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第六十二話 人見知り

「しかも、使者としてお見えになるのは、シーズ・ユーティン様……あなたの兄にあたる方です」


クレイリーファラーズの声で俺は現実に引き戻される。そんな俺の様子を見ながら、彼女はさらに言葉を続ける。


「手紙には、国内の農作物が壊滅的なダメージを受けており、このままでは国中で飢饉が発生してしまう。そのために、各家々に備蓄してある食料を徴収すると勅命が下ったとありました。だが、ユーティン家の領地でも凶作で、王の勅命に答えることはできない。幸い、ラッツ村は豊作であり、しかも、今年の収穫で豊作であったのはこのラッツ村他、4つしかなかったとのことです。そのため、ノスヤ領で備蓄している農作物は豊富であろうから、是非、協力をして欲しい……そんな内容でした」


そこまで一気にしゃべって、彼女は、はあーと息を吐く。一体、何がどうなっているのかがわからず、俺は頭の中を必死で整理しようとする。そのとき、隣にいたハウオウルが小さな声で呟いた。


「まあ、そうなるじゃろうな」


「どういうことです?」


「凶作になった場合、国王は家来たちから徴収を行うのはよくある話じゃ。だが、ご領主も聞いたじゃろうが、今年の国内での農作物は壊滅的な被害を受けておる。そのため、領主に年貢を納められなかった者が多くいる。それは、国王の直轄地も例外ではない。おそらく、王の徴収に応えられぬ家も多かろう。じゃが、この村は違う。記録的な豊作じゃった。ユーティン子爵家としては、この村の作物を献上することで、王の覚えをめでたくなるようにしようとしておるのじゃよ」


「……なんだか、釈然としませんね」


そう言いながら俺は椅子から立ち上がり、部屋を出てダイニングに向かう。ハウオウルも俺の後をついてきたが、彼は、全ての収穫物を差し出すことはないが、ある程度のものを差し出せば、本家の覚えもめでたくなるとアドバイスして帰っていった。


俺は椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐く。確かに、収穫物は大量にある。何しろ、三年分の収穫物がテルヴィーニに入っているのだ。その中の一部を差し出すのは別に構わないと思う。俺が一番憂鬱なのは、本家の人間が来るという点だ。俺は本家の人間を知らない。兄とはいえ、会ったことがないからだ。どんな話をすればいいのか、果たして話をすることができるのか? 相手は家族なのだ。家族の話になれば俺は付いていけない。色々とヤバイことが起こるんじゃないか……そんなことを考えていると、どんどん鬱になってくる。


「何を悩んでいるのですか?」


いつもと変わらぬ口調で、クレイリーファラーズが話しかけてくる。俺は面倒くさそうに彼女を睨み、ため息をついた。


「いや、兄が来るのでしょう? 俺は兄と名乗る人物に会ったことはありませんし、その……何て話していいのかわかりませんし……両親や兄弟のこととか……知らない中で話をすると、怪しまれませんか? そんなことを考えているから、頭が痛いのですよ」


「え? そこ? そこですか?」


クレイリーファラーズが頓狂な声を上げる。バカにしていやがるのか? 俺は思わず舌打ちをする。


「私はてっきり、収穫物が取られるのを悲しんでいるのかと思っていました」


「何で? 別に全部出すわけじゃないでしょ? テルヴィーニに仕舞ってある収穫物を少々、地下の倉庫に入れておいて、それを持って帰ってもらえばいいだけでしょ? そんなの、全然ですよ。どうぞどうぞ、です」


「何を言っているんですかぁ!」


彼女はカッと目を見開いて怒りをあらわにする。その様子に俺はビクッとなり、側に居たワオンも、同じように体を震わせている。


「収穫物の中には、おイモがあるのですよ! あと、タンラの実も、ソメスの実もあるのです! それらは絶対に渡してはいけませんからね! それに……ジャガイモ、お米、小麦……。何だか、苦労して育てて収穫したものを、他人に、タダで、渡さなければいけないって……悲しくなりませんか? 嫌だわ、本当に、嫌だわ!」


顔を振りながら、まるで舞台の上でセリフを言うように、遠くを見つめているクレイリーファラーズ。いつものことだが、イラっとする。苦労して育てて収穫って、お前は何もしていないだろう……。そんな俺の様子を察してか、彼女はチラリと俺に視線を移すと、ため息を吐きながら言葉を続ける。


「心配することはありません。どうせ、国王の勅使も一緒に来るのです。兄弟の再会を喜んでいる暇はないと思いますよ? おそらく、事務的に作物を徴収して帰るだけですよ。私? 私は姿を消せますし、別に見られても構いません。ええ、家庭教師と言えばいいのです。 何を教えているかって? ほら、それ……あれですよ、あれ。行儀作法とか……。その辺は自分で考えてください。念のため、あのスケベジジイも呼んでおけばいいんじゃないですか? 何とかするでしょう」


「ところで、さっきから気になっていたんだけれど……」


「えっ? 何ですか?」


「俺宛の手紙ですよね? そこまで詳しく知っているってことは、黙って開封して読んだってことですよね?」


「あ……いや……その……気になるじゃないですかー。本家からの手紙ですよぉー? こんな田舎に追放……じゃない、追いやられた人の所に、わざわざ本家が手紙を寄こすのですよ? そりゃ、読みたくなるじゃないですかー。ごめんなさい、もうしません。今回は、思わず読んじゃいました、テヘペロ」


彼女は目をぎゅっと閉じて、ペロッと舌を出し、首をカクンと傾けてみせた。


その直後、俺の怒号が屋敷中に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局終始クレイリーファラーズに八つ当たりしているだけじゃん・・・ なんなのこの主人公
[一言] 「確かに、収穫物は大量にある。何しろ、三年分の収穫物がテルヴィーニに入っているのだ。その中の一部を差し出すのは別に構わないと思う。」 どうして一部を差し出せば納得すると思うのか、楽観的過ぎ…
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