟くようにして口を開いた。


「朝、食事をしたのですね?」


「はい……。パンとシチューみたいなものでしたが……。あんまり美味しいとは思いませんでしたが、不味かったですか?」


「マズいに決まっているでしょ!」


ものすごい剣幕で怒鳴られて、俺はビクっとなる。彼女はジトっとした目を吊り上げたまま、俺の側にずいっと顔を近づけてきた。


「私は、昨日からなーんにも食べていないのに、どうしてあなただけそんなに手厚いもてなしを受けているんですか! パンにシチュー? 十分でしょ! 何を言っているんですか!」


ええっ!? 怒っているポイント、そこですか!?

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