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第七十三話 お食事会①

二人の側に近づくと、兄は公爵に何やら話をしている。公爵の表情を見る限り、あまりいい話ではなさそうだ。そんな様子だったが、俺はお構いなしに二人に話しかける。


「食料を運び出すまでに時間がかかるでしょうから、どうでしょう? お食事でも?」


二人は顔を見合わせていたが、やがて兄がニコリと笑う。この人、全然目が笑っていない。不気味だ。


「それはいいね。是非、お願いしようか。……フォーマット様」


兄に促されるような形で、公爵が頷く。俺は倉庫の階段を上って、二人を屋敷内に案内する。中に入るとすでにダイニングのテーブルには、先程必死で作った料理が所狭しと並べられていた。おそらくハウオウルが指示したのだろう。そして、部屋の隅にはヴィヴィトさん夫婦をはじめとした、7名の男女が控えていた。


「さ、どうぞ。お口に合いますか……」


「いや、ノスヤ。十分だ。よくこれだけの料理が用意できたね。素晴らしい」


「ホッホッホ。まあ、田舎料理で上品さはないが、そこはお許しくだされ。また、お伴の方々にも食事を用意しております。また、お手が空きましたら、皆でお食べくだされ」


「これは……行き届いた配慮、感謝いたします。では、公爵様……」


「うむ。ううむ」


公爵は満足そうな表情を浮かべながら席に着く。そして、兄のシーズも席に着き、それを見届けてから、俺とハウオウルも席に着いた。


二人は見事な作法で出された料理を次から次へと平らげていった。どうやら本当にお腹がすいていたようだ。


「ノスヤ、これは……何という料理かな?」


「から揚げです」


「からあげ?」


「鶏肉を油で揚げたものです」


「揚げる……とは?」


「熱した油の中に入れて火を通すのです」


「ふぅん。この村では、そんな料理を作るんだね」


「ホッホッホ、これはご領主がお考えになったメニューですじゃ」


「え? ノスヤが?」


ガチで驚いている。一体、元々のノスヤ君はどんな男だったのだろうか。そんなことを考えていると、兄が呆気に取られて固まっている。何とかフォローを入れなければ。


「あっ、いっ、いや、その、たまたま、熱した油の中に、鶏肉を落としまして……で、勿体ないから……食べました……」


「え?」


兄の目がさらに見開かれる。ヤバイことを言ってしまったか? 彼は驚いた表情のまま屋敷の中を見廻す。


「そういえば、ビゼーはどうしたんだい? 乳母のマルキスもいないようだ……。一緒に行ったデイズやウエイスたちはどうしたんだい?」


「あ、う、え……」


「皆、盗賊に襲われましたのじゃ」


ハウオウルが絶妙なタイミングでフォローを入れてくれる。助かった。


「盗賊?」


「はい。ノスヤ様は、この村のすぐ近くの森の中で倒れておったそうですじゃ。……そう、お二方が通られたあの森の中ですじゃ。村人がお姿を見つけて村までお連れして介抱して差し上げましたところ、ノスヤ様は意識を取り戻されましたが、あいにく、供の方々の姿は……」


「なぜ父上に報告しなかったんだ!?」


「う……それは……」


「お察しくだされ、シーズ様。ノスヤ様は右も左もわからぬこの村で、お一人になられましたのじゃ。ご本家に助けを求める前に、まずはご自分の身の回りを整えねばなりませんでしたのじゃ」


「なるほど……確かにそうだ。だが、村長のクレドからそのような報告があったと父上からは聞いていないが……」


「そうでしょうな。本家から何の使者も来ず、ましてや村長のクレド殿が、ご領主の傍で陰になり日向になりお仕えするといった様子も見えんかったので、もしやと思っていたのじゃ。いや、もしかすると、ご本家には報告があり、ご本家なりに何かお考えがあってのことかもしれぬがの」


「いや、父上に限ってそれはない。そうか……知らなかったよ。ずいぶんと苦労をしたんだね、ノスヤ?」


俺は返す言葉が見つからず、無言で頭を下げる。


「おおっ! これはタンラの実! ソメスの実もあるではないか!」


突然喜びの声が上がる。見ると公爵がタンラの実を睨みながら、ものすごい笑顔を浮かべている。


「ええ、この村で獲れましたものですじゃ」


「何? タンラの実が? ソメスの実はわからぬではないが、タンラの木は温暖な場所に生えているはず。なぜこの寒村にタンラの実がある?」


「この屋敷の裏庭にタンラの木が生えておりますのじゃ。……ええ。この屋敷に来るときにご覧になられたじゃろう? あの黒い巨木じゃ」


「タンラの木は黒いが、細い幹であると聞いたぞ?」


「その通りですじゃ。じゃが、ここではあのような巨木なのですじゃ。儂はあれは神の思し召し……つまり、神木であると思っておりますのじゃ」


「なっ……神木?」


「そう、思うことにしておりますのじゃ」


「ご老人、ということは、この村ではタンラの実が多く獲れるというのですか?」


兄は俺とハウオウルを見比べながら口を開いている。俺はただ体を硬くしてその視線に堪えるしかない。だが、その雰囲気を察したハウオウルはさらに言葉を続ける。


「いや、儂も大量に獲れるであろうと思っておったが、タンラの実も、ソメスの実も、収穫できたのは10個少々ですじゃ」


「10個少々?」


「我らの神への信心が足りぬのか、はたまた、本来は温暖な気候で成長するはずの木が、この寒村に生えてしまったことで実が成りにくくなっておるのか……我らも、よくわからんのですじゃ」


「おお! 美味い! これぞタンラの実! 美味じゃ! 美味じゃ! ソメスの実もよい! 儂は満足じゃ。大いに満足じゃ!」


兄とハウオウルの話などどこ吹く風と、公爵が再び一人で喜びの声を上げた。その光景に兄は苦笑いを浮かべていた……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 元ひきこもりとはいえ転生してから2~3年も経ち多くの村民とも日々接しているにもかかわらず、ここまでのコミュ障はさすがに酷過ぎだろ [一言] 主人公はお人好しで善人なんだがクレイリーファ…
[気になる点] 村を取り上げる動きが出るだろうな
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