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第六十六話 プレゼン

「レークを? 一体この子をどうするつもりです?」


俺はちょっと声のトーンを落として話す。何だかイラッとする。だが、ここでキレてはいけない。俺の本能がそう告げている。俺は必死で怒りを押し殺そうとする。そんな中、俺には興味がないと言わんばかりに、ベイガはフフンと笑みを浮かべながら口を開く。


「決まっているだろう。そいつは村長の奴隷、持ち物だ。報酬の代わりに頂戴するのさ。まあ、ガキだから高くは売れねぇだろうが、それでも……」


「却下します」


「何をっ!?」


「確かに、このレークは村長の奴隷です。ええ、あなたの言う通り、この子は村長の持ち物です。ですが、村長は納めるべき税を納めていません。よってこの子は、その税の代わりとして私の許に置くことにしました。……何か文句あります?」


「ふざけるな!」


突然ベイガの声が響き渡る。屋敷の中がまるで水を打ったようにシーンとなる。


「俺たちはどうすりゃいいんだ! 酒を造る材料がないんだぞ! どうやって食っていけと言うんだ! それとも何か? 税を収められない俺たちから家財道具一式すべてを取り上げて、女房子供は奴隷にたたき売って、裸で放り出すか? アンタぁ村長に借金があったやつらの金を立て替えただろう! そいつらには金を出して、俺たちに何もしないってのは……」


「いい加減にしろ、ベイガ!」


ティーエンが険しい顔をして口を開いている。その迫力に、再び屋敷がシーンとなる。


「そもそもお前は、領主様に対して何もしていないだろう? 収穫を手伝うわけでなし、農地を耕すわけでもない。それどころか、村長と結託して怪しげな酒を造って売っているだろう? 皆、村長の目を気にして何も言わなかったが、あれは酒ではないだろう? そもそもお前は酒を造る許しを誰から得たのだ?」


ベイガの顔が赤黒く変色している。不気味だ。俺は足が震えているが、それを必死で隠しながら、努めて冷静を保ちながら彼に話しかける。


「別に俺は、税が納められないというあなたたちから、無理やり税を取ろうとは思いません。俺は悪代官じゃないですから。ただ、今のあなたの状況はよくないと思います。あなたのお店のお酒は飲んだことはありませんが、ギルドをはじめ、この村の人々の間では、あなたの店の酒は飲むなと言われています。知っていますよね? 別に俺はそれを咎める気もありません。ただ、せっかくお酒を造るのですから、美味しいお酒を造って欲しいのです。あなたが、美味しいお酒を造ってくれるのであれば、今年の税は免除したいと思います。食料が足りなければ、助けましょう。そして、ジャガイモ……来年できれば、の話ですが、それも相談に乗ります」


「ほ……本当か?」


ベイガの後ろに控えていた男が思わず声を上げる。俺はゆっくりと頷く。


「無理だな」


ベイガは一切表情を変えずに言い切った。彼は俺たちを見廻しながら、さらに言葉を続ける。


「美味い酒を造れ? 貴族様は何にもわかっちゃいねぇな。酒を造るのに、どれだけの手間暇がかかると思っているんだ? それに、設備も必要だ。そんな金はどこから出るんだ? アンタが出してくれるのか? こんな小さな村の貧乏領主がそんなことができるものか!」


「そのつもりです」


「何?」


「設備にどのくらいのお金がかかるのかはわかりませんが、出せれば出したいと思っています」


「アンタは……正気か?」


「正気も何も、この村で美味しいお酒ができれば、それを売ることができます。それが売れれば儲かります。そうすれば、設備も大きくなりますし、多くの人がそこで働くことができます。多くの人が集まれば、この村も大きくなります。ただ、そのためには、きちんとした製法で、安全でおいしいお酒を造ることが必須です。いいお酒ができれば、料理にも使えますしね。いいことずくめだと思うのですが、いかがですか?」


「それは……いいな」


ベイガに付いて来たもう一人の男が思わず呟いている。そして、先程の男と二人、顔を見合わせて頷いている。その様子を見ながら俺は、さらに言葉を続ける。


「まあ、俺の話はいきなりなので、すぐに答えは出ないかと思います。今夜一晩、考えてください。それがイヤというのであれば、別に俺は、無理強いはしません。あ、それから、村長の許で働いていた方々で、今年の税が納められない方は、俺のところまで申告するように言ってもらえませんか? 申告さえしてくれれば、今年の税は免除します」


ベイガはしばらく俺を睨みつけていたが、やがて踵を返して屋敷を後にしていった。二人の男はピョコピョコと頭を下げながら彼の後に付いて行った。俺は大きなため息をつきながら、ティーエンたちを見廻す。


「さ、食べましょう。すっかり冷めてしまいましたね」


「あ、では、私が温め直しましょう。お台所をお借りしますね」


ルカがいそいそと立ち上がり、それにつられて、ヴィヴィトさんの奥さんも立ち上がる。レークも立ち上がろうとしたが、二人のおばさまたちに止められ、無理やり座らされていた。


その後、俺たちは温め直された料理を食べたが、何だかあまり、美味しさを感じることはできなかった。


クレイリーファラーズが俺のベッドを占拠しているため、レークの寝る場所がない。ヴィヴィトさんの家にベッドが余っているというので、今夜はそこでお世話になることにした。


皆が帰った後、俺はクレイリーファラーズが寝ていたハンモックに横たわる。そこにはワオンも一緒だ。


「……意外といいな、このハンモック」


「んきゅ」


「ワオンも気に入ったか?」


彼女は俺の話を聞きながら大きなあくびをしている。この日は色々あったこともあり、俺は早々に寝ることにして、屋敷のライトを落とした。そして次の日の朝、俺はクレイリーファラーズのことが気になり、ゆっくりと寝室の扉を開けてみた。そこには未だ、昏々と眠る彼女の姿があった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話で「嫌いになりそうだ」と感想を書いた主人公の事 今話で無事、嫌いになりました どうもありがとうございました [一言] それでもこのまま本作を読み続けようと思う ここで切るには惜しい…
[気になる点] 犯罪者丸出しな奴に酒造りやらせるとか頭可笑しい 一々ビビるの止めて欲しい鬱陶しくてイライラする
[一言] なんか八方美人すぎるね密造酒を闇で捌いてた犯罪者グループでしょ酒造の許可なんか新規に取れるはずもないし(酒の販売権でも結構お金かかるよ)。 そもそも蒸留しない芋酒とか旨くないよ。 作業工程は…
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