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第七十五話 み~た~な~

「ううううう……」


クレイリーファラーズは目をギュッと閉じたまま唸っている。その様子を公爵と兄は淡々とした表情で眺めている。


いや、勘違いしないで欲しいのは、これには深い理由があるのだ。こうせざるを得なかったのだ。


勅使が来ると知ったクレイリーファラーズは、手を叩いて喜んでいた。豪華な料理をたくさん作りましょう。あれも作りましょう、これも作りましょうと自分の食べたいものを勝手にしゃべっていたのだ。


そんな彼女を無視する形で俺はハウオウルを呼びに行き、ドニスやクーペたちも一緒に連れて帰ってきた。そして、ハウオウルの指示に従い、大急ぎで料理作りに入ったのだ。その間、クレイリーファラーズは手伝うわけでもなく、ひたすら料理を作る俺たちや掃除をするヴィヴィトさんたちの後ろに行って、その様子を眺めるだけだったのだ。


百歩譲ってそこまでは許せる。だが信じられないことにこの天巫女は、作り上げた料理を片っ端から食いやがったのだ。味見をすると言いながら。


猫の手も借りたいときに、次から次へと料理を平らげていき、挙句の果てにやれ味を濃くしろだの、肉を多めに入れろなどと言ってくる。そして最後に言い放った言葉に、そこにいる全員がキレたのだ。


「お酒はないのですか? ない? 今からすぐ、買ってきてください」


俺はクレイリーファラーズ以外の全員に視線を向ける。皆、魚が死んだような目をしている。俺は小さく頷くと、問答無用で彼女を寝室に引きずっていった。そして、皆がタイミングよく差し出す縄や布で、この天巫女をがんじがらめに縛りあげた。どうやら俺の縛り方は甘いらしく、最後の仕上げはハウオウルがやってくれた。そして、何やら魔法を唱えると、それまでギャーギャーとうるさかったこの天巫女が、途端に大人しくなった。どうやら声が出ない魔法をかけたらしい。


一仕事終えた俺たちは、無言のまま全員でハイタッチをして元の作業の戻ったのだ。


クレイリーファラーズは、勅使が帰った後に解放して、キツイお仕置きをするかしないかはそのときの様子を見て決めることにして、まずは自由の身にすることにしていたのだ。それが、まさかこんな形でバレるとは思ってもみなかった。


「ふうむ」


俺の焦りをよそに、公爵は顎に手を当てて考える素振りを見せている。そして、一切表情を変えずにゆっくりとクレイリーファラーズの許に行き、まじまじとその様子を眺めた。


「ぐっ……ぐっ……」


「ふーん」


無表情のまま頷いたかと思うと、公爵は何のためらいもなくクレイリーファラーズの胸を鷲づかみにした。


「ふぐぐっ! ふぐぐぐぐっ!」


「うーん」


そして公爵はそのまま手で彼女の体をペタペタと触りだした。さらには、ゴロンとクレイリーファラーズの体をひっくり返したかと思うと、今度は尻を鷲づかみにし、さらには彼女のスカートをペロンとまくり上げた。


「白か。まあ、まあ、よく拵えてはいるが……。うーん。ま、この田舎の村では、このくらいの餅菓子が精いっぱいなのじゃろうな」


そう言って彼は踵を返して部屋から出てきた。クレイリーファラーズはパンツ丸出しの姿で小刻みに震えている。


「お、あれは……かた餅じゃな?」


公爵の指さす方向を見ると、そこにはレークの姿があった。俺たちは公爵の言っている意味が分からず、ただ固まるしかなかった。だが彼は、そんな俺たちの様子に構うことなく、淡々と言葉を続ける。


「じゃが、あれは猫じゃな。あれでは……いかん。惜しいな」


そう言って公爵はふぅ~と息を吐いていたが、やがて俺の顔をじっと見据えたかと思うと、姿勢をスッと正しながら口を開いた。


「大儀であった!」


……何が? 呆気にとられる俺の隣で、兄とハウオウルが苦笑いを浮かべている。そこに、兵士の一人が足早にやって来て、公爵に敬礼をする。


「申し上げます。ただいま、荷積みが終わりました」


「ふん、そうか、ご苦労であった。そう言えば……確か、兵たちにもなにかあると言っておったか?」


公爵が俺に視線を向けながら話を振ってくる。


「ええ、お伴の方々にも、食事を用意しておりますじゃ。いかがですかの?」


ハウオウルが代わって答えてくれた。その言葉を聞いて兵士は俺たちに向かってとてもきれいな敬礼を行った。


「誠にありがたい限りであります。ありがたく、頂戴いたします」


「さて、兵たちの食事は……?」


公爵が屋敷の中を見廻している。俺は後ろに控えていたレークたちに視線を向けて、小さく頷く。それを合図にして、皆がドヤドヤと二階に上がり、部屋の中から大皿に盛りつけた料理を運び出してきた。


「おお……このように大量な料理を……感謝いたします!」


そう言って彼は、人を呼んできますと言って屋敷を出ていき、すぐに6名の兵士を伴って帰ってきた。


「あまり種類はありませんが、お口に合えば幸いです」


「はっ! ご領主様から過分なものを頂戴しまして、部隊長のハンリ・エーク、心より御礼を申し上げます。……では」


彼は丁寧に俺に礼を言い、すぐに兵士たちに命じて大皿を運んでいった。その直後、屋敷の外から兵士たちの歓声が上がった。


「皆、喜んでおるようじゃの」


「兵たちもここ数日、あまり食事を摂っていませんでしたから……。これだけの大量の料理は、彼らにとって何よりだと思います」


兄のシーズが淡々と口を開いている。あまり詳しくはわからないが、兵士たちが食えていないという状況はどうなのだろうと思ってしまう。俺の知識では、国が飢えても兵士たちの食料は確保されているものだと思っていたのだが、兵士たちまでも食えていないとなると、この国の食糧事情は相当に悪いのではないか。そんなことを考えてしまう。


俺がそんなことを考えていると、先程持っていった大皿が次から次へと戻ってきた。そして、ものの10分も経たないうちに、大皿に盛りつけた料理はきれいになくなって戻ってきたのだった。


「……凄まじい速さですね」


思わず呟いた俺の言葉に、兄のシーズが苦笑いを浮かべる。彼は公爵に向き直り、恭しく一礼をする。


「フォーマット様、この村での食糧の回収は終わりました。これよりは、この食料を速やかに王都に運ぶことが肝要かと思います」


「うむ、そうじゃな。それでは我らはこれにて帰還することにする。皆の者、大儀であった!」


ようやくこの面倒くさいイベントから解放される……。俺はゆっくりと息を吐く。だが、そのとき、兄のシーズから衝撃的な言葉が放たれた。


「フォーマット様は先に王都にお戻りください。私はもうしばらく、この屋敷に逗留いたします。久しぶりの弟との再会……積もる話もございますので」


「うむ、苦しゅうない。苦しゅうないぞよ」


まさかの延長戦ですか? 苦しゅうないって、俺は十分に苦しいのですが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公自身も無意識で公爵のために女を縛って用意したクズになってるわけかな?
[一言] なんでこの小説には『コメディー』タグが付いていないのだろう?
[一言] 一年分の食料を獲得したから、もう食料を徴収しに来ることはないと思うけど、また来るとしたら兵隊を多く連れてきて、根こそぎ持っていこうとするでしょう。しっかり、対策を考えていて欲しい。
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