第八十三話 焼き鳥パーティー
俺は慌ててハウオウルの許に相談に行こうとする。だがそのとき、クレイリーファラーズが屋敷に帰ってきた。
「どうしたのです?」
「……ちょうどいいところに帰ってきた。ちょっとお願いがあります」
「え?」
「……今、面倒くせぇって思ったでしょ?」
「……心を読まないでください」
そんなやり取りをしながら俺は彼女に、鳥たちを使役して隣町との境を偵察してくるようにお願いをする。彼女はため息をつきながらハトを呼び、空に放つ。
「鳥たちが帰ってくるまで時間があります。それまでオヤツにしましょう」
「今はお昼時ですが?」
「何か問題でも?」
「今、お昼を食べているので、オヤツは作りません。どうしてもと言うのならば、ご自分でお作り下さい?」
「お昼?」
彼女は無言で屋敷に入っていく。そしてその直後、屋敷の中から絶叫が響き渡った。
「何よこれ!」
俺が屋敷に入ると、クレイリーファラーズが串カツを刺していた細い木を握り締めながら震えていた。
「どうして私に食べさせないのですか! 串カツ……食べたいです! 今すぐ私の分を作って下さい!」
あまりの剣幕にラブラとリリスは目を白黒させていたが、やがて、この日のために用意した材料は全て使いきってしまったと申し訳なさそうに伝える。彼女は一瞬体を震わせたが、やがてクルリと踵を返して、俺に視線を向けた。
「今夜は串カツでッ!」
「……それ、かわいく言っているつもりですか? いや、材料がないのと、個人的に昼と同じメニューというのも何だかねぇ」
「じゃあ、偵察にやったハトを解散させますよ?」
「ほう、なかなか交渉上手になったじゃないか」
クレイリーファラーズは腰に手を当ててフフンと鼻で笑う。俺は隣のレークに視線を移し、ゆっくりと口を開いた。
「レーク、すまないが、預けてある手紙をギルドに持って行ってくれ」
「畏まりました! あて先はご本家でいいですね?」
「ああ、それでクエストを出してくれ」
「……ちょっと、何の話ですか?」
「いや、こちらの話です。お気になさらないでください」
「……わかりました。わかりましたから。串カツは諦めます」
クレイリーファラーズは明らかに落ち込んでいる様子を見せた。それを見た俺は、レークに再び声をかける。
「レーク、さっきの話はなしだ」
「はい。畏まりました」
「ラブラさん、リリスさん、今夜の夕食もこの屋敷で食べてください。そして、レークもだ」
キョトンとする三人に、俺はさらに言葉を続ける。
「まだ焼き鳥を食べていませんよね? 今夜は焼き鳥を作ろうと思います。せっかくですから、ドニスとクーペも呼びましょうか。そしてレーク、お前の家族も連れておいで」
「え? いいんですか?」
「たくさんの人たちと一緒に食べた方が美味しいだろう?」
「はい!」
「きゅー」
ワオンも前足を高く上げてバンザイをした状態で喜んでいる。
「よし、せっかくだから、ヴィヴィトさんやティーエンさん、ハウオウル先生も呼ぶことにしようか」
「じゃあ私、皆さんのお家にそのことを伝えに行ってきます」
「ああ、よろしく頼む」
レークはペコリとお辞儀をして、屋敷を出ていった。その様子を見た俺は、再びクレイリーファラーズに向き直る。
「これで、どうです?」
「まあ、それで手を打ちましょう」
「と、いうことで、鶏肉をお願いできますか?」
「……」
彼女は無表情のまま屋敷を出ていった。しばらくすると外で口笛が鳴り響き、そして、鳥の鳴き声が聞こえたかと思うとすぐにそれが絶叫に変わった。そんなことが繰り返されていたが、やがて外は静かになった。
「もうすぐクレイリーファラーズさんが鶏肉を持ってきます。焼き鳥は、その肉を串に刺していきます。そうですね……ラブラさんは、ネギを刻んでいただけますか? 大きさは教えます。リリスさんは俺と一緒に串の準備をしましょうか。あ、ラブラさんはネギが刻み終わったら、炭の準備をお願いしてもいいですか?」
二人は承知しましたと言って、すぐさま準備にかかる。俺は外の様子を見るために、勝手口の扉を開けた。そこには無表情のまま締めた鳥の羽を毟り、血抜きをするクレイリーファラーズの姿があった。
「ヤッキトゥリィィィ~~♪ヤッキトゥリィィィ~♪ヤキヤキヤッキトリィィィ~~♪」
……何かの悪魔を召喚しているのかと思わせるような不気味さだ。あまりの気色悪さに俺はゆっくりと扉を閉めた。
結局、クレイリーファラーズは百羽近い鳥肉を手に入れていた。森の鳥の一部が絶滅しないか心配だったが、デルレイドと呼ばれるこの鳥たちは繁殖力が強いために、この程度の数が減っても問題ないと教えてくれた。
早速俺たちは準備に入り、日が暮れる頃には大量の焼き鳥を準備することができた。その種類も豊富で、モモ、皮、レバー、ハツなど、焼き鳥屋で見られる定番メニューが出来上がった。ちょうどそのタイミングで皆が揃い、焼き鳥パーティが始まった。
レークの両親は恐縮しきりだったが、彼らは思った以上に働き者で、昼食に出した串カツに使う自然薯は、この夫婦が掘り出してくれたものだった。元々山の中で暮らしていたこともあって、自然薯やタケノコを掘ることはよくあったそうで、山菜にも詳しい。今後はそうした方面のことを任せようと思っているのだ。
そんな話しをしながら、宴もたけなわに差し掛かるころ、クレイリーファラーズが放ったハトたちが戻ってきた。そして、俺たちに伝えられたのは、驚愕の内容だった。




